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GW特別企画

2018.05.02 公開 ツイート

9条はなぜそんなに
重要なのか
第2回『日本国憲法を口語訳してみたら』【リバイバル掲載】 塚田薫

「平和主義・戦争の放棄」を定めた憲法9条は、なぜそんなに重要と言われているのか?『日本国憲法を口語訳してみたら』(塚田薫著/長峯信彦監修)から、どうできたのか、何が画期的なのか、その解説部分を紹介します。

 

憲法9条ってなんでそんなに重要なの?

 さてさて次は、憲法の話となると結構な割合で注目される9条について見ていこう。

 中学校で公民の時間に、日本国憲法の三大柱は、「国民主権」「平和主義・戦争の放棄」「基本的人権」と習った人も多いと思うけど、その「平和主義・戦争の放棄」をはっきりと決めたのが、この9条なんだ。

 どういうものか詳しく見ていこう。

 

1 「話し合いで解決したほうが賢くね?」

 日本国憲法ができた当時でも、国として軍隊や戦争を認めないことは、実はあまり珍しいことじゃなかった。

たとえばフランス革命でできたフランス共和国憲法でも、侵略戦争を禁止していた(まあ実際は戦争ばかりしていたけど)。20世紀にも1921年のリヒテンシュタイン公国憲法でも、特別な場合を除いて軍を持つことが禁止されていたんだ。リヒテンシュタイン公国とは、スイスとオーストリアに囲まれているヨーロッパの国だよ。また、1928年の国際連盟時代にパリで交わされた「不戦条約」(「戦争抛棄ニ関スル条約」)も有名だね。

 さらに第一次世界大戦後なんかからは、それぞれの国単位ではなく、いくつもの国が集まって国際的に戦争を避けようとする動きが見られるようにもなったんだ。それは第一次世界大戦以降、戦争があまりに大きなものになってしまって、国と国とがそのままぶつかる「国家総力戦」というようなヤバい感じになってきたからなんだ。 

 戦争の結果ぼろぼろになったヨーロッパの人たちは、「このままいくと人類は戦争で全滅してしまうかもしれない……」ということを本気で考えるようになる。そして、「なんとか戦争は終わったけど、戦争で膨れ上がった軍隊を維持するのにも、めちゃくちゃお金がかかるじゃん……」ってことも各国の頭痛の種になっていた。

 結果、「戦争しないで、できるだけ話し合いで解決したほうが賢くね?」ってことで、国際連合の前身である国際連盟が発足されたわけ。

 この国際連盟の規約前文には、「加盟国はできるだけ戦争はしないように!」ってことが書かれているよ。先に出てきた「不戦条約」もこの流れにあるものなんだ。

 これ以降は、国どうしで戦争が起きそうになったら、国際連盟が仲裁に入ったり、みんな一緒に軍隊を小さくしたり(軍縮)して戦争を避けるようになっていったよ。ちなみに日本も、第一次世界大戦で勝った側の一員として国際連盟の常任理事国——つまり中心メンバー——になった。

 でも大国アメリカは最初から加盟せず、イギリスをはじめ各国も、「いやー、基本的に戦争はしないけど、うちの利益を守るためにやむをえない場合ってありますよねー。当然うちは独立国家ですし。自分の利益を守る権利は認めてもらいますよー。それが自衛ってもんです!」という態度をとっていたように、戦争そのものを禁止することにはならなかったんだ。ルールを破った加盟国に対してはペナルティとして経済制裁しかできず、効果は弱かった。

 そうして1930年代から国際連盟の常任理事国であった日本も、領土や利益をめぐって中国大陸に軍隊を送り込み、戦争へ突き進んでいく。この過程で連盟を脱退。これらがその後、日中戦争、第二次世界大戦へと広がっていく原因の一つになってしまったわけ。

 第二次世界大戦が終わってから、国際連盟はもっと強い権限を持つものとして再出発した。これがいまの国際連合(国連)だ。

 

2 「国民を守るために軍隊も持ちませんから!」

 そして現在の日本国憲法にとって重要な点は、「戦争しないほうが得だよね!」っていうものではなく、「国民の人権を守るために戦争を放棄します! そのためにも軍隊そのものを持ちませんから!」というところにまで踏み込んだところ。そういう意味で、過去に例のない憲法になったんだ。

 まず「国民の人権を守る」というのは、コラム1の「そもそも憲法ってなに?」でも見たように、立憲主義国家の軸になっている考え方だよね。

 憲法学者の長谷部恭男(はせべやすお)さんは、『憲法とは何か』(岩波新書)のなかで、ルソーさん(再び登場。音楽家でもあったという多才っぷり)の論文「戦争および戦争状態論」を参照しながら次のようなことをいっているよ。  

 

「国は『人権を守りますよ』っていうお約束のうえに成り立っているわけだし、人権に対するとんでもない攻撃である戦争なんてことを国がするなら、そのお約束自体をなしにして、国そのものをなくしてしまうのもありだよね」(←これは僕のザックリした意訳です)


 日本国憲法は、そういうことにならないために戦争そのものをあらかじめ否定している、とみることもできる。

 もちろん、「戦争で負けたんだから、軍隊を取り上げるよ!」っていう話はよくあることで、憲法の制定に深く関わったアメリカとしても、そういう思惑もあったかもしれない。

 とはいえ憲法学的には、日本国憲法というものは、「国民の人権を守るために戦争を放棄します」っていう「人権の保障」と「戦争放棄」をセットにした「積極的平和主義」のうえに成り立っている、なかなか画期的なものなんだ。中央アメリカ南部のコスタリカも「戦力は持たない」とする憲法があるね。

 ちなみに「侵略戦争はしない」というタイプの憲法は、第二次世界大戦のあとにいくつか登場したよ。ドイツやイタリア、あと韓国なんかだ。

 

次回の更新は、5月3日(木・祝)予定です。

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塚田薫

1989年、愛知県生まれ。愛知大学法学部法律学科卒業。ネット上の掲示板に「日本国憲法を口語訳してみた」というタイトルで書き込みをしたところ大反響を得る。ウェブ上にアップして5日でついた「はてブ」(はてなブックマーク数)は、その書籍版が270万部を突破した『もし高校野球のマネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海著/ダイヤモンド社刊)の元ネタのブログが2日間で記録した「はてブ数」の2倍以上に。2012年7月26日の朝日新聞で書き込みが取り上げられ、2013年5月2日の朝日新聞夕刊には本人が顔写真入りで登場した。

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