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47都道府県おいしいもの巡り

2026.05.23 公開 ポスト

酒蔵でいただいた山形のイモ煮阿古真理(作家/生活史研究家)

作家・生活史研究家の阿古真理さんの新刊『47都道府県おいしいもの巡り』が発売になりました!人生最高のウニ・イクラ・蟹丼のエピソードや、各地で愛される「小麦粉だんご」の謎。向田邦子が愛したつけ揚げの秘密など、思い出の味から旅先で出会った名物までを縦横無尽につづった食文化エッセイです。少しずつですが試し読みをどうぞ。

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2000年代半ばに酒蔵取材で各地を回った折、食べた料理で特に印象に残ったのが山形のイモ煮だった。関西出身の私にとって、東北はなじみが薄い。そんな私が、内陸の河北町の酒蔵で、牛肉や玉こんにゃくなどとサトイモが入ったイモ煮をいただいた。東京を含め東日本は味つけが濃くて汁ものの色も濃い、と思っていた私に、汁の色が薄くすっきりした上品な味わいが意外だったのだ。江戸時代に交易を通して京都の文化も入ってきていたと聞き、イモ煮に関西風味をかぎ取ったのかもしれない。

酒蔵は地域の要で、文化や経済を引っ張る庄屋が開業した例も多い。土地の魅力を伝える宣伝係も担っているのだとすれば、その酒蔵はしっかり役目を果たした。何しろ無知だった私は、その体験一つですっかり山形は食文化が豊かでグルメな土地、と信じたのだから。その後山形は、在来野菜が多く残っており、今もそれらを大切に守る地域として有名になったのだから、その思い込みはあながち外れでもなかったようだ。

山形で九月に河原などに集まって開催するイモ煮会の話は、当時から知られていたと思う。私は「あのイモ煮ね!」と思いながら、いただいたのだから。調べてみると、山形のイモ煮会の知名度が上がったのは、1989(平成元)年に始まった、全国にその食文化を発信しようと直径6メートル前後もある巨大な鍋でイモ煮を振る舞う「日本一の芋煮会フェスティバル」がきっかけだった。

2007年から放送が続く人気バラエティ番組「秘密のケンミンSHOW」(現「秘密のケンミンSHOW極」)などで、全国のご当地文化が紹介され注目されるようになると、山形以外の各地にイモ煮の文化があると知られるようになった。山形県内でも、地域により違いがある。米沢がある南部の置賜地方は、もちろん肉は牛肉で、糸こんにゃくを使い、醬油味ベースで隠し味に味噌を入れる。私が行った内陸の村山地方は、牛肉で甘めの醬油味。北部の最上地方は豚肉でキノコをたくさん入れ、醬油味にする。海が近く北前船が寄港した酒田市がある庄内地方は、豚肉で厚揚げも使い、味噌味である。

東日本大震災がきっかけで結成された全日本芋煮会同好会のウェブサイトによれば、東北地方では他に岩手県、宮城県、福島県で、また、遠く離れた島根県津和野町、愛媛県大洲市にもイモ煮文化がある。

山形のイモ煮の歴史をひもといてみよう。発祥については諸説あるが、よく知られているのは、上方との交易の大動脈だった最上川の舟運の終点だった村山地方の中山町長崎で、荷受人が来るまで何日も待たされるため、船頭たちが退屈しのぎに河原で鍋を囲んだという説。近くのサトイモの名産地、小塩でサトイモを買い、積み荷の棒ダラなどを一緒に煮たという。

明治時代になると、旧制高校の生徒や駐在兵士らなど、いろいろなグループのイモ煮会が河原で開かれるようになった。また、『日本の食生活全集(6)聞き書 山形の食事』を見ると、村山盆地の天童市で、秋に廃鶏やサトイモ、こんにゃく、ネギなどを入れた「いも子汁」を食べる習慣があったほか、置賜地方で九月一三日の「いも名月」に、いもご(サトイモ)、鶏肉、こんにゃく、ニンジン、ネギ、大根などを入れて溜まり醬油で味つけした「いもご煮」を食べる習慣が記されている。

芋名月とは「中秋の名月」のこと。この日はサトイモを供える、あるいはサトイモを模した月見だんごを供えるといった風習が各地にある。サトイモは、コメが伝わるまで、日本列島に住む人々が主食にしていたとされる食物の一つ。イモ煮にはそんなルーツを彷彿させる側面があり、素朴な味わいがどこか懐かしい。そうした食べものは、確かに親睦会にうってつけではないだろうか。

初出:全国商工新聞2024年11月11日

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阿古真理『47都道府県おいしいもの巡り』

人生最高のウニ・イクラ・蟹丼。ひっつみやすいとんなど、各地で愛される小麦粉だんごの謎。京都の和菓子店の底力。神戸でパン文化が花開いた理由。向田邦子が愛したつけ揚げの秘密――。関西で生まれ育ち、生活史研究家として日本全国の食に触れてきた著者が、思い出の味や、それぞれの食文化が育まれたルーツに迫る。蘊蓄的食エッセイ。

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47都道府県おいしいもの巡り

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阿古真理 作家/生活史研究家

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部総合文化学科(社会学)を卒業後、広告制作会社を経てフリーに。1999年より東京に拠点を移し、食や生活史、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『うちのご飯の60年 祖母・母・娘の食卓』『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』『「和食」って何?』『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』『料理は女の義務ですか』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか パンと日本人の150年』『パクチーとアジア飯』『母と娘はなぜ対立するのか 女性をとりまく家族と社会』『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』など。

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