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撮影:藤えりか ©朝日新聞社

アメリカでは歌手も俳優も、バンバン政治的発言をするんだ!――トランプ大統領誕生に至るまでのアメリカのニュースを見ていて、そう驚いた人は多かったのではないでしょうか。
 映画は時代の鏡。激動の世界をギュッと凝縮し、リアルに映し出します。
 ハリウッド映画ほか各国の最近の話題作をとおして、アメリカと世界が直面する、難民危機、テロ、人種差別、格差と貧困などの問題に迫った、『なぜメリル・ストリープはトランプに噛みつき、オリバー・ストーンは期待するのか~ハリウッドからアメリカが見える』が、発売になりました。
 著者は朝日新聞「GLOBE」編集部の藤えりか記者。
 幻冬舎新書最長のタイトル(笑)である本書、愛称『なぜメリ』の「はじめに」は、こちらからお読みいただけます。

* * *

 ハリウッドとは何か。

 そう問われ、「最新技術の粋を集めてヒット映画を量産する一大産業」と言う人には、「商業主義の最たるもの」と返す人がいるだろうし、華やかなスターを挙げる人には、「庶民からほど遠い金持ち集団」とのツッコミがきそうだ。果ては「覇権国家アメリカの価値観を世界に押しつける装置」と、巨大産業であるだけに、負のイメージもつきまとう。

 だから、言われるかもしれない。「ハリウッドのフィルターを通したところで、複雑で広大なアメリカを理解できるわけがない」

 私は小さい頃から特に海外の映画に親しんできた。未知の世界にいざなわれるようで子ども心にワクワクし、英語を学んだ。趣味が高じて脚本の学校に通ったこともある。ただ、いわゆる映画の専門記者になったことはなく、朝日新聞記者としてこれまで主に渡り歩いたのは経済部や国際報道部だ。

 でも2011年にロサンゼルスに赴任、アメリカやメキシコ、中米、カリブ諸国の政治・経済・社会を担当した一環でハリウッドを取材するうち、この業界がいかにアメリカの政治や経済、社会にコミットし、オピニオン・リーダーを自任しているか実感した。帰国して「GLOBE」編集部に配属後、アメリカのみならず欧州や中東、ロシア、アジアの映画人に取材を続けているのも、同時代の人々や風景をきりとる映画は、その狙いや背景も含め、世界で何が起きているかを映し出す鏡のひとつだと思うからだ。

 さりながら映画ははっきり言って、非常に危うさをはらんだ仕掛けでもある。特にハリウッド映画は、めまぐるしい映像や大音響で視覚や聴覚を揺さぶり、想像力を働かせる余裕を与えることなく、いわば一定の見方を突きつける。

 主に白人男性が活躍するスクリーンで描かれたステレオタイプは数知れず、日米摩擦の1980年代は日本人が理解不能な存在として戯画化されたし、中東の人やイスラム教徒がテロリストと同一視されてきたのは9・11同時多発テロに始まったことではない。どんな困難に見舞われても最後は米軍が助けてくれる、という展開の多さに鼻白むこともたびたびだ。

 でもだからこそ、ハリウッドを通して見えてくるものは、その時代を表すまさにアメリカなのだ。

 雨が少なく気候のよい米カリフォルニア州南部ハリウッドは20世紀初頭、欧州からのユダヤ系移民たちが中心になって映画スタジオを相次ぎ創業、大国となりゆくアメリカの経済を支えた。ナチス・ドイツの迫害を受けてアメリカに逃れた多くの才ある人も集まり、2度の大戦で疲弊する欧州をよそに、名作からB級映画まで量産して海外進出を強め、アメリカを世界一の映画大国たらしめていった。

 存在感を強めるにつれ、ハリウッドに多いリベラルも、案外根強い保守派もそれぞれ、大統領選の候補者をはじめとする政治家の資金源や広告塔にもなってきた。そして誤解を恐れずに言えば、ハリウッドは全体として、政府におおむね協力的であり続けた。

 その歴史は後述するが、ハリウッドはそれなりに政府批判の映画も作ってきたかに見えて、その実、「現政権」をあからさまに批判する映画はそうはない。

 そんなハリウッドが、彼らの価値観や予想をはるかに超えたトランプ政権の発足に動揺している。その度合いは、かつてないほどと言っていい。

 ハリウッドは転換期にある。だからこそ彼らを通して、混迷のアメリカ、そして世界がますます見えてくるはずだ。

 インタビューを重ねた映画人の生の言葉から、激動する今を読みとってもらえればと思う。

⇒本書でとりあげた映画は次ページで。

 

【目次】

[第一部 ハリウッドから見えるアメリカ] 
強さは文明を維持する唯一の手段ではない  
 ――『沈黙―サイレンス―』 

弾圧されても書きに書きまくった気骨  
 ――『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』

「事実」を報じる痛みと責任  
 ――『ニュースの真相』 

ごく最近の大事故を作品にする重み  
 ――『ハドソン川の奇跡』 

マット・デイモンが問う「スノーデン後の世界」  
 ――『ジェイソン・ボーン』 

ハリウッド若さ至上主義との闘い  
 ――『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』

話題の黒人奴隷史映画は、なぜ日本公開中止になったのか  
 ――『バース・オブ・ネイション』

特権層のハリウッドが代弁してこなかった声  
 ――『タンジェリン』 

世界一スタイリッシュなホームレス  
 ――『ホームレス ニューヨークと寝た男』

「トランプの世界」で人々が飛びついた夢物語  
 ――『ラ・ラ・ランド』

トランプ政権への期待
 ――オリバー・ストーン(映画監督) 

[第二部 人種・性・マネーのリアル] 
スカートをやめたディズニーヒロイン  
 ――『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』

映画を本物に思わせる魔法  
 ――世界的指揮者が語る映画音楽 

大ヒット作を支えたのはオランダの銀行家  
 ――『ハリウッドがひれ伏した銀行マン』 

映画がハリウッドに戻ってきた  
 ――『ジャングル・ブック』 

イーサン・ホークは40代の悩みをどう乗り越えたのか  
 ――『シーモアさんと、大人のための人生入門』 

かつてない屈強なヒロイン登場  
 ――『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』 

ハリウッドが注目する日本人監督  
 ――『ダム・キーパー』『ムーム』 

白人が黒人ジャズにのめり込むことの苦悩  
 ――『ブルーに生まれついて』

黒人メインの作品には資金がつかない現実  
 ――『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』

中国マネーが支えた米国の人種問題映画  
 ――『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』 

[第三部 スクリーンが映す激動の世界] 
交わらないふたつの世界  
 ――『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』 

「優等生ドイツ」のもうひとつの顔  
 ――『帰ってきたヒトラー』 

「トルコの敵」と酷評された告発の映画  
 ――『裸足の季節』

サンパウロ最大のスラム街の現実と希望  
 ――『ストリート・オーケストラ』 

世界の著名人が「健さん」をたたえた  
 ――『健さん』 

クラウドファンディングは単なるお金集めではない  
 ――『はじまりはヒップホップ』 

なぜみんな恋愛映画を見なくなったのか  
 ――『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』 

北朝鮮に拉致された監督と女優の半生  
 ――『将軍様、あなたのために映画を撮ります』

人種の壁に抗いながら、切り開いた道  
 ――『ダゲレオタイプの女』 

コロンビアをめぐるノーベル平和賞と映画の関係  
 ――『彷徨える河』

負の歴史に向き合った「正義の国」  
 ――『ヒトラーの忘れもの』 

英米ドローンが民間人を殺しているという現実  
 ――『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』 

反プーチンのロシア人監督が北朝鮮の実像に迫る  
 ――『太陽の下で― 真実の北朝鮮―』 

なぜ女性の過激な運動は「暴力」と言われるのか  
 ――『未来を花束にして』

「ふつうじゃない」のは悪いこと?  
 ――『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』

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藤えりか

1970年生まれ。93年、同志社大学法学部政治学科卒業後、朝日新聞社に入社。経済部や国際報道部などを経て2011~14年にロサンゼルス支局長を務め、米国とラテンアメリカの大統領選から事件、IT、映画界まで幅広く取材。アカデミー賞授賞式は四年連続、現地で取材した。映画好きが高じて脚本を学んだことも。現在、朝日新聞「GLOBE」記者。ツイッターの公認記者アカウントは@erika_asahi。読者と語るシネマニア・サロンも主宰。

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