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それでも猫は出かけていく

2018.03.01 公開 ポスト

獣医師の力量 思想家・吉本隆明氏の家に集う猫の話 その4ハルノ宵子

思想家・吉本隆明氏の家に集う猫と人の、しなやかでしたたかな交流を綴った『それでも猫はでかけていく』より、試し読みをお届けします。

「またか……!」というのが本音です。
<その3>でもご紹介した、交通事故で左前足首の関節と靭帯を損傷したヒメちゃん(ヒメ子)。手術から2ヶ月経とうというのに、前足を地面に着こうとしないのです。3本歩きでは、外猫に戻すどころの話ではありません。

 ヒメ子は、外猫専用(と決めている)「H動物病院」で前足の手術を受けました。しかし「H動物病院」には、以前シロミの障害を見逃したという前科があります。仕方なくまた、かかりつけの「D動物病院」で診て貰うことにしました。面倒事を持ち込まれるのが大嫌いで、シブるD院長をやっとこさ懐柔し、ヒメ子を連れて行きました。ヒメ子の前足を曲げたり伸ばしたりして院長は、「ふーん、分かった!」と言いました。レントゲンを撮って、後日説明を受けました。

 ヒメ子の左前足は、手根骨と指骨の間をプレートでつなぐ手術が施されている訳ですが、彼女の指骨はあまりにも細すぎるためボルトが入れられず、ワイヤーで仮留めしてあります。そこがグズグズ動いてしまう。さらにレントゲンを見ると、肘にあたる部分の尺骨先端にも折れた形跡が見つかりました。その痛みから前足を使わずにいる内に、上腕の筋肉が萎縮して肘を引っ張り、前足が着けなくなっていたのだそうです。さらに前足首は着くことによって、可動部分がこすれて潰瘍化する恐れがあるので、むしろ使わないでくれた方が良いとのこと。

 これで3本歩きのヒメ子は、晴れて(?)我家の家猫です……ヤレヤレ。
「マトモな猫いねーのかよ!」と院長。
「マトモだったら連れて来るかよ!!」

 しかしくやしいけれど、この院長の力量にはいつも舌を巻きます(性格的にはかなりモンダイあり)。たいていの場合、所見と触診だけで判断をつけることができ、レントゲンや血液検査などは、その裏付けに過ぎません。一方の「H動物病院」だって、決してヤブではありません。しかしD院長には確実に+αがあるのです。知識と経験と観察力、ひらめきとサジ加減、そんな微細な情報を無意識下で処理し、答えをはじき出す。その脳内回路こそを才能と呼ぶのかも知れません。

 さてヒメ子。最初から「D動物病院」に連れて行っていれば、前足は治っていたかも……と思うと、悔やまれます。でもそうしたら、うちの猫にはならなかった訳だし……猫にとっては、何が幸いするのか分かりませんね。

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