二〇二〇年刊のデビュー作『明け方の若者たち』が大ヒットし、最高の初速度を得て作家の道を歩み始めたカツセマサヒコさん。挑戦と経験を重ねてきた作家の最新刊『憂鬱な恋の忘れ方』は、デビュー作以来となるど真ん中の恋愛長編小説です。主人公たちの恋愛の推移をまっすぐ見つめるような物語を描いたのは久しぶり。物語の生まれたきっかけなどをお話しいただきました。
(小説幻冬11月号より転載)
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引きずった状態から何がきっかけで「やっぱり自分はこの人なんだ」と自覚するのか
――若い男性主人公と年上女性との恋愛、その大失恋を描くことなど、『憂鬱な恋の忘れ方』はデビュー作『明け方の若者たち』とシンクロする部分が多々見受けられます。ただ、重なっている要素があるからこそ違いも際立っている。まず初めに、本作で恋愛小説を書こうとした経緯をお伺いできますか。
カツセマサヒコ(以下、カツセ):今の自分がもう一度『明け方の若者たち』のような、心身が無茶苦茶になるような恋愛を書くならどんな話になるかな、という興味が出発点でした。
――逆に言うと、主人公たちの恋愛の推移をまっすぐ見つめるような物語は、しばらく書いてこなかった。
カツセ:そうですね。デビュー作は映画化されたこともありたくさんの人に読んでいただいて、恵まれすぎていたんですが、「カツセさんは恋愛小説の人ですよね」って見方をされるのがイヤだなと思う時期もあったんです。先輩作家たちとお会いした時も「男性作家で恋愛小説を書く人はあまりいないから、書いてよ。読みたいよ」と言ってくださる方がいて、なるほどなぁと思ったんですが当時は反抗期を迎えていたからすんなりとは受け入れられなかったんです(苦笑)。
ただ、先日四十歳になりまして、年齢を重ねることで見えてきたものや感じ方が変わったものもたくさんあるんですね。小説家を数年間続けてきた経験も含めて、自分や周りの変化や蓄積を反映させることで、恋愛の話ではあるんだけれども人生そのものの話でもあるような、一回り大きな作品ができるんじゃないかなと思ったんです。
――主人公は大学四年生の橘ユウスケです。東京・四谷にあるインターン先の制作会社で、「社歴十年目」とありますからおそらく十歳ほど年上の青羽ユウコと出会い、恋をする。片想いでは終わらず体の関係も結ぶようになり、クリスマスイブもデートをしてラブホテルに泊まる……というオープニングです。一連のエピソードの中にはときめきが詰め込まれていて、クラクラしました。
カツセ:序盤は意図的に恋愛小説の要素を最大限に強調して書いています。読者が恋愛小説というものに対して期待しているであろうものを、期待以上のものにして打ち返すことを意識していました。
――序盤で特にお気に入りのシーンなどはありますか。
カツセ:一番恥ずかしい、となったやつならすぐ言えます(笑)。ユウスケがバレンタインデーに、手作りチョコをユウコに持っていくところ。「これがベストアンサーなんだ!」と思って突っ走ったら大間違いで、どスベりする。あそこは書いていて本当に恥ずかしかったですね。自分にもそういうところがあるから、だと思うんですが。

――ただ、イブの翌朝、ユウコは家に帰ると言うんですよね。これまで一度も家に招かれたことがないし、陽が昇る前には必ず帰ってしまう。
理由なんて、怖くて聞けない。
でもきっと、理由がなきゃ、そんなに早くに出ていかない。
ずっと一緒にいたい。
全身でそう思いながら、指先は、〈もう会いたくないです〉と、送っていた。
最高に幸せだったはずの日が別れの日になるということが、一章の時点で暗示される。二章でその事実が確定し、三章では社会人編に突入します。展開が早いですね。
カツセ:『明け方の若者たち』と全く同じことをやってもしょうがないし、失恋は早々に書いてすぐ次の展開に進もうと思っていました。新しい人と付き合ったんだけど、前の人が忘れられない、そういう恋が世の中にはまだまだ多いなと思うんですよ。じゃあ、引きずった状態から何がきっかけで「やっぱり自分はこの人なんだ」と自覚するのかを、じっくり書きたいなと思っていたんです。
――ユウスケの前に現れるのが、新卒で入社した品川の広告代理店の同期・伊咲です。彼女の健気さと情熱が、彼を新しい場所に連れ出してくれる。伊咲は本当に魅力的ですよね。読者はみんな「どうして伊咲じゃダメなんだ?」と思うはずです。ところが、ユウスケがインターン時代の上司と再会し、ユウコのSNSアカウントを知ったことにより、運命が大きく動き出すこととなる。
カツセ:伊咲は、キャラクターの人気投票をした時に一位になるような人物にしたいと思いながら書いていました。主人公はまずならないだろう、と踏んでいたんですよ。ユウコのことを引きずってウジウジしているし、そうこうしている間に伊咲との恋愛がどんどん進展していくのに、それでもまだ迷っている。弱いし、流されるし、情けない男なんです。そんな主人公をちゃんと悪者にしてくれる、最高のヒロインが必要でした。
また、フる・フられるの不思議なパワーバランスのことも書いてみたいなと思っていました。どの恋も、フった側がフられたような顔するよなっていつも思っていたんです。長編の恋愛小説じゃなきゃ書けないことが自分の中に溜まっていたような気がします。
(続きは明日、公開します)
構成・文/吉田大助 撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)












