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シャーデンフロイデ

2018.09.25 更新 ツイート

SNSの「いいね!」は性行為より快感だった中野信子

「シャーデンフロイデ」、それは他人を引きずり下ろしたときに生まれる快感のこと。インターネットやテレビのワイドショーなどで、最近よく見かける光景かもしれませんね。

 脳科学者の中野信子さんは、この行動が脳内物質「オキシトシン」と深く関わっていると分析します。なぜ人は「妬み」という感情をおぼえ、他人の不幸を喜ぶのか? その謎に迫った『シャーデンフロイデ』より、一部を抜粋してお届けします。

iStock.com/artursfoto

「承認欲求ジャンキー」とは

 仕事が忙しいにもかかわらず、自分のフェイスブックへの反応が気になってしかたがないという30代の男性がいます。

 彼は、外出中やランチタイムにたびたび自分の記事にチェックを入れ、「いいね!」が少なければがっかりし、なにか批判的なコメントでも書き込まれていようものなら、落ち込んで仕事も手につかなくなるといいます。

 だったら、記事をアップするのをやめてしまえばいいのに、それもできないのです。まるで承認が欲しくてたまらない重症の中毒患者のように見えます。

 また、ひと頃、「バカッター」などと呼ばれて、一般的な良識の範囲から逸脱した写真や動画を投稿することで、多くの人の注目を集めようとする人が続出しました。

 コンビニでアイスクリームを販売するためのケースに横になった写真を投稿したり、売り物のおでんをつんつんとつつき、それを「けしからん」と攻撃するであろう人の姿をおそらく想像して、楽しげにその行為を続ける姿を動画にとって投稿したりした人たちのことです。この人たちこそ、「承認欲求ジャンキー」の典型と言えるかもしれません。

ストレスの高い人ほど承認を求める

 こういった人々が、かなりのコストをかけてまで、認めてもらいたがるのは、なぜなのでしょうか。

 ラットを使った、薬物依存に関する実験があります。ラットパーク実験、と呼ばれるものです。もしかしたら、この実験結果が、承認欲求ジャンキーたちの振る舞いを読み解くヒントになるかもしれません。

 ラットを狭いかごに入れたままにして、モルヒネ入りの水を用意しておくと、その水をどんどん飲むようになります。

 ところが、ラットパークと名付けられた広々として遊び場もたくさんある飼育環境でオス・メス混ぜた状態にしておくと、モルヒネ入りの水があっても飲まないのです。

 この実験におけるラットパークは、言ってみれば「リア充の楽園」です。そこにいるラットは、普段から満たされており、特にモルヒネ入りの水を飲んで快感を得ようとしなくても、充分に楽しい暮らしをしているために、あえて薬物による効果を必要とはしなかったのです。

 ようするに、ストレスが少ない状態であれば、刺激的な快感は必要ない。けれども、何らかの要因によりストレスが高まった状態になると、刺激的な快感を得ようとして、その中毒になってしまう可能性が出てくるということになるでしょう。

すべては「ドーパミン」のしわざ

 承認欲求を満たす行為は非常に快感が大きく、性行為と同等あるいはそれ以上の快感が得られるとする研究もあります。

 薬物に限らずアルコールもギャンブルも承認も、中毒と呼ばれるものはすべて脳にあるドーパミンの機構にその原因を求めることができます。意志が弱いからそれをやってしまう、のではなくて、ドーパミンが分泌されることで脳が極めて強い快感を得られるため、どうしてもそれを繰り返してしまうのです。

 たとえば、パチンコをやめられない人は、大当たりして玉がじゃんじゃん出るときに大量のドーパミンが放出されるので、「もう一回あれを味わいたい」と借金をしてまでパチンコ店に向かいます。

 だから、賭け事で「ビギナーズラック」に喜んでいるのは、まず快楽を味わってもらって中毒にしたいという胴元の狙いにまんまとはめられているとも言えます。

 SNSでの承認は、ただ褒められるだけでなく、人々が見ているなかで認められるのですから、それだけドーパミンも多くなり、強い快楽を得られることでしょう。性行為は基本的には一人を相手にするものですが、フェイスブックの「いいね!」は不特定多数から得られるという特徴があります。

 お金もかかりませんし、性行為に至るまでの、デートの計画や面倒な段取りもしなくていい。自分が好きなときに、自分にとって都合よく加工した情報を発信するだけで、大勢から承認してもらえるというわけです。

 となれば、ストレスでいっぱいの現代人が、「無理して恋人をつくらなくても……」と言い出すのも無理のないことかもしれません。

 さて、承認欲求ジャンキーが手を染めるのは、「バカッター」的な行為だけではありません。自分は攻撃されることなく、多くの人の賛同が得られ、場合によってはむしろ喝采を浴びることができるかもしれない。それはどんな行為か、容易に想像がつくでしょう。

「悪」を無理やりにでも見つけ出して「悪者」を設定し、我が身は大勢が支持するはずの「正義」を代表する立場に置いて、それらの「悪」を容赦なく派手に攻撃する、という行為です。承認欲求ジャンキーの最も危険な形が、正義ジャンキーという形で現出するのです。

 もしも、自分がターゲットになってしまったとき、彼らの攻撃から身をかわすことは、かなり困難であると言わざるを得ないでしょう。

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中野信子 脳科学者

一九七五年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて、博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。現在、東日本国際大学教授。著書に『脳内麻薬』、『ヒトは「いじめ」をやめられない』『サイコパス』などがある。テレビ番組のコメンテーターとしても活動中。

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