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バイリンガルニュースMamiの文字おしゃべり

2017.03.04 更新 ツイート

vol.58

セクハラを受けて自分を責めた話 Mami

「Reflecting on one very, very strange year at Uber」
https://www.susanjfowler.com/blog/2017/2/19/reflecting-on-one-very-strange-year-at-uber

これは、昨年12月までUberで働いていた女性エンジニアが先週公開し、大きな話題を呼んでいるエッセイ。Uberで働き始めてまもなく、マネージャーから性的なメッセージを受けとったため、すぐに人事部に報告。しかし「彼は社内での評価がトップクラスだし、セクハラをしたのは初めてだから」という理由でマネージャーは罰せられず、口頭での注意に終わりました。

その後、他の女性エンジニアたちとの会話のなかで、なんと同じマネージャーからセクハラを受けて人事部に報告したことがある女性が何人もいることを発見します。会社が「彼がセクハラをしたのは初めてだから」と言ったのは嘘だったのです。

その他、セクハラだけでなく性差別の問題にも直面し、人事部に何度も報告したにも関わらず、会社はなにもしてくれない。それどころか、やっかいな存在として評価を落とされ、直接キャリアにもダメージを受け、結局彼女はUberを去りました。

この話を聞いて、自分の経験をいくつか思い出しました。

最初に頭に浮かんだのは、オーストリアへの出張。ドイツ支社の同僚たちとオーストリアに一泊することになり、一人の同僚Tとディナーで隣の席になりました。私は当時20代前半。彼は10歳以上年上で、めちゃくちゃ活躍していて社内でも非常に高評価。純粋に「すごいなー」と尊敬していました。博識な彼と話していると勉強になるし、楽しくて話し込んでいると、一瞬だけ、私の太ももに手を置いてきました。「あれ?」と思ったけど、彼は話に夢中になっている感じだったし、すぐにどけたのであまり気にしませんでした。

ディナーも終わり、ふと二人になる瞬間があったとき、何の前置きもなく「I really want to fuck you. (君とヤりたい)」と言われました。あまりにアンプロフェッショナルだし失礼なので耳を疑ったけど、とっさに「彼の面子をつぶしてはいけない」「今後一緒に仕事するだろうし気まずくなりたくない」という気持ちが先行して、「はははーなんの冗談ですか」と無理やり冗談だったことにしました。ちょうどそのタイミングで他の同僚がやってきたので、何事もなかったかのように宿泊していたペンションの自室に戻りました。

その夜寝ていると、「バンバン!」とドアを強くたたく音で目が覚めました。時計を見ると午前4時。外はまだ真っ暗。怖いので無視していましたが、全くやむ気配がない。10分ぐらいたたき続けたあと、去っていく足音がしたので、ほっと安心していると、また1分後に戻ってきてドアをたたく。それが何度も何度も繰り返されました。

午前4時に人の部屋の前を行ったり来たりして何十分間も執拗にドアをたたき続ける。異様なので、起きていることがばれたら余計怖いことになりそうな予感がして、一ミリも動かずにじっと息を潜めていました。

泊まっていたペンションはかなり年季が入っていて、部屋に電話もついてないし携帯の電波もなく、誰かに助けを求められる状況ではない。ドアの鍵も公衆トイレの鍵レベルの簡易的なものだったので、それが壊れたらどうなるんだろう、何をされるんだろう、という不安と緊張感で、眠気は一気に飛んで行きました。

それがそのまま30分ぐらい続き、こちらも精神的に疲弊してきたところで、ドアをバンバンたたく音とともに、何度も私の名前を呼ぶTの声が。その前から誰がやっているかなんとなく予想はできたけど、それでも衝撃だった。結局彼は私のドアを40分ぐらいたたき続け、去って行きました。その40分間はものすごく長く感じられました。

その後もまた戻ってくるんじゃないかと、ずっと耳をそばだてて固まっていたので当然眠れず、寝不足のまま朝食に降りていくと、ほかの同僚がいました。「よく眠れた?」と聞かれたので、「誰かが夜中にドアを40分間もたたいてきて怖かった」とだけ言いました。彼はびっくりして、ちょうど同じテーブルにやってきたTに対し「まみにこんなことがあったんだって!ひどいよね、何か知らない?」と言ってくれました。するとTは私の目をまっすぐに見て、「それはひどいね、誰だろうね、そんなことするのは」と言いました。背筋が凍る思いがして、私がなにか言ってもこの人は認めないし、私が嘘をついているか勘違いしていると言われるだろうと思いました。

ディナーで足を触られたときに何か言えばよかった。ヤりたいと言われたときに怒ればよかった。相手の面子や今後の仕事のことを気にして、突っぱねずにやんわり対応したからつけ入られたんだ、などと後悔して自分を責めました。会社では私より彼のほうがキャリアも大幅に長く実績があって、会社にもたらしている金額も桁違いに多い。会社には報告しませんでした。

学生のとき、同級生でバイト仲間でもあった男性から、同じような、でももっと危ない目にあわされたことがあります。私は10代後半で、相手は編入生で30歳。年上で、この人も頭が良く博識だったので尊敬していました。恋愛感情は全くなくて、相手もそういうそぶりは一切見せたことがなかったから、仲が良い友人だと信じていました。間一髪でレイプには至らなかったけど、至っていてもおかしくはなかった。その人に無理やり押さえつけられたとき、同僚にドアをたたかれていたとき以上に、少しでも刺激したらもっと大変なことになるという本能的な直感が働き、声も出せずじっとしているしかありませんでした。

よくレイプの被害者に対し、検察や裁判官が「嫌だったならなぜ声を出さなかったのか」「なぜ戦わなかったのか」と責め立て、被害者をさらに苦しめるケースがあるけど、これはあまりにも想像力が足りない、というか状況をわかっていない。声を出したり戦える場合もあれば、それができる状況ではない場合もあります。

もっと悪いケースだと「その場所にいたのが悪い」「そういう服を着ていたのが悪い」「お酒を飲んだのが悪い」など、被害者に責任を転嫁したがる人も残念ながら少なくないため、英語では victim shaming (被害者を責める行為)と呼ばれ問題視されることが増えてきました。

私自身、誰に言われたわけでもないのに「そういう状況にさせた自分が悪いのかもしれない」という自責の念や、つけ入られてしまったことへの恥みたいなものがありました。また会社やバイト先、学校などに報告することで、自分の立場やキャリアが不利になるかもしれない、証拠があるわけでもないし信じてもらえないかもしれない、怖い思いをした上にさらに輪をかけて被害を拡大させたくない、という強い思いもありました。

Uberのエンジニアの女性は会社を信頼してきちんと報告したのに、その結果、そうした心配が杞憂ではなく現実となってしまった、最悪のケースだと思う。

どちらかがアプローチして、相手が嫌じゃなければそれは社内恋愛に発展するわけで、会社のセクシュアリティの問題ってグレーゾーンが多くて難しい。ただUberのケースのように、相手が社内で強い立場の場合は別だと思う。興味がない相手から強引に誘われるだけでも困るのに、断ることによって実際に評価が下がったり、働きにくくなったり、そしてそれが自分のせいかのようにすり替えられてしまったり。これでは「付き合いたい」とか「ヤりたい」という利己的な動機に対して、誘われた側のリスクがあまりにも大きすぎる。

仕事という大前提のもとでその場に参加していたつもりが、知らぬ間にいつの間にか恋愛や性の対象物として見られていたり、ともすれば犯罪に巻き込まれるか否かの瀬戸際に立たされている。そしてそれを会社に報告しづらい環境がある。これって、周りの女性たちの話を聞いていても珍しいことではありません。女性だけでなく、男性でそういう経験をしている人も当然いると思う。

ものすごく難しいのは、仕事場にセクシャルな感情を持ち込む人と持ち込まない人がいて、それを他人が事前に見分けるのはほぼ不可能だということ。

「仕事の話でぜひ相談したい案件がある」と呼び出されて、行ったら実際はデートだった、ということが何度かあります。仕事の話があると言われた場合、本当に仕事の話のみっていう場合のほうが断然多いわけで、はなから「まさかデートじゃないでしょうね!」といちいち警戒するのもばかばかしいし、そんなことしてたら仕事にならない。かといって、騙されて結局デートだった場合、自分が馬鹿らしくナイーブに思える。

あるときは、大手米企業の経営陣3人が来日した際、会議のあとにホテルの部屋でみんなでチェスだかなんだかをしないか、と誘われたことがありました。真意がつかめず怖いので断ったけど、これだって純粋にゲームがしたかっただけの可能性もあれば、信頼して行ったら「ほいほい着いていくなんて馬鹿だ」と言われる事態になっていたのかもしれない。

警戒しすぎると「こっちは仕事のことしか考えてないのに自意識過剰」とか「おおげさ」と言われかねないし、逆に信用して被害に合えば「警戒しないのが悪い」と言われる可能性がある。詰んでるじゃん・・・

相手が尊敬している人だったり、立場がずっと上の人だったり、一緒に働いている仲間や上司なら、人間として「信用したい」と思うのは落ち度でもなんでもない。むしろその信用を逆手にとって裏切る行為のほうが圧倒的に悪いはずなのに、victim shamingはなかなかなくならない。

Victim shaming について、私は「被害者が自分を責める必要なんてない!悪いのはオフェンダーだけだ!周りが被害者を責めるのもおかしい!」と言ってきたけど、自分のこととなるとなぜか別問題で、自分でそれに気づいてもいませんでした。ずっと頭のどこかで自分を責めて恥じていた。数週間前にふとしたことでやっとそれに気づき、向き合って、「あれは私のせいじゃなかった」と認められるようになりました。今だったらUberの女性のように会社にも報告できると思う。

被害者が自主的に自責の念や恥を感じてしまうのには、社会の風潮や教育、メディアのトーン、会社の体制や周りの反応など、様々な要因が積み重なっているはず。アメリカでは victim shaming自体についての議論が増えてきて「よくないね、やめよう」と浸透してきたけど、それでも決してなくなっているわけではありません。

日本では、そもそも victim shaming に関する議論自体があまりない印象です。日本語で「被害者非難」や「犠牲者非難」と訳されるみたいだけど、これが一般的な概念として浸透している感じは正直しない。

Victim shamingとは先述の通り被害者を責める行為で、「夜道なんか歩いてるから襲われたんだ」「スカートを履いてたからレイプされたんだ」「あんな人を信じるから殺されたんだ」みたいなことですが、これは just-world hypothesisに基づいて人間が引っ張られがちな思考だと言われています。

つまり、世界は公平で秩序正しいものであってほしい!という潜在的な願望があって、「普通の人が普通に暮らしていただけなのにひどい目にあう=自分にもいつでも起こりうる」という現実は怖くて受け入れがたいので、「自分は馬鹿じゃないし気をつけてるから大丈夫」と安心したい。そのため無意識のうちに、とりあえず被害者に落ち度があったことにしたくなってしまう、という心理。

男女問わず、社員が声をあげやすい環境を会社が作るっていうのは大事だし、それは単に「セクハラはだめですよー」とコンプラ研修をすれば終わりってことではない。

私よりもっとひどい目にあってる人もたくさんいるだろうし、マイルドなことでも深く傷ついた人もいるはず。度合いは関係なしに、まずは被害にあった人が自分の体験を安心してシェアできる社会になってほしいし、victim shamingに関する議論も増えてほしい。その結果、被害を受けた人が自主的に自分を責めたり恥じることも減ってほしい。そういう願いを込めて、自分の体験をシェアしてみました。


 

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Mami Podcast「バイリンガルニュース」MC

1986年東京都生まれ。帰国子女ではなく、東京育ちのバイリンガル。2013年5月から、友人のMichaelと2人で英会話Podcast「バイリンガルニュース」を始める。世界中から2人がピックアップしたニュースを、ユニークなバイリンガル会話方式で無料配信しPodcast1位の大人気番組に! いつも阿佐ヶ谷のMichael宅で収録しており、独特のゆるーい雰囲気が魅力(放送中に荷物が届いたり、くしゃみしたり)。各エピソードの文字起こしテキストアプリも評判! ウェブアスタで相談エッセイ「バイリンガルニュースMamiのお悩みシェア」を連載中。http://www.webasta.jp/serial/onayami-share/
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