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ビデオショップ・カリフォルニア

2019.12.24 更新 ツイート

『ビデオショップ・カリフォルニア』ためしよみ第2回

コンビニバイト中にお客さんと腕相撲して、クビ!?木下半太

悪夢のエレベーター』『悪夢の観覧車』などの悪夢シリーズで人気の木下半太さんの新刊が出ました。
タイトルは『ビデオショップ・カリフォルニア』
二十歳のフリーター竜が、新しいバイト先に選んだレンタルビデオ店を舞台に、恋に裏切りに復讐に……。

竜は、コンビニでバイトしてのだが、クビに。その理由はお客さんとの大ゲンカ!

*   *   *

(写真:iStock.com/dolgachov)

ドラゴンと腕相撲

おれの名は桃田竜(ももたりゅう)。

カワイイのかイカツイのかよくわからない名前だ。

名付け親は祖母。

小学生のとき、祖母に名付けの理由を訊いたことがある。

「藤波辰爾(ふじなみたつみ)が好きやったんよ」

祖母の答えに愕然とした。いくら藤波のアダ名が「ドラゴン」だからって。せめて坂本竜馬にしてくれよ、と子供心に思った。一生背負っていかなければならない名前を、プロレスラーから取らなくてもいいじゃないか。

祖母はプロレスの大ファンだ。プロレスの時間になると、テレビの前を陣取って煎茶を飲みながら、流血するレスラーたちをニコニコと観ていた。

「ドラゴン・スープレックスが好きやったんよ」

プロレスに詳しくないおれは、それがどんな技かは知らない。とりあえず、祖母には「カッコイイ名前つけてくれてありがとう」とお礼を言った。

おれは今年で二十歳になる。フリーターだ。コンビニでバイトしている。

阪急総持寺駅を出ると、赤と白のボーダー柄の細長い塔が見える。《フジテック》というエレベーター会社の塔だ。その塔のふもとに、おれがバイトをしているコンビニがある。

今日、そこをクビになった。

デグが客と喧嘩をしたのだ。

おれの勤務時間は深夜で、しかも一人体制だった。本来ならコンビニの深夜勤務は二人で入らなければならないが、人件費カットのため、一人で働かされていた。

おれは「怪しい客が来たらどうするんですか?」と店長に訊いたことがある。

「一人しかいないと悟られるな」と、店長は真顔で答えた。「怪しい奴が来たら、さも事務所に誰かいるような芝居をしろ」

店長は実際、見本をやってみせてくれた。レジカウンターの中に入り、「桃田さーん、そろそろ仮眠から起きてくださいよー」と、無人の事務所に向かって一人芝居をした。

不安もあったが、仕事は楽だった。眠気にさえ打ち勝てれば、自分のペースでやれる。廃棄の弁当も食べ放題、エロ本も読み放題だ。だから、デグも暇さえあれば、おれの勤務時間に遊びにきていた。

今日もおれたちは事務所の中でタバコを吸いながら、エロ本を読み、どうでもいいことをくっちゃべっていた。

ちょうど、この前のテレクラ事件の話で馬鹿笑いをしているとき、店内から男の怒鳴り声が聞こえた。

「なに、笑っとんじゃ! こらっ!」

しまった。話に夢中になりすぎて、客が来ているのに気づかなかった。

おれは慌ててレジカウンターへと出て行った。

「今、俺のこと笑っとったやろ!」男がおれの胸倉を掴む。

酒臭い。かなり酔っぱらっている。スーツ姿のサラリーマンだ。

「笑ってませんよ。他のスタッフと世間話をしてただけですよ」おれは営業スマイルで応対し、カウンターの外に出た。

「嘘つけ! 防犯カメラ見て笑っとったやろ!」サラリーマンがおれのみぞおちに膝蹴りを入れた。

まともに食らった。自慢じゃないけどおれは喧嘩が弱い。学生のときも不良たちの後ろに隠れて粋がっているタイプだった。

おれは呼吸ができず、おにぎりコーナーの前でうずくまった。

「ちょっと、何してるんですか?」デグが事務所から顔を出し、おれの隣に立つ。

「お前も笑ってたやろ?」サラリーマンがデグにも掴みかかろうとする。

「警察呼びますよ」

サラリーマンが一瞬怯んだ。「なんで警察が出てくんねん! 悪いのはお前らやろが!」

「……デグ……ええから」おれはヨロヨロと立ち上がって、デグを事務所に押しこもうとした。

「よくないやろ!」サラリーマンが、おれたちの間に割って入ろうとする。「俺はな、お前らみたいな奴らが一番ムカつくんじゃ! 社会をナメやがって!」

「社会は関係ないでしょ? こうしてちゃんと働いてるじゃないですか?」ここで働いてるわけじゃないデグが、言い返す。

「どこがやねん! ちゃんと就職してから言えや!」

「わかりました。こうしましょう」デグが、サラリーマンの両肩を掴んで押し返した。元バスケット部のデグは身長が百八十センチある。細身だが力も強い。

「な、なんやねん」

こういうときのデグは、いつもとんでもないことを言い出す。

「腕相撲で決着をつけましょう」デグが、サラリーマンをレジカウンターまで引きずってきた。

「は? お前何を言うとんのや?」

おれの言うことなど耳も貸さず、デグがおれの腕を引く。サラリーマンが戸惑っているのがわかる。

「リュウ、カウンターの中に入れ」

おれとサラリーマンは、レジカウンターを挟んで向かい合った。

「おれがやんの?」

「お前の喧嘩やろ」

「なんで腕相撲なんかせなアカンのじゃ! こらっ!」サラリーマンが怒鳴り散らす。今回ばかりは、サラリーマンと同感だ。

「傷害事件にしてもいいんですか? 困りますよね?」

「まあ……悪いの俺とちゃうけどな……」デグに言われて、サラリーマンが、ちょっと怯む。完全にデグのペースだ。

「オレは暴力が嫌いです。あなたに何があったのかも、ストレスを抱えているのかも知りませんが、オレたちに八つ当たりをするのはやめてください」デグが雄弁に語る。「ここは正々堂々と戦いましょう。勝っても負けても恨みっこなし。あなたが負けたら大人しく帰ってください」

「俺が勝ったら?」サラリーマンがジロリとデグを睨む。

「オレたち二人で土下座をします」

サラリーマンがニタリと笑った。「ホンマやな?」

「男に二言はありません」

おいおい、やるのはおれやぞ。正直、腕相撲には自信がない。

「やったろやんけ!」サラリーマンが上着を脱いだ。「元ラガーマンの意地を見せたろやんけ!」

よく見ると、サラリーマンはいいガタイをしていた。腹は出ているが、肩がガッシリしていて、腕も太い。

「かかってこいや!」サラリーマンが両足を開き、レジカウンターに右肘をついた。

おれは仕方なしに、サラリーマンの手を握り、腕相撲の形を取った。

「じゃあ、レディー」デグがサラリーマンの背後に廻りこむ。「ゴー!」

ガクッとサラリーマンの手から力が抜けた。呻き声を上げながら倒れこむ。

デグが、サラリーマンの股間を蹴ったのだ。

「な、なにやってんねん……」おれは、唖然とした。

「リュウ、逃げるぞ」デグが、走りだす。

自動ドアが開き、店の外へと飛び出していく。

「お、おい!」おれは制服姿のまま、思わず追いかけた。

「すまん! ついムカついてやってもうた!」デグが走りながら謝る。

「どこが、正々堂々やねん!」おれも走りながらツッコんだ。

一週間後、デグから電話があった。

『リュウ。バイトみつけたぞ』

「おう。よかったな。おめでと」

『オレちゃうわ。お前の仕事場やで』

「はあ?」おれはリモコンでエロビデオを止めた。

『お前がコンビニをクビになったんはオレのせいやからな』

デグは変なところで責任感がある男だ。

「職種は?」

『レンタルビデオ屋の店員』

「マジ?」テレビの画面は、島袋浩がOLの胸を揉もんだところで静止している。「……なんて店?」

『ビデオショップ・カリフォルニア』_

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二十歳のフリーター桃田竜がバイトするレンタルビデオ店は、映画マニアの天国。映画に は興味薄の竜も、悩殺ボディの同僚ができて桃色な日々。だが、東大進学した元カノがA V女優になって現れたり、店の乗っ取りの危機に遭ったり、さらには仲間の裏切りや失踪 まで、まさか尽くし! 情熱と衝動が止まらない、世紀末を駆け抜ける僕らの青春物語。

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ビデオショップ・カリフォルニア

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木下半太 作家/「劇団ニコルソンズ」主宰

1974年大阪府出身。主な著書に『悪夢のエレベーター』『悪夢の観覧車』などの「悪夢」シリーズは累計80万部の人気シリーズ。ほかにも、『宝探しトラジェディー』『オーシティ』『女王ゲーム』『アヒルキラー 新米刑事赤羽健吾の絶体絶命』『恋する音川家』『鈴木ごっこ』などがある。『悪夢のエレベーター』『悪夢のドライブ』『悪夢の六号室』『サンブンノイチ』『鈴木ごっこ』他、映像化作品も多数。

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