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脳内麻薬

2018.12.10 更新 ツイート

快楽物質「ドーパミン」をコントロールして人生を変える中野信子

セックス、ギャンブル、アルコール、オンラインゲーム……人間はなぜ、これらをやめることができないのか? 鍵を握るのが、脳内物質「ドーパミン」だ。テレビなどでもおなじみの脳科学者、中野信子先生の『脳内麻薬――人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体』は、そんな不思議な脳のしくみに迫った一冊。ドーパミンの働きから、そのコントロール法まで、知的好奇心をくすぐる本書の一部を公開します。

これが「快感の源」だ

 私たちの脳が快楽を感じる直接の源となっている物質が、俗に「快楽物質」と呼ばれる「ドーパミン(Dopamine)」です。

iStock.com/sakkmesterke

 まだ完全に解明されたわけではありませんが、次のようなとき、ヒトの脳の中にはドーパミンが分泌されていることがわかっています。

 ・楽しいことをしているとき

 ・目的を達成したとき

 ・他人に褒められたとき

 ・新しい行動を始めようとするとき

 ・意欲的な、やる気が出た状態になっているとき

 ・好奇心が働いているとき

 ・恋愛感情やときめきを感じているとき

 ・セックスで興奮しているとき

 ・美味しいものを食べているとき

 このリストを見ると、なんだか、私たちの人生の良い部分すべてがドーパミンに関係しているようです。ドーパミンが「快楽物質」と呼ばれる理由がおわかりいただけるのではないでしょうか。

 難関大学の入学試験や、医師の国家試験に合格するために、多くの人が何年もの間、地道な努力を続けています。これはほかの動物には見られない、人間だけの特性ですよね。

 例えば、ライオンは2年間同じシマウマを追っかけまわしたりしません。猛禽類といわれるタカやワシも、一晩中同じネズミを付け狙ったりはしないのです。

 そもそも勉強や研究などという、目に見える直接的な報酬がない行為を地道にやり続けられるのは、人間だけなのです。

 このような努力を続けている人に「なんでそんなことをするの?」と尋ねると、時々思いがけない答えが返ってくることがあります。「楽しいから」「毎日やっているから苦にならない」などです。

 そう答えるタイプの人は、決して「いい格好」をしようとしてそう答えているのではなく、実際にそのように感じているのです。ここにもドーパミンが関与しています。

「頑張っている自分へのご褒美」であるドーパミンがうまく働いている限り、私たちの脳は頑張って何かを達成することに快楽を感じ、結果として、程度の差はありますが、努力を続けることができるのです。

たった1年で東大に合格するには

 三田紀房さんの漫画『ドラゴン桜』は、1年で東大に合格する勉強法を扱った作品ですが、その中に面白いシーンがあります。

iStock.com/hanapon1002

 主人公の教師が生徒に勉強する習慣を身につけることについての説明をしているのですが、そのときの彼の言葉は「歯を磨かないと気持ちが悪くて寝られないだろ? それと一緒だ。勉強しないと気持ちが悪いと感じるようになれ。そうすれば勉強することは特別じゃなく日常の習慣になる」というものです。

 これは「努力とご褒美の習慣化」ということをうまく言い表していると思います。勉強に限らず、スポーツジムで鍛錬するとか、ひと月にいくらか貯金するとかいった長期間の努力を要する作業は、たいてい始めるときが一番困難です。

 私たちの脳が「努力とその結果与えられるご褒美」を覚える、つまり習慣づけてしまえば次第に楽になり、最後は特に苦しいとは思わなくなるのです。

 私たちはドーパミンの助けで個体としての生をまっとうし、種としての生を存続させているといっても過言ではありません。

 もちろん、一化学物質であるドーパミンが、意志を持って私たちを操るわけではありません。しかし、私たちの大脳は、中脳から送られてくるこの物質の助けなしには、物事を決めたり、繰り返し実行したりすることができないしくみになっているのです。

 ドーパミンは前頭前野を興奮させ、意欲的にさせる物質ですから、大量に分泌されると過剰な興奮が生じます。その結果以下のような症状が起きると考えられています。

(1)興奮状態になり、時には攻撃的になる

(2)アルコールやタバコの依存症や過食など、ある種の行動がやめられなくなる

(3)幻覚を見たり、妄想を抱いたりする(統合失調症)

 依存症については第2、3章で詳しく扱いますが、重要なことは、依存症は決して心の弱さといったものが原因ではなく、脳内の物質の異常から来る病気であるということです。

 一方、ドーパミンが不足すると、例えば次のような症状をもたらします。

(1)意欲や興味、好奇心などが減退し、無気力な状態になる

(2)パーキンソン病(第2章で詳述)

 また、うつ病のように、ドーパミンとの関係が疑われている病気もあります。

 私たちがこのような事態を避け、自分へのご褒美である快楽物質をコントロールするためには、これらの病気のしくみを詳しく知る必要があります。

◇ ◇ ◇

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中野信子 脳科学者

一九七五年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて、博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。現在、東日本国際大学教授。著書に『脳内麻薬』、『ヒトは「いじめ」をやめられない』『サイコパス』などがある。テレビ番組のコメンテーターとしても活動中。

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