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理系あるある

2018.12.08 更新 ツイート

液体窒素でバナナを凍らせる 小谷太郎

ナンバープレートの4桁が「素数」だと嬉しくなる、花火を見れば「炎色反応」について語りだす、液体窒素でバナナを凍らせる、疑似科学に厳しい……。物理学者、小谷太郎さんの著書『理系あるある』は、理系の人なら身に覚えがありそうな行動や習性が満載。文系の人も、これで理系の人の気持ちがわかるかも? 楽しく読めて、おまけに科学の知識も身につく、一冊で二度おいしい本書の一部をお届けします。

身近で使われている液体窒素

 家庭ではあまり目にしませんが、食品工場や化学工場、病院、その他多くの生産現場で、「液体窒素」なるものが冷却材として広く使われています。大学でも実験室や学生実験でしばしば使われるので、多くの理系の人々にとってなじみ深い物質です。

iStock.com/Joaquin Corbalan

 窒素は空気の80%を占める成分で、ありふれたことこのうえない気体です。無色無臭無味で、存在を主張することはほとんどありません。目立たないことを「空気のような」と形容することがありますが、あれはつまり「窒素のような」といっているわけです。

 窒素を冷却すると体積が縮みます。もっともっと冷却すると、-196℃で液体になってしまいます。液体窒素です。

 液体窒素をコップに汲むと、ふつふつぽこぽこ沸騰します。沸騰といっても熱いわけではなく、-196℃を保っています。沸騰する水の温度が100℃であるように、沸騰する液体窒素の温度は-196℃なのです。

 コップの側面には空気中の水分が凝固して霜がつき、あたりの空気が冷却されて白い霧が生じます。素手で触ると凍傷になるおそれがあるので触ってはいけません。液体窒素は無色無臭ですが、無味かどうか確かめるのはお勧めできません。

 液体窒素にはさまざまな用途があります。まず第一に、冷凍保存です。-196℃の液体をかけると、物はたちまちかちこちに凍りつきます。

 食材をゆっくり凍らせると、細胞内部に氷の結晶が成長して細胞を壊し、これが食品の味を劣化させるといわれます。しかし食材を急速に冷凍させると、氷の結晶が大きくならず、そのため味がさほど変わりません。液体窒素は味を落とさずに冷凍食品を作れるのです。

 食材を冷凍するのは冷凍食品を製造するためだけではありません。フリーズドライと呼ばれる乾燥法は、食材を冷凍させ、次に容器の空気を抜くことによってその氷を気化し、食材の水分を除去します。加熱しないので熱による変質がありません。インスタントコーヒーや即席ラーメンのスープはこの手法で製造します

 液体窒素は食品工場でこうした食材の加工に活躍しているわけです。ただし、液体窒素でなく、ドライアイスや冷凍庫の強力なものが使われることも多いです。

 実験室や研究室でも、液体窒素はよく使われます。医学試料や研究試料の中には厳しい保存条件を要求するものもあります。ある種の放射線検出器用半導体も常温保存できません。そういう試料は液体窒素の入った大きな魔法瓶(デュワー瓶といいます)の中に漬けておきます。

 また、極超低温での物質の性質を研究するには、物質を液体窒素温度などよりもっとずっと低温に冷やして、-273.15℃近くまで冷却する必要があります。物質を冷やしていくと、-273.15℃で熱のエネルギーはゼロになります。これより低い温度は実現不能です。

 -273.15℃近くまで冷却するには工夫された冷却装置が必要ですが、そういう極超冷却装置の中には、いわば予備冷却のために液体窒素を使うものがあります。

何でもかちこちに凍る!

 このように、物理学、生物学、医学、工学、化学、その他多くの分野のさまざまな実験において、液体窒素は広く使われています。将来の研究の練習として、学生実験でも液体窒素をあつかうことはしばしばです

iStock.com/OLEKSANDR PEREPELYTSIA

 そういう理由で、実験室や研究室には液体窒素を入れる大小のデュワー瓶が転がっています。小さなものはコップくらい、大きなものは人の背くらいあります。

 液体窒素を使いきってデュワー瓶が空になると、研究棟の外の大きな液体窒素タンクまで運びます。タンクのバルブを開くと、沸騰する液体窒素が猛然と噴出し、デュワー瓶を満たします。手が冷えきった金属に触れると、張り付いたり、凍傷事故のおそれがあるので、厚い革手袋をはめて行なう規則になっています。

 大きなデュワー瓶だと、満タンになるまで時間がかかります。足下には液体窒素のしずくがしたたり、冷えたバルブには霜がつきます。この作業は必ず戸外で行ないますが、デュワー瓶が満たされるのを待っているのは冬だとこごえる作業です。

 実験材料の液体窒素はまた面白いおもちゃでもあります。液体窒素を使って実験したことのある人は、たいてい液体窒素で遊んだ経験もあります。

 液体窒素の容器に放り込むと、何でもかちこちに凍ります

 くしゃくしゃに丸めたティッシュはそのままの形で凍り、叩くと砕けます。消しゴムも同様です。

 プラスチックなど、収縮に耐えられないものは割れたり壊れたりします。

 風船は激しく縮みながら凍り、あたためると元に戻ります。

 バナナは釘が打てるほど硬く凍りつきます。口に入れてはいけません。

 アイスは歯が立たない硬さになります。口に入れてはいけません。

 その他研究室にある食べ物やお菓子は全て実験の対象になります。繰り返しますが、液体窒素温度のものを口に入れてはいけません。

 最後に筆者の学部生のときの思い出ですが、余った液体窒素を排水孔に流してパイプを壊したことをこの場を借りて懺悔しておきます。M先生、すみません。

 

関連書籍

小谷太郎『理系あるある』

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小谷太郎

博士(理学)。専門は宇宙物理学と観測装置開発。1967年、東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センター、東京工業大学、早稲田大学などの研究員を経て国際基督教大学ほかで教鞭を執るかたわら、科学のおもしろさを一般に広く伝える著作活動を展開している。『宇宙はどこまでわかっているのか』『言ってはいけない宇宙論』『理系あるある』『図解 見れば見るほど面白い「くらべる」雑学』、訳書『ゾンビ 対 数学』など著書多数。

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