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警察用語の基礎知識

2019.07.09 更新 ツイート

知っておきたい“職質”のルール古野まほろ

突然ですが、あなたは歩いているときや自転車に乗っているときなど、警察官にショクシツ(職質/職務質問)されたことはありますか?

突然制服を着た警察官に声をかけられると、びっくりして緊張したり、面倒だなあ、などと思ってしまうものですが、逆にTVのドキュメンタリー番組やドラマなどでは、不審者に粘り強く食らいつく警察官を頼もしく感じる方も多いのではないでしょうか。

元警察官でありキャリア官僚であったミステリ作家の古野まほろさんが、ドラマや映画でよく耳にする警察用語を易しく解説する幻冬舎新書『警察用語の基礎知識』。「警察モノ」ファンのみならず、警察官志望者、警察エンタメの作者にもおススメの本書より、このショクシツに関する部分をピックアップしました。(幻冬舎plus・柳生一真)

※なお、記事とするに当たり、太字化、改行、省略などの大幅な編集を行いましたので、著者の原稿とは異なる部分があり、その編集による文責は幻冬舎にあります。

職質はどこまでも任意

(写真:PIXTA/mits)

警察という行政権(の一員)は強制活動を行う。それには法律の根拠がいる。また強制活動の1ジャンルが強制捜査である。強制捜査には逮捕、捜索、差押え、検証、通信傍受等がある──書籍『警察用語の基礎知識』の第1章ではそんな話をしています。

ここで、これら強制捜査については、ドラマでるとおり、司法権(=裁判所)の事前チェックがあります。すなわち、これらの強制捜査をするときは、事前に裁判官にお願いして、令状──業界用語でいうオフダを頂戴しなければなりません

 

イメージとしては、裁判官は決裁権者・査定権者で、警察官がしてくる「令状請求」(レイセイ)を自由に審査して、いくらでも駄目出しできます。

オフダを出すのはあくまで裁判官で、これすなわち、キョウセイでやってよいと許可を出すのは裁判官ですから、世間一般でまことしやかに言われているように、この裁判官の審査はザルではありません(もちろん、裁判官とはいえ人間のやることなので、厳しい厳しくないの別などはどうしても生まれますが……)。

(中略)

ところが、警察官が街頭で行う「職務質問」(業界用語でバンバンカケショクショクシツ)となると、それはまさに現場における臨機応変のハンティングですから、事前の令状審査も何もありません

ゆえに、シナリオの展開によっては、様々な人間ドラマを引き起こします。

バッグの中身を見せる見せないで1時間の口論になるとか、あるいは相手方が自動車の中に6時間ろうじようしてしまったなる事例も、めずらしくはありません。

 

職務質問がそのようにドラマティックになるのは、これが飽くまでも任意活動だからです。

ニンイであるということは、強制活動になってはならないということ。キョウセイにならないようにするということは、要は「相手方の権利を侵害しない、新たに義務を課さない」「その自発的な協力によって目的を達成する」──ということです。

ゆえに、警察官は職質対象者の体に触れませんし(自由意思の抑圧になる)、職質対象者の荷物を勝手に開けませんし(強制捜査であるガサ、しかもオフダのない悪質ガサになる)、職質対象者を包囲して身動きとれない状態にすることもありません(強制捜査である逮捕になってしまったり、監禁罪等が成立してしまう)。

警察官にとってのキモ

(写真:iStock.com/TokioMarineLife)

このように、警察官というプレイヤーは、キョウセイになってはならないという大原則によって腕を縛られているわけですが(ニンイセイの確保)、そうはいっても、職質という活動は法律上──警察官職務執行法第2条──まずは「不審者」について実施する活動ですから、そこでは治安のプロとしての確固たる責任感が必要となってきます。

 

ゆえに例えば、ティッシュを受け取ってもらえなかった通行人を素通りさせるようなノリではいけません(その見逃しがきっかけで、街頭において、通り魔による大量殺人が発生したらどうするのでしょう。被害者の方々にお詫びしてもお詫びしきれないのは当然ですが、「警察官の見逃し」そのものが裁判所に違法とされ、賠償責任が発生することもナチュラルにあります)。

すなわち、職質は主として、警職法第2条に規定する「不審者」に狙いを定めて開始するので、その不審点が解明されるまでは/その不審点がいよいよ検挙レベルまで高まるのを確認できるまでは、相手方から離れるわけにはゆきません

すると、警察官にとっては、ニンイセイを確保しつつも不審者を「どう逃さないか」がキモとなります。

 

他方で、職質を受けた人にとっては、この人が本当に犯罪者であればニンイであることを強調しつつ「どう逃げるか」がキモになるし、あるいはこの人が全くの、善良な市民の方であれば、「面倒くさいし、疑われているようで不快だから、さてニンイであることを強調して突っぱねるか、それともとっとと終わらせるか……」という判断の問題が出てきます。

ここに人間ドラマが生まれない方が不思議でしょう。

 

なお、職質は任意活動ながら、このようににわたりますので、前述のとおり法律の明文の根拠があります(法律の根拠が必要なのは強制活動のはずだけれど、重要な任意活動についてもまた、警察官の腕を縛っておく必要があるため)。

また、その警職法第2条に規定されているとおり、職質の対象となるのは、前述の「不審者」だけでなく、既に行われた犯罪について何か知っているなどの「参考人的立場にある方」もまた対象となりますので、警察官が職質を仕掛けてきたからといって、全てが全て、相手方を犯罪者扱いしているわけではありません。

 

すなわち、職質をされたからといって、全てが全て「ワルイヤツだと思われている」わけでは絶対にありません。

そこは御了承ください(そして口論になってしまってはどちらにもメリットはありませんが、自分が「不審者」カテゴリとして見られているのか、「参考人的立場にある者」カテゴリとして見られているのかは、当然、確認してよいことです。職務質問の根拠というか、根幹にかかわることだからです)。

(中略)

任意同行の人間ドラマ

(写真:PIXTA/mits)

任意同行──業界用語でニンドウ──というからには任意活動で、したがって当然、個人の権利義務を変動させないもの、個人の自由意思による自発的な協力によって行われるものです。

ただこれも、やはり捜査をする側としては、警察署なり交番なりに来てもらうのが目的ですから、来てくれないとなれば、そのために必死の、あるいは粘り強い説得をするものですし、それを求められた個人の側としては、権利義務が変動しないとはいえ負担にもなれば不安でもあるし、やはり「恐い」ものですから、どのように説得を受けようとも、ニンイであるならば応じられないとする人も少なくないでしょう(「どうしてもというなら逮捕状を持ってこい!!」)。

ここにまた、不謹慎ながら小説のような、ドラマティックな人間ドラマが生まれます。

 

このニンドウで、読者の方にとって最も身近なのは、職務質問の際のニンドウでしょう。

既に述べたように、職務質問は捜査ではありませんが(捜査のタンチョを得る活動)、よってこのときの任意同行もまた捜査ではないのですが──職質の根拠となる警職法第2条が、職質の対象となった人について、警察署・交番等にニンドウを求めることができる旨を定めています。

これはニンイですから「法律の根拠は必要ない」はずですが、警察にとっても個人にとっても重要な局面・重要な活動なので、例外的に──というか念押しで、どういうときに、どういうかたちでニンドウを求めることができるのか、警職法という法律が定めているわけです。

職質における「駆け引き」

(写真:iStock.com/zomby007)

さてこの警職法は、シンプルにいえば──職質によって、

(1)いわば公道でのさらものになってしまうのが対象の人にとって恥ずかしい・屈辱的だといった場合や、

(2)雨などの悪天候だから気の毒だといった場合、あるいは、

(3)ひとだかりができたり、車の往来が多くて危険だといった場合

において、職質時にニンドウを求めることを認めています(いわゆる同行要求)。

 

もちろん同行要求に応じないからといって、まさか逮捕されたり刑罰を科されたりすることはありません(だったらそれは任意活動でなく強制活動でしょう)。

そして警察官としても、正直多忙なわけで、片端から職質の相手方をニンドウしていたら仕事が回りません。ゆえに、職質時に警察官がニンドウを求めたとすれば、それは、相手方が前述の「不審者」であると認められるような「グレー度が高い場合」でしょう。

 

ゆえに、警察官は説得にある意味命懸けになり、それに比例して相手方もヒートアップしてゆくことが多いです。

ここで、警察官の目的は「職務質問の継続とグレー度の解明」ですから、この目的を達するため、どれだけ自分がカームダウンできるか/相手方をカームダウンできるかが、ポイントとなってきます。

*   *   *

任意同行(ニンドウ)にはこのほかに、取調べをすることを前提に行うニンドウもあります。職質、任意同行についてもっと詳しく知りたい方は、幻冬舎新書『警察用語の基礎知識』をご覧ください。

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関連書籍

古野まほろ『警察用語の基礎知識 事件・組織・隠語がわかる!!』

警察そのものへの好悪は別にして小説、映画、ドラマ…etc.と『警察モノ』は絶大な人気を誇る。本書は、それらとリアルな警察との橋渡しをするべく、元警察官でありキャリア警察官僚であった人気作家が、よく使われる言葉を、「事件」「警察関係者」「警察組織」「隠語」の4ジャンルに分け、虚実も含めて平易かつ正確にエッセイ形式で解説した。『警察モノ』ファンのみならず、警察官及び官僚志望者、警察エンタメの作者、現場での刑事訴訟法の活用を知りたい学生にも「警察というカイシャ」の実態がわかる画期的な警察読本。

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古野まほろ 小説家

東京大学法学部卒業。リヨン第三大学法学部修士課程修了。学位授与機構より学士(文学)。

警察庁I種警察官として警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務し、警察大学校主任教授にて退官。警察官僚として法学書多数。作家として有栖川有栖・綾辻行人両氏に師事。小説多数。

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