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食わず嫌い女子のための読書案内

2015.03.13 公開 ポスト

ホリエモンの半生から日本IT史が見えるささきかつお(作家)

 

 

『我が闘争』
堀江貴文
幻冬舎刊 \1,512

起業、結婚、離婚、ITバブル、球団買収、衆議院選挙立候補、ニッポン放送株買い占め、ライブドア事件、逮捕、服役、そして新たなステージへ。闘い続けてきた著者による、早すぎる自叙伝。

 

スマホ、ウィンドウズ
今は当たり前ですけど

 スマートフォン。
 この言葉。もう当たり前すぎて(何を今さら)と思われるかもしれませんが、十年前はほとんどの方が知らなかったでしょう。
 さらに二十年前のウィンドウズ95って覚えてます? 発売当日の大騒ぎってば、iPhone 6を超えるすごさがあったんです。今は、これまた当たり前のように私たちの身近に入っていますよね。
 情報通信サービスの発達はものすごいものがあります。特にこの二十年くらいは加速しているんじゃないかと思うのは私だけでしょうか? 今の若い人たちにそんな話をしますと、物心ついたときにパソコン、ケータイはあったしぃ~って言われちゃいまして……思わず遠い目になってしまう当方、四十代後半の年男であります。
 とまあ自分のコトはさておきまして、同じ四十代でもまだまだ世の中と闘い、目まぐるしく進化する時代を引っ張っておられる方の本を、今回はご紹介したいのです。
 ホリエモンこと、堀江貴文さん。
 ああ、あの方ね─と顔が思い浮かびますよね。著作が多い方なので書店で彼の本を見たこともあるでしょう。でもライブドアとか刑務所とか、彼のことは断片でしか記憶にないのでは。どこから来て、何をして、今何を考えておられるか──これが意外とわからないのでは。
 ご紹介する『我が闘争』は、ホリエモン自ら語る半生記です──え、興味ない? いえいえ、そんなコトは言わせませんよ。その内容はあなたの身近なモノたち(特にパソコン、インターネット)の歴史も振り返ることができるのですから。

九州の田舎にいた天才少年
黎明期のパソコンにはまる

 前半は出生から東大入学までの非凡な少年時代を振り返っていきます。
 五歳のとき、骨折をして幼稚園を一カ月休んだ堀江少年は、あまりにも暇なので家にあった百科事典を開きます。「これが情報ジャンキーへの第一歩となった」と本文にあるように、紙の上の情報がするすると頭の中に流れこみ、心地よかったそうです。
「教科書を一度読めばたいてい理解できた」
「勉強らしい勉強はしたことがなかった。それでもテストはいつも100点」
 ここまで書かれると嫌味に思えません。
 福岡で一番の進学校に「なんなく合格」した彼はパソコンに出合います。このとき一九八五年、入学祝いで買ってもらったMSXパソコン「日立H2」が人生第一号となります。冒頭のウィンドウズ95からさらに十年前に中学生がパソコンを所有していたのです。ところが知識と技術が高まってくると、このマシンでは満足できなくなり、当時通っていた塾のパソコンや、家電量販店のデモ用マシンをいじり始めます。恐ろしい中学生です。そして新聞配達でお金を貯め、NECの「PC ‒ 88FR」を手に入れます。さらに塾のパソコンのシステム移植作業という「ギャラ十万の仕事」までするのです。
 パソコン漬けの日々で「勉強する必要をまったく感じていなかった」という彼は成績を下げます。けれど東大に行くと決め、一日十時間の睡眠時間を確保し、残りの十四時間を勉強に費やします。
 そして東大に合格──とまあ概要だけでは天才少年の面しか見えませんが、両親の不和、彼らへの違和感、学校での疎外感など悩める姿も赤裸々に描かれています。そう、ホリエモンだって人間だもの。

インターネットに出合い
会社を立ち上げ、そして

 さて、半生記は東大入学から加速していきます。
 まず彼は大学に通いません。一流企業への就職を目指して勉強する同級生を「馬鹿じゃないの?」と思い、勉強に興味を持てなくなったのです。代わりにのめり込んだのは麻雀、競馬──気がつけば大学四年生になっていました。さあどうしよう、そのとき彼はパソコンの存在に気づくのです。プログラムのアルバイトからMac関連の仕事、そしてついにインターネットに出合います。このとき一九九五年、日本語のホームページは十サイトほどしかなかったそうです。
 インターネットに魅(み)せられた彼は「オン・ザ・エッヂ」を起業、これがのちの「ライブドア」になるわけですが、この二〇〇〇年前後は「日本IT史」と言っていいほど当時の状況がわかって、興味のある人にはたまらない内容です。登場する人たちも、たとえばハイパーメディアクリエイターの高城剛さん(ほら、沢尻エリカ様の……)や、サイバーエージェントの藤田晋さん(アメブロや、755とか)と、知っておられる方の名前が並びます。
 こうしてネットバブルの狂乱の中に飲み込まれていくわけですが、新米社長として奮戦する彼の環境はイケイケドンドンだったわけではなく、軋轢(あつ れき)、確執が増えていきます。アカデミー賞を受賞した映画『ソーシャル・ネットワーク』をご存じかと思いますが、まさにあの日本版、いや、あれ以上のドラマがこの本には詰まっています。

M&A、政治、刑務所……
彼は何を考え、どこへ行く

 ライブドアの名前が世に出始めてからは、みなさんもご存じの出来事が多いでしょう。二〇〇四年はプロ野球球団の買収に乗り出し、翌二〇〇五年はニッポン放送株の大量取得で世間を騒がせ、同年に総選挙に立候補、そしてライブドア事件……服役。
 これらの出来事はウィキペディアや関連書籍で調べればいくらでも内容紹介が出てきます。けれど、この本『我が闘争』は堀江貴文が語ったものです。当事者であるホリエモンが、なぜ生き急ぐかのようにアクションを起こし続けたのか。その答えは本書のはしばしで本人が語っています。たとえば球団買収では楽天に敗れたものの「旧態依然としたプロ野球界に風穴を開けたのだ」と胸を張り、政界進出についてはIT技術が進歩しているので公務員数や自治体合
併で国家のシステムをコンパクトにすべきだという改革案を熱く語っています。さらに騒ぎ立てるマスコミや世論については「そんな意味のないことに気持ちや時間を取られるくらいならば、目の前の自分のやるべきことに集中した方がいいに決まっている。人生は短い」とキッパリです。
 実はこの自叙伝、長野刑務所で服役していたときに書き始めたのですが、本人は過去を振り返ることに意味を見いだせなかったそうです。ところが独房生活の長すぎる就寝時間の中で暇に苦しみ、未来にも不安がつのり精神が不安定になった。だから過去を思い出してやり過ごすしかない──それが本書の生まれたいきさつです。
 服役を終え、本を書き終えた今、「いよいよもって僕は過去に興味をなくしている」とのこと。今を生きることに集中したい彼は、宇宙事業に乗り出し、忙しい毎日を送っています。社会の慣習、常識に対して闘争してきたホリエモンは、これからも闘っていくと宣言しています。
 振り返らず、闘い続ける男、ホリエモンに魅せられるのも一興。そして目まぐるしく変わる日本IT業界の変遷を知る資料としても、なかなかに興味深い本になっているんですよ、これ。
 

『GINGER L.』 2015 SUPRING 16号より

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食わず嫌い女子のための読書案内

女性向け文芸誌「GINGER L.」連載の書評エッセイです。警察小説、ハードボイルド、オタクカルチャー、時代小説、政治もの……。普段「女子」が食指を伸ばさないジャンルの書籍を、敢えてオススメしいたします。

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ささきかつお 作家

1967年、東京都生まれ。
出版社勤務を経て、2005年頃よりフリー編集者、ライター、書評家として活動を始め、2016年より作家として活動。主な著作に『空き店舗(幽霊つき)あります』(幻冬舎文庫)、『Q部あるいはCUBEの始動』『Q部あるいはCUBEの展開』。近著に『心がフワッと軽くなる!2分間ストーリー』(以上、PHP研究所)。

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