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No.1の感動作!『ツバキ文具店』

2016.11.25 公開 ツイート

ツバキ文具店を楽しむ 第2回

「作家×字描き×素描家」鼎談
手書きじゃないと伝えられないこと 小川糸

発売から半年。じわじわと感動の波が広がり、6万部を超えるベストセラーとなっている、小川糸さんの『ツバキ文具店』
鎌倉で文具店の主人をしながら、代書屋を営む女性・ポッポちゃんの物語が、こんなにもたくさんの人を惹きつけているのはなぜか。
今回は、作品を作り上げた著者の小川糸さん、プロの字描きである萱谷恵子さん、素描家のしゅんしゅんさんとの鼎談を通して、物語の魅力に迫ります。

 


 

手紙を書くのと、絵を描くのは似ている

 

小川 手紙を書くのも頂くのも大好きなのですが、本を書くお仕事をするうになって、知らない方からもお手紙をよく頂戴します。封を切った瞬間に、その人の周りにあった空気がふわっと立ちのぼってくることがあります。便箋とか文字の書き方から、どんな方なのかな、と想像するのが楽しくて。手紙にしかない空気感みたいなところを物語にできたらいいなと思って『ツバキ文具店』を書きました。
 そんな時に、実際に字書きとしてお仕事をされている萱谷さんの存在を知って、ぜひ物語の中に出てくる手紙を書いて頂きたいなと思いました。

萱谷 私にできるだろうかと、かなり不安はありました。ただ、一人の人が代筆屋として書いているという設定なので、だったらできるかなと。手紙の内容がすごくバラエティに富んでいて、毎回「ああ、こう来たか」と(笑)。

小川 わたし自身、一番大変だったのは、鳩子が最後に自分の文字で書いた手紙です。ずっとずっと考えて、答えが出なかったんですが、萱谷さんが書いてくださった手紙を見たとき、「あ、これだ」と。

写真を拡大
萱谷恵子さんが書いた鳩子の手紙

萱谷 鳩子の言葉で、「今、結局、まだこんな字しか書けません。でも、これは紛れもなく私の字です」っていうのがあるじゃないですか。あの言葉で、私は救われて(笑)。ただ、自分の今の字を書けばいいんだって。

小川 その人になり切って手紙を書く鳩子の苦しみを、萱谷さんも同じように味わい、表現してくださったのだろうなと思いました。カバーの装画は、以前にしゅんしゅんさんの絵を見る機会があって、いつかお仕事をご一緒したいなと思っていました。

しゅん ありがとうございます。僕はまず、「あ、これは鎌倉に行かないと描けない」と思って。鎌倉の空気を吸いに行ってから、小説改めて読んだら、自分が行ってみたいお店として「ツバキ文具店」の絵が浮かんできました。でも、それが読者の方の印象になってしまうのでとても心配でした。

 

書籍の扉に使われた、しゅんしゅんさんが描くツバキ文具店

 

小川 イメージとピッタリでした。私のぼんやりとしかなかったイメージを、お二人がピタッと形にしてくださいました。ありがとうございます。

しゅん そう言って頂けてよかったです。手紙を書くのと、絵を描くのってちょっと近いような気がします。建設会社員だった時に、とても居心地がいいカフェに行ったんです。席から見える景色を絵に描いて、後日ポストカードにして送ったら、店主の方がとっても喜んでくださって。自分が絵を描いたことで、誰かがこんなに感動してくれるんだって。とても嬉しかった記憶があります。それからしばらくして、会社員を辞めて絵の道に入りました。

 

仕事をするのは朝だけです

 

萱谷 鳩子の暮らし方がとても丁寧だなと思ったのですが、糸さんご自身もこういう生活をされているんですか?

小川 なるべく規則正しく生活をしたいなと思っています。イメージとしては太陽と共に起きて陽が暮れたら寝る。自然のリズムに則って暮らして、その中でものを書いたり、食事をしたり、ご飯を作ったりしていきたいなと。
 やっぱり暮らしが殺伐としていたり、忙し過ぎたりすると、手紙を書けないんです。週に一回ぐらいは手紙時間として、誰かに心を込めて手紙を書けるような、そういう時間の隙間みたいなものを持とうと心がけています。

萱谷 ああ、すごく見習いたい(笑)。私は映画の美術の仕事をしているのですが、時間的にも体力的にもとても過酷で。心身ともに消耗してしまったのですが、やっぱり寝ることが大事なんですね。たしかに、前日に落ち込むことがあっても、朝起きたらちょっと忘れてる(笑)。リフレッシュしますよね。

しゅん 僕も夜十二時に寝て、朝六時に起きる生活をしています。絵を描くのも朝が一番いいです。

小川 私も仕事をするのは朝だけです。空気が違いますよね。

しゅん そうなんです。外から入ってくる朝日を感じながら描くと、夜は「いい絵描けないな」って悩んでいたのに、コロッと描けちゃったりする。新しい朝ってすごくいいですよね。

小川 この本にも出てくるんですが、夜、手紙を書くと、とんでもないことまで妄想しちゃったりして。夜ってそれだけで、自分の気持ちがどこか違うところに持っていかれてしまうような気がします。

しゅん 僕は描けないときや煮詰まったときには散歩をします。田んぼだらけのところに住んでいるので、歩いているだけでとてもリフレッシュできるんです。

小川 歩くっていいですよね。私も物語に行き詰ったときは、いろいろな景色を見ながら歩きます。動いているうちに、「あ、そうか、こうすればいいのか」って、答えに辿りつけます。
 あと、平日は自分の足で歩ける距離しか移動しないことにしています。金曜日の午後からは、人と会ったり、友達とどこかに行ったり、いろいろな外からの情報やエネルギーを吸収する時間。日曜日はまた次の週に向けてゆっくり体を休めています。

萱谷 やはり創作の源は健康的な人間らしい生活ということですね。私もそんなふうに暮らしたいです。

 

※小川糸さんの『ツバキ文具店』特集は、「小説幻冬」創刊号に詳しく掲載しております。次回は、作中に登場する印象的な文房具を紹介します。公開は、12月2日予定です。

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小川糸

作家。デビュー作『食堂かたつむり』が、大ベストセラーとなる。同書は、2011年にイタリアのバンカレッラ賞、2013年にフランスのウジェニー・ブラジエ小説賞を受賞。その他の著書に、小説『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』『ライオンのおやつ』、エッセイ『グリーンピースの秘密』『昨日のパスタ』、絵本『ちょうちょ』『まどれーぬちゃんとまほうのおかし』など多数。ホームページ「糸通信」http://www.ogawa-ito.com/

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