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前進する日もしない日も

2018.12.24 更新

ヘルシンキ イッタラのグラスを2つ買う益田ミリ

 眠る前や、朝の身支度の時などにホテルのテレビ見ていて感じたのは、

「フィンランド人、自宅紹介好きやなぁ~」

 である。テレビをつけると、たいていそういう番組がある。一般人のオシャレなおうちに芸能人らしき人たちが訪問し、各部屋を隅々まで見てまわった後、点数をつけるという番組も何度も見た。

 長い長い冬がある国だ。部屋にいることも多いはず。壁紙をビビットな色にしたり、花柄にしたり、少しでも明るい雰囲気にしようと工夫をしているのが伝わってくる。テレビから流れてくるフィンランド語はまったくわからないが、高得点をつけられて喜んでいるファミリーを見ているだけでも楽しかった。

 

 

 オシャレといえば、前日に行った「イッタラ&アラビア・デザインセンター」。イッタラはガラス、アラビアは陶磁器の会社。どちらもフィンランドの代表的な食器ブランドだが、どれもこれもオシャレである。

 工場見学もできるらしいのだが、行った日は土曜日で工場は休み。ショップは土日も空いているので、イッタラのグラスをふたつ買った。カステヘルミタンブラーというシリーズで、グラスの表面に水滴がびっしりついたようなイボイボのデザインが特徴である。日本で見たとき一個3千円近くして「高っ」とたまげたやつで、それがアウトレット価格で千円くらいだった。

 素敵だ。素敵すぎる。

 うちの食卓に合うだろうか?

 いや、そこは関係ない。アウトレットなのだ。「お得だった~」と、喜びながら普段使いすればよいのだ。実際、帰国後、今、この原稿をパソコンで打ちつつ、カステヘルミタンブラーに入ったアイスコーヒーを飲んでいるのだが、「お得だった~」と嬉しい。使ってみてわかったが、重さもほどよい。イボイボの手触りもよい。いいデザインは、どこで使ってもいいデザインだった。

 さて、5日目は午前中からヘルシンキ市立美術館へ。

 デイチケットを使い、トラムに乗ってカンピまで。ガイドブック片手に美術館を探すも、あるはず場所には巨大な映画館。美術館、つぶれちゃったのかな~と映画館の入り口をうろうろしていたら、その二階がヘルシンキ市立美術館だった。

 ここではトーベ・ヤンソンのフレスコ画が見られるらしく、それを楽しみに行ったのだが、開催中の企画展がおもしろかった。街や電車や地下鉄などの壁に、勝手に文字をペインティングする「グラフティ」の展覧会である。むろん、禁止されている行為であるが、それを撮影した写真や動画が美術館の空間に展示されていたのは圧巻だった。

 スプレーのペンキを、絵筆のように動かして電車に文字を描いていく若者たち。やられた側はたまったもんじゃないだろうが、観賞する側は、こんなふうにするのか~とついつい感心。そういえば、ポルヴォー観光を終え、ヘルシンキに戻るバスに乗り込むとき、バッグに大量のスプレー缶を持っている若者がいたっけ。「出動」だったのかもしれない。

 日曜日の美術館には小さい子を連れた家族連れも多く、「グラフティ」について、我が子にどう説明しているのだろうと興味がわく。ちなみに、ヘルシンキでは美術館は18歳未満は無料である。

 ヘルシンキ市庁舎の食堂のために描いたというトーベ・ヤンソンの2枚のフレスコ画は、二面の壁いっぱいに展示されていた。人物画なので「ムーミン」とは関係ないが、ムーミンが持つ暗さの部分に通ずるものがあった。

 子供のころ、テレビで観ていた「ムーミン」。楽しさの中に、ぼんやりと暗い淋しさがあった。

 冬は深い雪の中で冬眠するムーミン。放浪するスナフキンや、無言のニョロニョロ。

 ニョロニョロ……。あの細長いきのこのような生き物は、一体、なんなのか。

 ムーミン公式サイトにニョロニョロの説明があった。

 

「大きな群れで永遠にさまよい続ける、物言わぬ生き物。地平線を目指して旅をし、その旅は終わることがありません」

 

 ニョロニョロ、そうだったのか。きみたちは、永遠の旅をしておるのだな。

 わたしの旅にも、そして、わたしの人生にも終わりがある。必ずある。それもまた淋しいことであるなと、ニョロニョロたちは思うのかもしれない。

 

 

 

 

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前進する日もしない日も

仕事の打ち合わせ中、まったく違うことを考えてしまう。ひとり旅に出ても、相変わらず誰とも触れ合わない。無地の傘が欲しいのに、チェックの傘を買ってくる。〈やれやれ〉な大人に仕上がってきたけれど、人生について考えない日はない。そんな日々のアレコレ。

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益田ミリ イラストレーター

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に漫画「すーちゃん」シリーズ、『週末、森で』『きみの隣りで』『世界は終わらない』『今日の人生』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『泣き虫チエ子さん』などがある。またエッセイ『女という生きもの』『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』や、絵本『月火水木金銀土日 銀曜日はなにしよう?』(共著)など、ジャンルを超えて活躍する。最新刊は小説『一度だけ』。

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