誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに、そんな「待つ時間」をテーマにして選曲&言葉を綴っていただきます。
まだ夏の熱を孕んだ舗道が、薄い月の下でゆっくりと眠りはじめている
空は青というより、青になる途中の傷口だった
人の群れがスクランブル交差点を渡ってゆく
無数の影
無数の孤独
そのすべてが、一瞬だけ同じ光に濡れて、また別々の夜へと消えていく
街の片隅から流れる甘い旋律が、君や僕の揺らぎを颯爽とつかまえて
季節の名前を呼びながら、もう戻れない時間の匂いを呼び起こしていた
遠い記憶のなかで、私たちをこの世に産み落とした誰かの手が光っている
顔はない
声もない
触れた瞬間だけが小さな火のように残って、思い出は跡形もない
愛したものは、いつも少しずつ壊れてゆく
花のようにではなく、夜の水に溶ける鉱石のように
失われるものだけが、色彩の魔法を持つ
街の灯りが滲んでいる
黄色い光は蜜になり、赤い光は血になり、青い光は名前のない海になる
その海を、誰も知らずに歩いていた
過ぎ去った季節が最後に吐き出した透明な息と共に、だんだんと夜は深くなる。
消えてしまったものが消えたまま美しくあるための場所を、この街に漂う夢のどこかに探している

竹内まりや『Expressions』(2008年、ワーナーミュージック・ジャパン)収録
渋谷で君を待つ間にの記事をもっと読む
渋谷で君を待つ間に

誰かを待つ時間、あなたはどんな風に過ごすでしょうか。
その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
この連載では、そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽を、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに毎回紹介していただきます。
- バックナンバー
-
- 触れた瞬間だけが小さな火のように残って ...
- ガラスに映る顔を見つめて - 三浦透子『...
- 奇蹟と呼ばれるものは、たぶん - THE...
- その淡い輝きは、世界を照らすためではなく...
- この瞬間だけが異様な密度を帯びて存在して...
- 誰かを愛した記憶も、失った季節も - 忌...
- たとえ何にも代え難い大切なものだとしても...
- 近づくことと、触れ合うことは違うのに -...
- それでも誰かを求めてしまうのだから - ...
- ただ、崩れゆく均衡のなかで - 折坂悠太...
- 声も笑いも思い出の中に佇む君には - a...
- 街は今夜も静かな水の像のように - BT...
- 音だけが先に季節を越えてゆけるのなら -...
- 救いとは、劇的な変化ではなく - Rol...
- 確かなものを握ろうとする指先から、光はこ...
- そのリズムが止んでも幻視は続き - XG...
- 数えきれない始まりの気配が - 高橋幸宏...
- 君と僕が描いた思い出の色彩の洪水が - ...
- 心の境界線を曖昧に - 星野源『生命体』
- 風と時間の気まぐれに晒され続けて - R...
- もっと見る










