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ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち

2015.03.21 公開 ツイート

第3回

自分撮りで満たす承認欲求の、暴走と過激化 高橋暁子

SNSを避けて通れない現状とどう付き合っていくべきかを、元教員のITジャーナリストが独自の観点で解き明かす『ソーシャルメディア中毒』。その一部をダイジェスト版でお届けします。(全5回)

前回の「“1”か“0”かの人間関係」では、SNS上の反応の数が価値と見なされる現状を見てきました。今回はその価値が、増長させ、過激化させる“承認欲求”について考えます。

*  *  *
 

 フェイスブックの創始者マーク・ザッカーバーグは、『マーク・ザッカーバーグ 史上最速の仕事術』(桑原 晃弥著/SBクリエイティブ)の中で「人間とは、本能的につながりたい生き物なのです。インターネットは人と人をつなぐ道具であって、それ以上でもそれ以下でもない」と言っている。

 今から約15年前の2000年頃から、主だったSNSは誕生した。SNSは電話やメールのように一対一ではなく、不特定多数とつながり、一対多でやりとりされるコミュニケーションツールだ。機能的に、伝えることが目的というよりも、つながり自体が目的となる傾向にある。

 では、人はなぜSNSを使うのだろうか。

「つながりたい」という社会的欲求のため。

「他人に認められたい」という承認欲求のため。

 純粋に「情報を得る」という機能的な目的のため。

 自己を他者にさらけ出してカタルシスを感じるためや、自己肯定感を高めるためなども考えられるだろう。

 ティーンは、始終SNSを利用する。テレビを見ながら、お風呂に入りながら、ベッドに入ってからも、食事中や友達と会っている時も、「ながら利用」をする。一日の利用時間は数時間に上る。SNSを使ったからといってお金をもらえるわけでもなく、やらなければならないわけでもない。格別面白いエンターテイメントというわけでもない。

 それだけの時間と手間をかける理由は、孤独な彼らがつながりを感じられるからだ。

 誰にも認めてもらえない彼らが、認めてもらえるからだ。

 ストレスに苦しめられる彼らが、ストレスを解消できるからだ。

 自己肯定感の低い彼らが、自分を認めることができるからだ。

 どれも、ティーンは心から必要としているが、日常生活だけでは満たしきれていないことだ。その欲求が高じて、彼らは承認を求めて投稿を繰り返す。

 では、改めて「承認欲求」とは何だろう。

 マズローは、人間の基本的欲求を低次から、食事・睡眠などの根源的な欲求「生理的欲求」、健康で安全に暮らす欲求「安全の欲求」、社会に必要とされ社会的役割を感じたい「所属と愛の欲求」、集団から価値ある存在と認められ尊重されることを求める「承認の欲求」、能力や可能性を最大限に活かしてあるべき自分でありたい「自己実現の欲求」の5段階に分類した。現代日本に生きるティーンたちが、下位の欲求が満たされないということはほぼない。そこで、次の段階として「承認欲求」を満たしたいと考える。

 承認欲求には、大きく分けて「他者承認」と「自己承認」の二つがある。他人から認められたいという想いと共に、自己肯定できる自分でありたいという想いがあるのだ。他者に認められるだけでなく、今の自分に満足して好きになれるか、自己肯定できるかということも承認欲求のひとつであり、大きな課題となる。

 ところが、ほとんどのティーンは、認められたい願望と誰からも認められない現実のジレンマに陥っている。一般的に、現実の生活ではどんなシーンで認められる可能性があるだろうか。

 部活で代表に選ばれた時。

 中間・期末テストで上位に入った時。

 絵画などのコンクールに出品して入賞した時。

 異性に告白されたり付き合ったりしている時。

 他人に親切を施して感謝の言葉を述べられた時。

 しかし、このようなことは誰にでもできることではないし、しょっちゅうあることでもない。頑張ったからといって、必ずしも評価してもらえるわけではない。それと同時に、まだ何者でもないからこそ、彼らは承認に飢えている。

 認められたいけれど認められないティーン。そこにSNSという自己表現の場が誕生し、一人一端末が行き渡るようになった。ティーンの欲求にSNSがはまった瞬間だ。

 では、承認欲求は悪なのだろうか? そうではないだろう。

 承認欲求とは、既に述べた通り自分と他者に承認されたいという誰もが持つ当然の欲求だ。自分と他人に認められることで自尊心が高まり、自己肯定力も高まるものだ。自己肯定できなければそもそも自信が持てず、自分の人生を生きることも難しいだろう。

 つまり、コントロールできれば決して悪いものではないはずだ。ただ、暴走して自分を苦しめたり、自分がすべきことができなくなったりすることで問題は起きる。承認欲求は誰にもあるものだが、自分の中で飼い慣らすべきものだ。どんなものでも暴走すれば良い結果はもたらさない。

 本来は、自分自身と、身近にいる家族や友人などの大切な人が、彼らを肯定できればそれで済んだ。ところが、彼らは不特定多数に認められることを求めるようになってしまったのだ。不特定多数に求めることで、その気持ちを悪用する大人が現れたり、自らを消耗させたりすることにもつながっている。「かまってほしい」「褒めてほしい」「認めてほしい」がSNSで暴走し、周囲にとって迷惑行為となってしまっているのが現状なのだ。

 

自己顕示欲の暴走と過激化

 10代の少女たちには、毎回投稿内容とは無関係の自分撮りした写真を公開している子が多い。コメント欄には、彼女たちを好意的に思っている男性からの「可愛い!」という賞賛のコメントが寄せられる。

 元来女性は、外見の魅力を認めてもらいたい気持ちがとても強い生き物だ。文化的に、男性から見て魅力的であることを求められてきた歴史が影響しているのだろう。それ故か、SNS内で自分の写真を頻繁に投稿するユーザーには、男性より女性の方が圧倒的に多い。いわゆる自分撮り(セルフィー)は、ティーンの間で日常的なこととなっている。

 自己愛や自意識の強い女性は、自分の容姿を高く評価しており、異性から魅力的と賞賛されることを期待している。自分が可愛く見える角度を熟知しており、周囲の反応を試しているのだ。

 SNS内有名人を目指す人もいる。

 フェイスブックの中のある女子高生は、毎日のように自分の写真を投稿する。しかも、日によって「今日はバストアップ」「今日は脚」と、なぜかミニスカートから伸びた脚の写真が登場する。コメント欄を見ると、明らかに知り合いではない男性たちから、「きれい」「可愛い」「もっと見たい」と賞賛のコメントが寄せられている。彼女は、この賞賛を受けるために自分の写真を毎日投稿する。「みんなが求めるから」脚を出したり、露出を増やしたりして、注目されることでいい気分を味わっているのだ。

「もっと見てほしい」「認めてほしい」。そのような承認欲求が強くなると、彼女たちは動画を配信し始める。

「ツイキャス」以外にも、ティーンに人気のニコニコ動画の生放送版「ニコニコ生放送」で配信をする者もいる。「歌ってみた」「踊ってみた」「演奏してみた」などのタグで調べると、配信主が自分の歌や踊り、演奏などを配信している様子を見ることができる。真剣にプロデビューの機会を狙っている人もいるが、賞賛される喜び、注目される喜びを味わいたいだけの人が大半だ。自分が中心となり人に見られる快感に、どんどん内容を過激化させながら自分をさらし続ける人は多い。

 男性が自己顕示欲をこじらせると、女性とは違った方向に問題が起きてくる。

 2012年10月、大阪府の中学3年生男子が不正アクセス禁止法違反容疑で検挙された。インターネットでフィッシングサイトのプログラムをダウンロードし、ドイツにあるサーバー経由で会員制コミュニティサイトのログイン画面と誤認させるサイト、つまりフィッシングサイトを開設したのだ。不正に得たIDとパスワードはネット上の知り合いに渡していた。彼は、「こういうことができると示したかった」と、自己顕示欲を満たすために犯行を犯したと供述している。

 2013年4月にも、神奈川県の無職少年(15歳)が不正アクセス禁止法違反などの疑いで逮捕されている。彼は、匿名化ソフト「Tor(トーア)」を使って発信元を特定されにくくした上で、他人のIDやパスワードを利用してサーバーに侵入、他人のサイトを改ざんした。彼もやはり犯行の動機について、「(ハッキングしたら)かっこいいから」と答えている。ハッキングとは、他人のシステムやコンピュータを不正な手段で操作、情報を入手することであり、セキュリティを破る行為だ。破ることで自分の力を見せつけることができ、反体制の感覚も味わえたというわけだ。

 どちらも自己顕示欲が歪んだ形で暴走し、過激化した故に起きた事件といえるだろう。

 

※第4回「『きずな』に依存する子どもたち」は3月28日(土)の更新予定です。

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ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち

全国でネット依存の可能性がある人は421万人、中高生は10人に一人といわれています。ミクシィの誕生から10年。SNSはコミュニケーションインフラと化した一方で、若者を中心に問題が後を絶ちません。なぜ事件は頻発するのか、なぜ依存してしまうのか。その危険性と不自由さを暴くと共に、SNSを避けて通れない現状とどう付き合っていくべきかを、元教員のITジャーナリストが独自の観点で解き明かす『ソーシャルメディア中毒』。その一部をダイジェスト版でお届けします。(全5回)

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高橋暁子 ITジャーナリスト、情報リテラシーアドバイザー

元小学校教員で、Facebook・Twitter・LINEなどのSNS、子どものネット・スマホの安全利用や情報モラル教育に詳しい。書籍・雑誌・Webメディアへの執筆のほか、学校での講演、社会人向けのセミナー、企業コンサルタント、テレビやラジオへのメディア出演など、活動は多岐にわたる。『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(日本実業出版社)、『ソーシャルメディアを武器にするための10カ条』(マイナビ新書、共著)など著書多数。

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