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詩人のドバイ感覚紀行

2015.03.30 更新 ツイート

第4回

詩人、モスクを巡る文月悠光

 ドバイに滞在して一週間が経った頃、ある人がお祈りについてこのように説いた。
「何より前向きな力をくれるのは〈ゆるし〉です。毎晩、自分を憎む人にもゆるしを与えるよう神に祈ります。私は誰かのひどい言動や悪い行いをたくさん見てきましたが、祈ることで怒りを捨て、朝を気持ちよく迎えられるのです」
 その言葉にはいたく感銘を受けたけど、同時に「人をゆるすなんて私には無理だな」と思った。諦めるとか逃げるとか、後ろ向きの方法でしか、今まで自分の怒りを鎮めてこなかったからだ。

旅をご一緒した作家の鶴川健吉さんによるスケッチ。労働者のお祈りの様子。 

 あるUAE男性は夕食の席でこう言った、「お祈りするのにも、良いタイミングがある」と。たとえば静かな雨の日は、お母さんが子供の健康を祈るにはぴったりだという。「祈っているときには、お金の問題や家族の悩み、やらねばならないこと、一切から離れます」。お祈りの作法を話すと、彼は流れるように美しい動作でひざまずき、頭を床に擦りつけた。その瞬間、頭に巻いた白い布(グトラ)にあおられて、ふわりと風が吹き上げた。レストランのマジリス(絨毯を敷いたアラブ風のお座敷)はたちまち光を帯び、祈りの場となった。白の民族衣装・カンドゥーラが眩しい夜だった。あの「風」を浴びた日を思うと、あたたかな力が沸いてくる。

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文月悠光

詩人。1991年北海道生まれ、東京在住。高校3年の時に発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少で受賞。そのほかの詩集に『屋根よりも深々と』(思潮社)、『わたしたちの猫』(ナナロク社)。エッセイ集に『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)がある。NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、詩作の講座を開くなど広く活動中。 Twitter:@luna_yumi

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