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シャーデンフロイデ

2018.09.22 公開 ツイート

ベッキーの不倫はなぜあそこまで叩かれたのか? 中野信子

「シャーデンフロイデ」、それは他人を引きずり下ろしたときに生まれる快感のこと。インターネットやテレビのワイドショーなどで、最近よく見かける光景かもしれませんね。

 脳科学者の中野信子さんは、この行動が脳内物質「オキシトシン」と深く関わっていると分析します。なぜ人は「妬み」という感情をおぼえ、他人の不幸を喜ぶのか? その謎に迫った『シャーデンフロイデ』より、一部を抜粋してお届けします。

iStock.com/Deagreez

不倫は哺乳類にとって「脅威」

 一夫一婦型であろうと乱婚型であろうと、哺乳類はすべて「種を残す」ことを目的とし、その道を選んでいます。

 一夫一婦型では、「自分たちの共同体(家族)を守る」ことが種の保存に必須と考えられます。夫婦で協力し合い、時に邪魔をするものと戦うことで子どもを育てていきます。

 一方、浮気性の人たちや乱婚型の動物は、少しでも多くの個体と交わることで、いろいろな形で自分の遺伝子を残そうとしています。

 方法は違えど、どちらも種の保存を第一に考えているわけです。

 このとき、一夫一婦型の人たちにとって、浮気性の人たちは脅威となります。自分たちが守っている共同体に介入してきて、ルールを壊すかもしれないからです。

 このように、「二つの制度」がぶつかることは、人間特有の現象と言えるでしょう。

 動物の場合、先ほど紹介したプレーリーハタネズミやアメリカハタネズミのように、一夫一婦型なら一夫一婦型、乱婚型なら乱婚型と種類ごとにルールが決まっており、そのルールの中でパートナーを求めて争うにすぎません。

 ところが、人間はそうではありません。一夫一婦というルールの下でペアをつくっておきながら、乱婚型の行動をとってしまう人がままいます。それは、一夫一婦のルールを厳格に守っている側からすれば、とてつもない脅威なのです。

だから不倫はバッシングされる

 だから、不倫は徹底的に糾弾されてしまうのです。

 タレントのベッキーさんの不倫騒動は記憶に新しいと思います。その後も、いろいろな有名人の不倫が取り上げられましたが、とくにベッキーさんは激しいバッシングを受けました。

 おそらく、それまで非常に好感度が高く、いわば「いい子代表」として認知されていたベッキーさんだったからこそ、人々に与えたショックが大きかったのでしょう。

 ベッキーさんは“正しい”「一夫一婦型グループ」の一員だと信じていたのに、そうではなかった。その「内輪から足をすくわれた」感が、多くの人たちの向社会性を刺激し、バッシングに結びついたと考えられるでしょう。

 それにしても不思議なのは、「ベッキーさんがあなたの夫の浮気相手でもないのに、なぜそこまで怒るのか」ということではないでしょうか。

 不倫騒動があると、まさに老いも若きも男も女もいきり立ってその対象をバッシングします。

 こうした攻撃が度を越したものになっていくのは、向社会性という一見「正しいもの」に暴力的な力が潜んでいるからです。

「愛」を利用する人たち

 愛を抱えている時の私たちは、あたかも脳に、セキュリティホールが存在するような状態、と言えるかもしれません。ここを操作されると懐疑的に人を見ることは少なくなり、情緒的に人を信頼したり、攻撃したりするようになります。

 子宮頸部が刺激されることでオキシトシンの分泌が促されるために、とくに女性はセックスによって相手に対する愛着が深まってしまう傾向を持っています。

 風俗業の支配人男性が、働いている女性と性的関係を持つケースが多いのは、自分への愛着を形成させ、女性が他店へ移ったりするリスクを回避するためと考えられます。

 同様に、ホストが女性客とセックスするのも、お小遣いが欲しいというより、オキシトシンの効果によって、女性に自分に対する愛着を形成させれば、客としてつなぎ止めておくことが楽にできるようになるからでしょう。女性は、単純にセックスのエクスタシーでつなぎ止められているのではなく、オキシトシンによってつなぎ止められているのです。いわば「オキシトシン商法」と言っていいかもしれません。

 このセキュリティホールを突かれると、詐欺にも引っかかりやすくなります。

「オレオレ詐欺」に代表される新種の詐欺が次から次へと編み出され、実行されています。注意喚起はいやというほどされているのに、なぜか引っかかる人が後を絶ちません。これは、オキシトシンによる愛着と信頼がセキュリティホールになっている以上、騙されてしまう側のリテラシーの低さを指摘しても解決にはならないのです。

 ハニートラップがいまだに有効であるのも、同じ理屈です。現場では、オキシトシンによって人を信じやすくなってしまう状態が極めて巧妙に計算され、つくられているのです。

 息子のため、孫のため、家族のため、愛する人のため、といった要素はもちろん、詐欺師が被害者の感情に寄り添ったふりをして「私を助けてくれるいい人なのね」と思わせることに成功しているから、裏切り行為が容易になるのです。

 詐欺事件は、愛情と信頼に基づいた、性善説的な社会基盤が形成されている国に多発するだろうと考えられます。またそうした国はきっと、スパイ天国でもあるでしょう。

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中野信子 脳科学者

一九七五年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて、博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。現在、東日本国際大学教授。著書に『脳内麻薬』、『ヒトは「いじめ」をやめられない』『サイコパス』などがある。テレビ番組のコメンテーターとしても活動中。

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