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知ったかぶりキリスト教入門

2017.12.21 公開 ツイート

12月25日はイエスの本当の誕生日ではない

クリスマスよりも大事な年中行事、復活祭 中村圭志

iStock.com/Mayerberg

今年もクリスマスシーズンが到来。きれいなイルミネーションで、一年で一番街が輝きだす季節です。
クリスマスは、一般的にイエス・キリストの誕生日だといわれています。みんなで集まって「メリークリスマス!」と言って乾杯したりケーキを食べたり、プレゼントを贈り合ったりするイベントでもあります。
しかし、日本人の大多数はクリスチャンではありません。キリスト教について、イエスと聖書について、あまりよく知られていないのが現状です。
そこで、『知ったかぶりキリスト教入門』の著者で、さまざまな宗教を平易に説くことで定評のある宗教研究者の中村圭志さんが、キリスト教の最低限の知識をQ&A方式で解説。本書より、一部を抜粋してお届けいたします。

Q どんな行事があるのか?                   A 洗礼と聖餐、クリスマスと復活祭が大事です。

 キリスト教もイスラム教も神を信仰する宗教です。イスラム教の場合、信者のお勤めの第一は日に五回の礼拝ということになっています。モスクに行ってやってもいいし、自分の家でやってもいい。職場やホテルのロビーや空港や路上でやってもいい。

 キリスト教の場合、日々祈るのが推奨されていますが、行事としては、一週間に一回、日曜日に教会に行って行なう聖餐式/ミサ/聖体礼儀が最も大事なお勤めということになります。

 聖餐式はプロテスタント、ミサはカトリック、聖体礼儀は正教会の呼び名です。それぞれ、やり方と解釈に違いがあるようです。

 これは基本的に、二千年前の開祖、イエス・キリストを記念する行事です。パン(実際にはウェハースのような形をしていることが多い)とワイン(省略も可能)をキリストの肉と血と思ってみなで食するという行事なのですが、話だけ聞きますと、原始時代の食人儀礼を思わせますね。でなきゃ、ドラキュラか。

 かなり不思議な行事ですが、その意味合いについては、第二章のQ26で掘り下げることにします。

 さて、この聖餐式/ミサ/聖体礼儀と並んで大事なのは、入信の儀礼、洗礼式です。

 よく知られているように、キリスト教では洗礼を受けて、信者になります。洗礼というのは水をかける行事ですが、実際には頭にちょろちょろとかけるだけというところが多いようです。しかし、全身をどぶんと水につける教会もあります。

 神道の禊(みそぎ)に似ていますが、キリスト教の場合は入信のシンボルですので、一生に一回しか行ないません。

 なお、ほとんどのクリスチャンは生まれたときからクリスチャンです。この場合、幼児洗礼ということになります。赤ん坊を教会に連れていき、神父さんが水を垂らす。

 自覚的な入信ではありませんが、意味合いは同じだとされます。

 プロテスタントですと主な儀礼はこの二つということになりますが、カトリックなどでは洗礼とミサを含めて七つの「秘跡(サクラメント)」を行ないます。

 洗礼とミサの他は、堅信(信仰の確認)、告解(罪の告白、懺悔)、叙階(神父などの職への任命)、結婚式、そして病者や臨終の人への癒しの儀礼です。

 日本人にとって珍しいのは、告解でしょう。教会堂に電話ボックスのような小部屋があって、そこで窓越しに隣室の神父さんに罪を告白します。細かい小説的描写は不要で、罪を犯したことを告白するだけでも十分なのだとか。

 こういう伝統があるためか、もともと欧米人が告白好きなのか、アメリカなどでは精神分析医にかかってカウチに寝そべって家族のトラブルだの不倫だの秘めたる欲望だのを告白するなんて不思議なことをやるためにお金を払う人が大勢います。日本では精神分析というのはどうも流行らないみたいですが。

クリスマスと復活祭

 キリスト教には年中行事もあります。イスラム教ですとラマダーン月の断だん食じきと巡礼月のメッカ巡礼が有名ですが、キリスト教の場合は、クリスマスと復活祭ですね。

 クリスマスは一二月二五日の、イエス・キリストの生誕を記念する行事です。しかし、これは最初からあった行事ではなく、ローマ帝国内にキリスト教が広がっていったとき、当時流行していたミトラス教の行事の裏番組として始めたものだと言われています。

 つまり、ミトラス教では太陽神の誕生日として冬至(ローマ暦一二月二五日)をお祝いしていたので、クリスチャンたちは「キリストこそがまことのお天道様」との趣旨で行事をパクったのです。

 というわけで、一二月二五日というのは、イエスの実際の誕生日とは関係がありません。実際の誕生日がいつなのかは不明です。

 昔の有名人は、死んだ日は分かっても生まれた日が分からないことが多い。だってそうでしょう。有名人が死ねば周囲に社会的影響を及ぼしますから、誰かが記録します。しかし赤ん坊の誕生のことなど世間にとってはどうでもいいことです(その子が将来有名人になるなんて誰に分かるでしょう)。

 では、キリストが死んだ日のほうはどうでしょうか。

 キリスト教では十字架上の死は三日後の復活をもって完成すると見ていますので、この復活の日を記念することになります。それを何月何日と特定してしまえばいいと思われるかもしれませんが、古来、「春分後の最初の満月の次の日曜日」ということになっています。

(なんでこうなるのかというと、キリストは過越祭(すぎこしのまつり)というユダヤ教の大事なお祭りの期間に死んでおり、この意味合いを無視するわけにいかないのですが、ユダヤ暦は太陰暦なので、太陽暦との間に調整が必要となるからです)

 ブラジルでは復活祭の四〇日前くらいのところでカーニバルをやりますが、これもまた毎年期間がズレていることにお気づきでしょうか。

 実はキリスト教最大の年中行事はクリスマスではなく、復活祭です。しかし、復活祭がいったいいつなのか、世間では知られていません。日付が年によって移動してしまうので、非信者には把握しにくいんですね。

 また、クリスマスは本来のお祭りではないこともあって、非信者がクリスマスツリーとサンタさんを祭り上げたとしてもクリスチャンとしても別に平気だが、復活祭のほうは神聖な儀式として保っておきたいということもあるかもしれません。

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中村圭志

1958年生まれ。北海道小樽市出身。宗教研究者、翻訳家、昭和女子大学非常勤講師。北海道大学文学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学(宗教学・宗教史学)。著書に、『教養としての宗教入門 基礎から学べる信仰と文化』(中公新書)、『図解 世界5大宗教全史』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

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