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2013.12.12 公開 ツイート

特集〈狂わずして何が人生〉<br>「サッカー本はなぜ人を夢中にさせるのか?」<br>二本柳陵介(編集者)インタビュー

第1回『心を整える。』が心を掴んだ理由
二本柳陵介

整理した内田選手の原稿を一度捨てた

──先ほど、「自分の軸足は雑誌編集」とおっしゃっていましたが、書籍づくりは、雑誌づくりとは違いますか?

 違うといえば違います。ただ自分としては、雑誌編集で培った経験則とか視点を持って、書籍編集でどうアウトプットするか、という点をいつも考えていますね。

 たとえば僕は、あまり同じカメラマンやイラストレーターに発注しないで、より多くの方と仕事をするようにしています。自分の引き出しも増えますし、それぞれに持ち味があります。カメラマンで言えば、女性を撮るのが得意な人、男性を撮るのが得意な人、風景が得意な人など、いろんな方がいます。これは、僕が雑誌編集をしているからこそだと思うのですが、特集の意図やページのテイストに合わせて、関係するスタッフを組み合わせて誌面をつくっていきたいんです。そういう感覚が書籍をつくるときにも活かされているかもしれません。

 それに僕の手がけた書籍は、写真の選び方とか、レイアウトとか、非常に雑誌的なものが多いと思います。たとえば内田選手の『僕は自分が見たことしか信じない』では、チャンピオンズリーグに関するページでアイコン的にあしらっているサッカーボールがチャンピオンズリーグで使われているものになっていたりとか。そういう細かい遊びなども、雑誌編集から身に付けたところがあります。

 あと意識しているのは、読み捨てられない本をつくる、ということ。持っていたい、残しておきたいと思ってもらえる本に仕上げたい。いちばん意識しているのはタイトルです。そして、使われている紙とか、デザインなど全体から醸されるパッケージ感も大事にしたい。そういえば、長谷部選手の本では「青い表紙の本は売れない」と指摘されたのですが、わたしが長谷部選手と会ったときに感じた色だったので結局そのままにしました。

──暖色系の表紙の本が売れる、という“編集者あるある”もありますね。

 ええ。さらに当初は、帯だけじゃなくて表紙自体にも長谷部誠の名前が縦に入っていました。で、タイトルは横。「縦と横が混在しているのはセオリーとは違う」という指摘もありしましたが、これもそのままにしました。

──ちなみに帯の長谷部選手の写真、起きているようですが、実は横になって、心を整えているときの顔だとか。

 ええ、そうです。腕の感じとかはちょっと違和感がある。僕はどんな本をつくるときでも、書店に並んでいて、「ん?」と思わせる違和感が表紙にほしいと考えています。引っかかり感というか。「長谷部さんなんだから、もっとかっこいい写真があったでしょ!」という意見もいただきましたが、本の意味合いや雰囲気も重視してこの写真にしましたし、違和感を持ってもらう意味では、この表紙や帯は良かったかなと思います。

──中村俊輔選手の新書、長谷部選手の自己啓発・ビジネス書、内田選手のフォトエッセイなど、手がけられた書籍は切り口やテイストが非常に幅広いですね。

 僕の小さな自意識でいうなら、これらの本を並べたときに、同じ編集者がつくったとは思われたくなかったというのはあります。

 実は内田選手の本をつくっているときに、ちょっと長谷部選手の文に脳が引っ張られてしまうところがあったんです。それで、手を加えた原稿を全部捨てたことがあります。「変更を保存しますか?」とパソコンに表示されて、「いいえ」ボタンを押した(笑) 内田選手の書く文章ってけっこう独特だと思います。原稿を受け取って、編集者として、接続詞などを整えたりして原稿整理を進めていたのですが、ふと気付いたんですよね。「あれ、ちょっと待てよ。これは、この世代の文章として、持ち味をそのまま活かすほうがいいんじゃないか」と。で、原稿整理したファイルを全部捨てました。彼の文章のテイストであり、キャラクターをちゃんと活かした本にしなきゃと意識し直したんです。誤解があると嫌なんですが、「ガツガツ」と「がつがつ」という表記だけでも、同じ言葉ですが受けるイメージは違いますから、そういう細かい部分です。

 当時の啓発書ブームに乗っかるのであれば、内田選手の本も長谷部選手の本に、テイストを寄せる方法も当然ありました。でも、そうはしたくなかったんです。当時の内田篤人にしかできないこと、を軸に編集したかった。それで判型も大きくして、写真をふんだんに盛り込んで……という方向にした。

 内田選手の本には裸の写真も出てきて話題になりました。編集の趣旨としては、ただ裸体を出せばいい、みたいな発想ではなく、純粋にサッカーだけでつくられた20代前半の男の美しい身体を残しておきたかった。あのヌードは内田篤人にしかできないと思いますし、内田篤人だったから美しかった。マシンジムで鍛え上げられた身体ももちろんカッコいいんですけど、どこか固い感じがある。最近、ご本人もこの写真を見て、「いまの身体とはだいぶ変わったよね」と言っていたとある記者さんから聞きました。この当時より、筋肉で6キロくらい重くなったそうです。

──そのグラビアでは、起きぬけで寝ぼけた感じでベッドにいたり、歯を磨いたり……。

“ウッチーと過ごす1日”がテーマなんです。朝起きたら隣にウッチーがいて、1日を過ごす、と。

(構成・漆原直行 写真・菊岡俊子)

*インタビューは全3回です。2回目の更新は12月15日の予定です。

 

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二本柳陵介

集英社で編集アルバイトを経て、講談社「ホットドッグ・プレス」の編集を担当。2004年幻冬舎入社。雑誌「ゲーテ」の創刊メンバー。現在「ゲーテ」の副編集長として時計などの担当。雑誌編集の傍ら、長谷部誠「心を整える。」、内田篤人「僕は自分が見たことしか信じない」、中村俊輔「察知力」、楢崎正剛「失点」、横井素子「セレッソ・アイデンティティ」、桑田真澄「心の野球」、ケンタロウ「小林カレー」、長澤まさみ「NO MEANING」、山口信吾「死ぬまでゴルフ!」、「PREMIUM G-SHOCK」などの単行本や、ゴルフ場運営会社「アコーディア」の会員誌の編集も兼務。好きな食べ物はカニクリームコロッケ。欠点は早口。好きな本は警察小説全般。

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