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破壊者 ハカイモノ

2019.09.27 公開 ツイート

なぜ松浦勝人は豪邸を捨て「1LDK」に引っ越したのか? 松浦勝人

貸しレコード店のアルバイトからエイベックスを創業、そして上場……。芸能界のど真ん中で戦い続けてきた稀代の経営者、松浦勝人。著書『破壊者 ハカイモノ』は、彼の思考と哲学が凝縮された、読み応えのある一冊だ。ブームの裏側で、彼はどんなことを考えていたのか? そしてなぜ、ここまでの成功を収めることができたのか? ビジネスの真髄に迫った本書の一部をご紹介します。

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「本当に必要なもの」がわかってきた

自分をよく見せたい、大きく見せたい、そういう“見栄を張る”ということは、もうほとんどなくなってしまった。必要がなくなったからだ。

(写真:iStock.com/KatarzynaBialasiewicz)

昔の僕は何も持っていなかった。だから、高い時計も欲しかったし、速いクルマも欲しかった。大きな家も欲しかったし、お洒落な服も欲しかった。何もかもが欲しかった。何かを手に入れたいから頑張る。それは、ずっと僕のモチベーションにもなっていた。

それが、仕事がたまたまうまくいって、若い段階である程度のものを手に入れることができた。高い時計も、お洒落な洋服も、海外に別荘も買った。でも、ある程度のところで、自分に本当に必要なものが何か、というのがわかるようになってきた

何百坪もある広い家に住んでいたこともある。でも、全然必要じゃなかった。何かを取りに行くだけでも、わざわざ歩いて、別の部屋まで行かなければならない。ありえない額の光熱費の請求がきて、いつもどこかの部屋の掃除をしている。「携帯電話をどこに置いたんだっけ?」と年中、ものを探し回っていた。

部屋もやたらにたくさんあるから、家具を入れて、ゲストが泊まれるようにしたけど、結局最後までなんのためだかわからないままの部屋もあった。

そのあと、どうせひとりで暮らすのだから、小さなマンションでいいと思って、1LDKに住んでみた。40平米ぐらいの、ごく標準的な広さの1LDKだ。仕事の都合で、立地やセキュリティ、プライバシーは考慮したので、家賃は少し高めだったけど、それでも驚くような値段でもない部屋。

そこは本当に便利だなと思った。必要なものにすぐ手が届く。ソファから立って、数歩踏みだすだけで冷蔵庫に手が届くし、座ったまま、必要なものすべてに手が届く。「これで十分」というのではなく「これが一番使いやすい」という感覚。

広い家に住んだこともないのに、1LDKが一番いいとか、フェラーリに乗ったこともないのに、フェラーリなんていらないとか言うのとはちょっと違う。すべてやってみた結果、1LDKが一番いいというところに行き着いた。

振り幅が大きかった僕の人生

他人が見栄を張っている姿を見て、かっこいいことだとは思わない。でもそれを強く否定するような気持ちもない。それがその人の自分をアピールする方法なんだなと思うだけ。

(写真:iStock.com/EpicStockMedia)

その点では、僕はものすごく恵まれてきたと思っている。自分がどういう人間で、どういう仕事をしているのか、いちいち説明する必要がなかったから。音楽に関わる仕事をやってきて、それは本当に幸せなことだったと思う。

30歳以上の人だったら、浜崎あゆみや倖田來未を、多分いくつになっても忘れないだろう。70歳、80歳になって、記憶力が衰えても、きっと音楽を聴けば思いだすはずだ。

人生の最も多感な時期に、心にグサッと刺さった音楽は一生忘れない。その人の人生、経験、そして時代に根づいた特別な記憶になっている。僕はそういう仕事をしている。音楽があるから、僕自身は、見栄を張って、自分を大きく見せる必要があまりなかった。

こういう仕事に関われたことは、どんな仕事で成功するよりもよかったと思う。他の仕事で、今の10倍お金持ちになれたとしても、こっちのほうがよかったと僕は思っている。ま、世の中には、僕より何十倍もお金持ちの経営者がたくさんいるから、負け惜しみでそう言っている部分がなくもないんだけど(笑)。

この仕事は全然安定していない。会社も、僕の人生も、上がったり下がったりがとても激しい。だから、他の経営者を見ていて、安定していていいなといつも思う。僕みたいに上がったり下がったりしていると、いつも不安の中にいなければならない。

一方で、安定していたらつまらないだろうなとも思う。僕の今までの生活は、いい時と悪い時の振り幅が大きすぎて、摩擦が起きて、熱を発していた。その瞬間は本当に辛い、本当に疲れる。でも過ぎてしまえば、やっぱり僕は絶対にこっちがいい

「幸せな人生だったのか」と問われると、それはよくわからない。仕事だけじゃなくて、家族のこととか、人間関係とか、そういうのも含めて人生だから。それに、これからだって、きっと上がったり下がったりを繰り返していくのだろう。それを考えると怖くなる。でも、僕は、そうじゃなければ退屈なんだろうなと思う。

僕の仕事は毎日がイベント。いいことも、悪いことも、毎日何かが必ず起きる。きっと“普通の感覚”ではないのかもしれないけど、そういう毎日が僕にとっては幸せなことなんだと思う。

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松浦勝人

1964年神奈川県生まれ。エイベックス株式会社代表取締役会長CEO。1983年日本大学経済学部に入学し、1985年貸レコード店「友&愛」にアルバイトとして入る。1986年に(株)ミニマックスを設立。代表取締役になり、「友&愛」上大岡店の経営を行う。1988年エイベックス・ディー・ディー(株)を東京都町田市に設立し、レコード輸入卸販売業を始める。1990年に自社音楽レーベル「avex trax」を設立し、「JULIANA’S TOKYO」CDシリーズなど様々なダンスコンピレーションアルバムを発売。

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