心は鍛えるものではなく、「整える」もの。
着実に成長するサッカー日本代表をコーチとして支える長谷部誠が編み出した不朽のメンタル論『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』。
累計160万部を突破したこの書籍から、一部を抜粋してお届けします。
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ベンチは、監督を丸ごと観察できる特等席だった
選手にとって、自分の力不足を最も痛感させられる瞬間のひとつは先発から外れて、ベンチから試合を見ているときだ。試合が始まったらチームメイトを応援するが、先発から外れた悔しさはそう簡単に消えない。落ち込まないと言ったら嘘になる。
けれど、ベンチで塞ぎ込んでいても何もプラスにはならない。むしろ、監督からの印象が悪くなってしまう。ベンチに座っているときこそ、選手にとって大切な「頑張りどころ」だと僕は考えている。
なぜなら、監督がどんな指示を出しているかをすぐ横で見る絶好のチャンスだからだ。

試合に出ているときというのは、監督からの声は聞こえるものの、ずっとベンチを見ているわけにはいかないので、監督がどんなプレーに満足し、どんなプレーで怒るのかは断片的にしか分からない。
一方、ベンチにいたら監督の振舞いをすべて確認できる。
08‐09シーズンのことだ。右サイドバックにイタリア代表のザッカルドが加入し、それまで同ポジションを務めていたリーターが右MFにコンバートされた。もしくはリーターは右サイドバックのままで、ザッカルドが右MFに入ることもあった。ザッカルドの加入により、僕は先発から外れることが多くなった。
リーターは運動量があるだけでなく、クレバーで僕が尊敬している選手のひとりだ。2010年のワールドカップ後、ドイツ代表監督の目に留まり、代表にも呼ばれるようになった。まだ僕がそんなにドイツ語を話せないときから、食事やディスコに誘ってくれて、今でも仲良くさせてもらっている。
一方、ザッカルドはフィジカルの強さが売りで、イタリアが2006年ワールドカップで優勝したときのメンバーだ。
けれど、ポジション争いに実績なんて関係ないし、すぐにレギュラーを奪い返す自信があった。
僕はベンチにいるとき、マガト監督がMFにどんな指示を出し、どんなプレーに一喜一憂するのかをじっくりと観察した。その結果あらためて分かったのは、僕が思っている以上にマガト監督はリスクの高いパスを嫌うということだった。前方の2トップに向かって、ロングボールをドーンと放り込むのはいいが、ショートレンジのパスをカットされてカウンターを食らったときには、声を張り上げて怒っていた。
MFとしては局面を一発で打開するパスを出したい……という誘惑にかられるが、僕は今までよりさらに
Sicherheit
(ドイツ語で「確実性」の意味)を大事にして、プレーするようになった。
結局、ザッカルドがチームのやり方にうまくハマらなかったこともあって、リーターが右サイドバックに戻り、僕は再び右MFとして先発できるようになった。ベンチでふてくされているだけだったら、おそらく状況を変えることはできなかっただろう。
「彼のためにも今日は勝とう」——その一言で、すべてが変わった
監督の「言葉にしない気持ち」を意識的に考えるようになったのは、プロになってからだ。
これは浦和レッズの1年目、オランダ人のハンス・オフト監督との出会いが大きかった。
レッズに加入したとき、僕はほぼ無名の存在で自分としては「失うものはない。思いきってやろう」と力が入っていた。練習から遠慮せずにガツガツとプレーし、チームメイトに文句を言われても、その場ですぐに言い返した。監督に反論することすらあった。
もしかしたら、Jリーガーになったことでどこかに驕りが生まれていたのかもしれない。のちに記者の方に教えてもらったところによると、当時オフト監督はこう感じていたそうだ。
「ハセベは天狗になりやすいところがある。だから1年目はプロの厳しさを教えなければいけない」
オフト監督は、ある方法で僕に厳しさを叩き込もうとした。
Jリーグの試合のベンチ入りメンバーは18人に決められている。だが何かあった場合に備えて、レッズは1人多い19人を試合に帯同させていた。つまり誰か1人が試合当日にメンバー外になるということだ。
当日、スタジアムに向かう前にホテルでミーティングを行なう。そこでオフト監督はまず先発メンバー11人を発表し、続いてベンチに座る7人を告げる。ここで名前を呼ばれなかった「ひとり」が登録メンバーから外れなければならない。
プロ1年目、僕はことごとく、その「ひとり」になった。

18歳の僕にとって、それを受け入れるのは簡単じゃなかった。
ホームならまだしも、アウェイに行ってもベンチにすら入れないのは本当につらい。直前にベンチから外すなら、最初から行かない方がマシだと思うときもあった。人生初の外国人監督に対して、不信感を抱きつつあった。
だが、あるとき僕は勘違いしていたことに気づかされる。
いつものように僕の名前だけ呼ばれず、ベンチ外が決まったときのことだ。オフト監督は最後にこうつけ加えた。
「今日、ベンチに入れなかった選手がひとりいる。彼は今トレーニングをすごく頑張っている。彼のためにも今日の試合は勝とう」
監督はちゃんと自分を見てくれていたのだ。
決して嫌がらせでベンチ外にしていたわけではない。
大げさに言えば、英才教育をしてくれていたようなものだ。
この経験があったからこそ、試合に出られない選手の気持ちを理解できるようになったし、慢心が膨らまないよう自分を客観視できるようになった。
クラブでも代表でも、新しい監督と出会うたびによく観察し、言葉にしない行間を読むようにしている。表面的な出来事や印象だけで分かることは限られているのだ。
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心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣

心は鍛えるものではなく、「整える」もの。
着実に成長するサッカー日本代表をコーチとして支える長谷部誠が編み出した不朽のメンタル論『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』。
累計160万部を突破したこの書籍から、一部を抜粋してお届けします。












