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(対談)水族館でイルカを飼うということ

2017.02.22 更新 ツイート

日本のイルカ飼育は世界より何十年も遅れている川端裕人/Mami


 マスメディアではあまり話題にのぼりませんが、いま日本の水族館は様々な問題を抱えています。

 イルカやシャチの飼育の是非から、そもそもの水族館の存在意義まで。水族館を取り巻く状況を理解し、傍観者になるのではなく私たち一人一人ができることを考えるため、動物園関係者のバイブル『動物園にできること』著者で、捕鯨船での取材経験もある作家の川端裕人さんに、バイリンガルニュース Mamiが話を聞きにいきました。
(構成 兵藤育子 撮影 渡邊有紀)

  

動物園でゴリラは“備品扱い”だった!?

Mami 初歩的な質問ですが、まず動物園や水族館を取り巻く問題について教えていただけますでしょうか。

川端 動物園や水族館は野生の生き物を見せるところですが、私たち人間にはエキゾチックな動物を見たい欲望があるから、大昔からそういう場所があるわけです。
しかし単に見たい欲求だけで野生動物を連れてくるのではなく、しかるべき飼育をしようという考え方が出てきました。

 たとえばゴリラは大人になると扱いにくいので、赤ちゃんや子どもを連れてきていたんです。かつてアメリカの動物園では、小さい子だけを連れてくるために群れをすべて撃ち殺すようなことが、わりと普通に行われていたらしいんですが、さすがにそれはよろしくない。できるだけ動物に負担をかけないようにしなければいけない、という論調になったのが1970年代以降です。

 これは環境保護が注目される時期と一致していて、動物園が大きな役割を果たせるかもしれないという期待がありました。それは今も続いていて、少なくとも野生に負担をかけないというのが、動物園が守るべきお約束、みたいなかんじになっています。

 動物園で飼われている個体群を、生息地にいる野生のものとは別の群れに見立てて、そのなかで回していくことになっています。飼育下でうまくいけば、やがて野生に戻せるかもしれないと考える人も多くいました。そこまでいかなくても、ゴリラの魅力を知り、同時に、生息地での窮状を知る場になればよいというわけです。

Mami 日本の場合はどうなのでしょう。

川端 日本の多くの動物園はもともと自治体の管轄で、動物って備品扱いだったんです。ゴリラはとても高価な「備品」なわけですね。そうすると、不都合なのは、たとえば、ゴリラが群れ社会で繁殖しやすいことがわかっていても、1頭飼いで繁殖できないゴリラをよその動物園に預けることができなかったんです。

 でも、今やっとそれが変わってきて、繁殖のために所有権を移さずに動物を移動するブリーディングローンが当たり前になってきました。上野動物園ではいろんな動物園から来たゴリラが群れを作って、繁殖も始めています。とはいえ、欧米に比べてスタートが遅く、日本全体ではゴリラの数はもう取り返しがつかないところまで減っています。

Mami 動物園で繁殖させることによって、野生から連れてこなくてもよくなる、というのは大変重要ですよね。動物園の動物は、園内で一生を終えなければいけない。その犠牲を強いるぶん、クオリティ・オブ・ライフを確保する必要があるのではないでしょうか。

川端 まさにその通りで、QOLが確保されないと繁殖までいかないので、このふたつは重なる部分が多いんです。繁殖するというのは、きちんと飼育できている証だということで、繁殖に情熱を傾ける飼育員が多かったのですが、今は逆に繁殖が成功しすぎると制限がかかります。同じ親だけが子どもを作るのではなく、別の個体に繁殖してもらったほうが、遺伝的な多様性が残るので。でも、種によっては、赤ちゃんができると、お母さんは手間がかかって、常同行動や異常行動をとらなくなることもあるんですよ。

Mami 同じ場所を何度もグルグルと行き来したり、食べ物を吐き戻したりしてしまう行為ですよね。限られたスペースに何年も入れられて、することがなにもないうえに、狩りなどをしなくても自動で食べ物が出てきてしまう。行動が制限された日々が続くわけですから、当然ストレスが溜まりますよね。

川端 その種にとって自然な行動をできるだけ引き出そうとする動きが、90年代くらいから始まっています。ぼくが見てきた範囲では、まず飼育員による自発的な動きから始まっているんですが、今は広く動物園に受け入れられています。たとえばAZA(アメリカ動物園水族館協会)に入る条件として、環境エンリッチメント(environmental enrichment=動物福祉の立場から、飼育動物の幸福な暮らしを実現するための具体的な方策)を掲げていることや、専従の職員を雇っていることなどがあります。日本でも環境エンリッチメントという言葉を知っている人が増えてきました。

 

日本に社会活動家が少ないわけ

Mami 動物園は必要か否かという議論の際に必ず出てくるのが、子どもが動物を見る機会を作ることによって、動物や環境を大事にしなければいけない気持ちが芽生えるという意見ですよね。

でもたとえば毛が抜けて禿げちゃってる動物が、同じところを行ったり来たりしているのを見てもリスペクトは生まれにくいし、それ以前に動物は檻に入っているものというイメージがついてしまうリスクもあります。

 

川端
 かわいそうなライオンやゾウという悲しいイメージが残ってしまうけれども、逆に近くで見られるからいいという人もいるから、動物園は今日も続いてきたわけです。その辺りの感受性は、人によってかなり違うと思います。でも、現場の飼育員で、それでいいと思っている人はまずいないのですね。

Mami 私も子どものときに行った動物園はあんなに楽しかったのに、今はもう昔のように素直に楽しめないんです。同じようなことを感じている人も結構いると思うのですが、欧米だとそれがデモやロビイングなどの社会活動につながって、動物園が現状のままでは運営できないところまで追い込まれたりしますよね。水族館も同じで、シャチのショーをやめざるを得なくなったりする。日本ではそういう活動が大々的にはなかなか行われていない気がします。

川端 やっぱり動物園・水族館の寛容派が多いからではないでしょうか。
例えばゴリラを今でも野生で連れてきていたりしたら、それは受け入れられないという人多いと思います。日本には市民活動のアドボケート(advocate=主唱者)というポジションがあまりないですよね。

Mami 今回のアメリカ大統領選挙以降、欧米社会は国民総社会活動家という感じになってきているように見えます。今はSNSがあるから、政治や社会に対していくらでも声をあげられるけど、日本の場合、社会活動家と普通の人というふうに、はっきり線引きがありますよね。自分ごと化されていないというか、自分たちで変えられるかもしれないという希望が薄い。

川端 英語で“make a difference”という言葉があるじゃないですか。サッカー選手がインタビューで言ったりすると、「違いを作ることができた」と直訳されがちなのですが、僕はそこに“a”がついているのが好きなんです。ちょっぴりの違いを誰でも生み出すことができる、という意味があの表現に込められていると思って。

Mami 日本人にやる気がないわけではなく、歴史的なことも関係していると思います。アメリカはイギリスへの反逆から生まれた国だし、フランスも国王と女王を処刑して市民が勝った歴史がある。そういう歴史を持つ国民は、自分たちが行動を起こせば変えられる自信が根づいているのではないでしょうか。

川端 おっしゃる通りだと思います。そうやって国を作った歴史が、教育のなかで語られているのは大事ですよね。変えられるという自信が、教育レベルでインストールされているわけですから。

 

水族館でイルカやシャチを飼うのは悪いこと?

川端 ゴリラの飼育について話しましたが、今動物園で悩ましいのはゾウです。あと、水族館のイルカですね。

 イルカについては、世界中でたくさん飼育されているのは、ハンドウイルカ(またはバンドウイルカ)です。日本では野生から簡単に供給できて、ある意味、経営上楽な環境だったので、飼育を向上させようとする流れになりにくかった背景があります。

 

 単純に飼育のレベルでいうと、アメリカでは、80年代以降は、野生から1頭も連れてこないで運営できているんです。それなのに、日本では、毎年、数十頭単位で野生から連れてきていました。日本の水族館って、魚類の飼育も展示も世界屈指のレベルなんですが、イルカについては完全に何十年も遅れています。

Mami 死んだらまた野生の新しいのを入れればいいや、ということですか?

川端 まさにその通り。そもそも日本人の感覚として、魚は食べるものだし、消費していいものというイメージがあります。それと似た感覚でイルカを飼っていたのかもしれません。

Mami こういう問題について考えるとき、なぜイルカをひいきするのか、じゃあ牛や豚はどうなるのか、みたいな疑問がよく出ますよね。個人的には苦しむ種が少なければ少ないほどいいと思う。全部の種を一気に守るのは現実的ではないので、そこで何の種を優先していくかは好みから入ってもいいと思っています。イルカが好きだから苦しむイルカを減らしたい、とか。ほかに苦しんでいる種がいるからイルカも苦しんでOK、ということではないですよね。

川端 しかも日本から見ていると、アニマルライツの人が言っていることと、アニマルウェルフェア(動物福祉)の人が言っていることは区別がつきにくい。

Mami 欧米だと全然違うのに。アニマルウェルフェアは、水族館や動物園の存在意義自体は認めた上で、そのなかで動物の幸福やQOLを確保しなくちゃいけないという考え方だけど、アニマルライツは水族館・動物園の存在意義をまず認めていません。北米では、シャチがとても問題になりますよね。あんなに大きい生き物をこんなに小さなタンクに押し込めるとは、というトーンでメディアにしょっちゅう取り上げられて、一般の認知も高い。そのため、今飼っている分はともかく、今後新しく追加することはありえない、という風潮ができあがっています。

川端 日本で、今、シャチがいるのは、鴨川シーワールドと、名古屋港水族館です。名古屋港の場合、シャチホコのイメージなのか、街のアイデンティティとしてシャチがいることが、とても大切なことのようですね。国外から連れてくるのが今は非常に難しくなってしまったので、一番新しいのは、鴨川シーワールドで繁殖したものを入れています。
(※1月27日のニュースによると、鴨川シーワールドから購入する方針を決めたそうです http://www.chunichi.co.jp/s/article/2017012790085444.html

 僕はMamiさんより寛容な立場で、水族館でイルカやシャチを飼って何が悪いんだろう、とも思います。シャチも北米では、90年代以降は野生から1頭も入れていなくて、人工授精に頼る方向ではあるものの、繁殖技術は確立しています。日本で飼育するならそこに追いつくべきなんですが、飼育頭数が少ないから長期的なビジョンは描きにくいです。かりに、飼育や繁殖で北米水準を実現できても、欧米では飼育自体が悪というふうに社会が変わりつつあります。シャチを飼い続けるだけで、国際的な非難を呼び込みかねないので、リスクマネジメントの観点としても、かなりの覚悟がいるんですよね。

Mami もともと飼うリスクのある動物で、さらに一般の意識としても飼うことにマイナスイメージがある場合、飼わないほうがいいというのは企業の選択としては自然ですよね。

川端 施設として明らかに飼えないのは論外ですが、そもそも種として飼ってはいけないのではないかというのが、北米での最近の論調です。そう考える顧客が増えたら、企業は違う選択をしなきゃならないでしょうね。

Mami シャチを飼っているなんて信じられない、という風潮が北米でできあがっているのは、社会活動家が何年も声を大にしてきた結果だと思います。

この対談の後編は、2月27日(月)公開予定です。

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 マスメディアではあまり話題にのぼりませんが、実は今、日本の水族館は様々な問題を抱えています。
 イルカやシャチの飼育の是非から、そもそもの水族館の存在意義まで。水族館を取り巻く状況を理解し、傍観者になるのではなく私たち一人一人ができることを考えるため、動物園関係者のバイブル『動物園にできること』著者で、捕鯨船での取材経験もある作家の川端裕人さんに、バイリンガルニュース Mamiが話を聞きにいきました。

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川端裕人

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。 デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、『声のお仕事』(文藝春秋)、『青い海の宇宙の港 春夏篇・秋冬篇』(早川書房)など。 メルマガ「川端裕人の秘密基地からハッシン!」(http://yakan-hiko.com/kawabata.html)

Mami Podcast「バイリンガルニュース」MC

1986年東京都生まれ。帰国子女ではなく、東京育ちのバイリンガル。2013年5月から、友人のMichaelと2人で英会話Podcast「バイリンガルニュース」を始める。世界中から2人がピックアップしたニュースを、ユニークなバイリンガル会話方式で無料配信しPodcast1位の大人気番組に! いつも阿佐ヶ谷のMichael宅で収録しており、独特のゆるーい雰囲気が魅力(放送中に荷物が届いたり、くしゃみしたり)。各エピソードの文字起こしテキストアプリも評判! ウェブアスタで相談エッセイ「バイリンガルニュースMamiのお悩みシェア」を連載中。http://www.webasta.jp/serial/onayami-share/
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