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復活力

2019.12.21 更新 ツイート

サンドウィッチマン史上最大のピンチ! M-1決勝の時、伊達はネタが飛んでいた! サンドウィッチマン

今年もM-1の季節です。
いまや国民的人気のサンドウィッチマンは、2007年のチャンピオン。
敗者復活からの大逆転劇を見せたわけですが、あの日までは、その名を知る人も少なく、焦燥の中にいました。
彼らの青春時代から震災後の近況までを綴った『復活力』(幻冬舎文庫)より、M-1で勝ち上がっていったあの「奇跡の瞬間」を公開します。

*   *   *
 

(撮影:関根虎洸 2007年

【富澤たけし】
ネタが飛んだ! ついにここで死んだ……と思った

「ピザのデリバリー」のすべりだしは、営業の舞台と同じ手ごたえだった。

遅れてきた配達人が「配達に行くかどうかで迷ってました」と言う頭のボケで、スタジオにドッと笑いが起きた。こうなったら、後は研究した通り。4分間での、最も効果的で笑いのとれる、デリバリー・M – 1バージョンを展開するだけだ。

今日はさすがに、伊達のアドリブのツッコミはない。「街頭アンケート」での「早くしろよ、焼きたてのメロンパン売り切れちまうだろ」といったツッコミなど、あいつが舞台上で思いついたネタもけっこうある。プッと笑わされるから、「アドリブはやめろ! ネタが飛んじゃうから!」と怒るんだけど、伊達は一向にやめる気配がない。まあ、結果的にネタが面白くなってるからいいのかもしれないけど、度が過ぎるようだと、もっと毅然と抗議しなきゃな。

アドリブもほどほどがちょうどいいんだ──と、ネタ中にぼんやり思っていたら。

「腹たつなぁ、お前。……ムカつくなぁ」

と、伊達がツッコミを、2回繰り返した。

ん!?

2回目の「ムカつくなぁ」は台本にない。

意識的に伊達の視線をずっと避けていたけど、その時パッと目が合った。

伊達が、目でSOSサインを送っている!

ヤバい! こいつ飛んでる! 次のネタが思い出せてない!!

(どうしよう……!!)

いきなり訪れた、緊急事態のトラブルだ。

そこまで何もかも順調だったから、僕もパニックだった。このくだりで、過去、ネタが飛んだことは一度もない。しかもネタが飛ぶのはだいたい、僕の方だった。それが、このときに限って、いきなり伊達に来た。

最悪なのは、伊達の「飛び」が瞬時に伝染して、その先のネタを僕も思い出せなかったことだ。

(マズい……!! フォローしてやれない!!)

脳の中はF1エンジンのようにフル回転した。

どうする!? ここのネタはカットするか、だとしたらどこから始める!?

あそこか、ここか!? いや、あのくだりだ!!

待て、それだとオチまで4分を切る!!

じゃあ、あのネタを代わりにさしこむか!?

ダメだ、その後の流れにつながらない!!

どうしたらいい!?

何か思いつけ!!

すると──伊達が。

「ふざけてんだろ、お前!」

と、フッとネタを思い出してくれた!

ホッとした……そこからは僕も気持ちを立て直して、「ピザのデリバリー」を順調に進めることができた。

焦った。本当に、ヤバかった。

このトラブルの間は、コンマ1秒、あるかないかだ。

たぶん見ている人は、僕と伊達がパニックになっているなんて、気づかなかっただろう。

でも僕は、本気で「あっ、死んだ……!!」と思った。ここまで上がってきて、憧れの場所で、夢だった漫才をやれて……ここで失敗するのか! と、膝をガックリつきそうだった。

もし伊達がネタを思い出さなかったら、あの後、ふたりで意識を失ったようにマイクの前に突っ立ってただろう。沈黙は1分か2分か……完璧な放送事故の映像だ。日本中のお笑いファンが見ている、視聴率20パーセントを超える番組で、そんなことをやらかしたら、芸人を強制引退させられても仕方ない。

あの一瞬のトラブルを楽しめるほど、僕の器はデカくない。全身の血液が急に冷水になったかのような、戦せん慄りつのトラブルだった︒大げさじゃなく33 年の人生が走馬灯のように脳裏をバーッと駆け巡った。

人生で初めて体感する最高の昂揚をくれたM – 1の決勝。

逆に、M – 1の真の怖さも、突きつけられた。

なめたら、大変な目にあうんだ……。

『M – 1グランプリ2007』の特典映像の密着ドキュメントで、このファイナル決勝の直後の、僕の映像が映っている。

舞台の袖で、膝に両手を置いて、大きくうつむいた後、泣きそうな顔で天を仰いでいた。

M – 1という舞台に棲す む、気まぐれな魔物と、気まぐれな女神の圧倒的な力に、ただ呆然としている、飾りのない素の表情だ。

 

【伊達みきお】
サンドウィッチマン史上、最大のピンチがネタ中に起きた!

「ピザのデリバリー」は、ピザを頼んだ客(伊達)とムカつく配達人(富澤)の応酬で繰り広げるネタだ。

配達時間に遅れてきた配達人が「行くかどうかで迷ってました」と言う頭のボケで、グッと場をつかんだ手ごたえを感じた。空気が、営業のときと同じ、確かなウェルカム感に変わった。よしよし、順調だなと思った。

「責任者(を呼べ)」という僕の言葉を「テクニシャン(を呼べ)……ですね」と聞き間違える富澤のボケに対して、「面白そうだな、待ってみようか」というツッコミは、僕のアドリブで生まれた。ドンとウケるし、けっこう気に入っている。ツッコミの部分は、富澤は基本的に空白にしてくれる。僕はそこに勝手にツッコミの言葉をはめていくんだけど、ネタの直前まで、何を言うかは富澤に教えない。舞台上で披露して、あいつをプッと笑わせたいからだ。

富澤は「ネタが飛んじゃうから、やめてくれ」っていつも言うんだけど、やめない。言ったら、つまんないから。あいつが舞台で笑うのが、こっちも楽しいし、追いこまれる顔を見るのも好きだ。よくそれで小さいケンカをしたよ。

あいつとはしょっちゅうケンカするけど、殴り合いになったことは一度もない。そこまで腹が立ったことがないんだ。もし何かがブチッとキレて、お互いに手を出し合ったら、そのときは解散だろう。でも、たぶんないような気がする。何でだろう、16歳のときから一緒に

いるからか、お互いに兄弟みたいな感覚かもしれない。兄弟だったらどんなにケンカしても、兄弟の関係はなくならないだろう? これを仲睦まじいコンビと言うのかどうかわからないけど。ともかく、漫才の相方としては誰よりも頼れる奴だ。

というようなことを、ぼんやりネタ中に思い出していたら。

ん、あれっ……。

あっ!?

ネタが――飛んだ!!

僕はこのとき、ネタを忘れてしまったんだ。

(次……何を言うんだっけ!?)

と。頭の中は沸騰してパニック。

富澤と目が合った。あいつも気づいたようだ。

(だ、大丈夫か!?)

と目が揺れた。富澤も、どうしていいかわかってなかった。

M – 1グランプリ決勝、ファイナル。生放送。ネタの大トリ。何台ものテレビカメラ。大御所の審査員の人たち──。いろんなプレッシャーが一気に、固まりになって僕にのしかかってきた。

やばい!? サンドウィッチマン、ここで、おしまいだ!!

と青くなりかけたとき。

神の救いがきた。

「ふ、ふざけてんだろお前!」

と、次のネタをフッと思い出したんだ。

ホッと息をついて、何とかネタを進めることができた。

この間、コンマ1秒ぐらいの出来事だけど、僕と富澤にしかわからなかった、サンドウィッチマンの史上最大のトラブルだった。

「ピザのデリバリー」でネタが飛んだことは、過去に一度もない。寝ながらでも暗唱できるようなネタだ。

なのに、あんなピンチに陥るとは。

これこそが、M – 1グランプリ決勝の怖さ、なんだろうと思った。

ネタが終わってから、感じたのは安堵感だけだった。

舞台を降りるとき、気づいたら両膝が、ガクガクと震えていた。

(つづく)

関連書籍

サンドウィッチマン『復活力』

強面だけど心優しいコンビとして国民的人気者の、青春時代の素顔とは?――安アパートで10年間、布団を並べて眠った。二人で舞台に出たら観客も二人だった。トイレには「みー君へ」と書かれた富澤から伊達へのメモが貼られていた。恋人も嫉妬する(!?)長〜蜜月!笑いを心底愛し、震災後の東北を支援し続ける二人の、バイタリティの原点。

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復活力

コワモテなのにカワイイ!?と、圧倒的人気を誇るサンドウィッチマン。
「一番好きな芸人1位」(2018.7月号「日経エンタテインメント!」)にも選ばれました。
しかし、彼らは、2007年のM-1グランプリで”奇跡の優勝”をするまでは、“知られてない芸人”でした。

今こそ、あらためて、サンドウィッチマンを知りたい!
そこでおススメなのが、こちらの新刊。
サンドウィッチマンの原点が、赤裸々な素顔が、ぎゅうぎゅうに詰まった一冊です。

宮城から夜行バスに乗って上京し、10年間ふたりで暮らした安アパート。
2人で舞台に出たら、観客も2人しかいなかったこと。
伊達が富澤に感じた”自殺”の気配。
ついに得たチャンス、M-1の決勝で「ネタがとんだ!」こと。
文庫版にのみ収録された、東日本大震災の復興への思い……

恋人も嫉妬する、甘~~い蜜月は、今も続いています。
最高にアツいエッセイの登場です!

バックナンバー

サンドウィッチマン

伊達みきお(ツッコミ担当)と富澤たけし(ボケ担当)によるお笑いコンビ。2007年M-1グランプリ王者。ともに1974年生まれ、仙台商業高等学校卒業。ラグビー部で一緒だった関係で、富澤が伊達を誘い、お笑いの道へ。2011年3月11日、気仙沼市でロケ中に、東日本大震災が発生。故郷でもある東北の復興のための活動も積極的に行う。みやぎ絆大使、東北楽天ゴールデンイーグルス応援大使、ベガルタ仙台市民後援会名誉会員、喜久福親善大使、宮城ラグビー親善大使、松島町観光親善大使、伊達(だて)美味(うま)PR大使、福島県伊達市・伊達なふるさと大使、みなと気仙沼大使。(撮影:関根虎洸)

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