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47都道府県おいしいもの巡り

2026.05.16 公開 ポスト

人生最高のウニ・イクラ・蟹丼について阿古真理(作家/生活史研究家)

作家・生活史研究家の阿古真理さんの新刊『47都道府県おいしいもの巡り』が発売になりました!人生最高のウニ・イクラ・蟹丼のエピソードや、各地で愛される「小麦粉だんご」の謎。向田邦子が愛したつけ揚げの秘密など、思い出の味から旅先で出会った名物までを縦横無尽につづった食文化エッセイです。少しずつですが試し読みをどうぞ。

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ウニはめったに食べる機会がない。スーパーや魚屋で売られているウニですら、他の魚介に比べてかなり高いし、質が残念なリスクがあるのでうかつに手を出せない。

二〇一三(平成二五)年に放送された朝の連続テレビ小説「あまちゃん」(NHK)は、東日本大震災を組み込んだ内容で、主人公の天野アキ(能年玲奈、現のん)は、ドラマの冒頭で岩手県久慈市がモデルの母親の故郷、「北三陸市」に行く。海辺で海女たちからもらった獲れたてのウニを、四つも五つも食べるアキの贅沢さがうらやましかった。その後、アキは北三陸で海女を目指すが、ウニの獲り方をなかなか覚えられず四苦八苦する。

私は一度だけ、三分の一がウニという丼を食べたことがある。航空会社大手三社がエコノミークラスの機内食提供を止めたことを受け、二〇〇〇年代半ば、「空弁」と呼ばれる、機内食代わりの弁当が飛行場で売られるようになって流行していた。空弁を取材するため、私は北海道の新千歳空港へ飛んだ。そのとき撮影し食べた丼弁当が、最高においしかったのである。

それは、ウニとイクラと蟹のほぐし身がぎっしり載った夢のような丼。海鮮丼は好きだが、刺身がレンゲでうまく切れず、いつも上手に食べることができない。しかし取材で食べた丼弁当は、具が小さいのでご飯と一緒に食べやすい……そんな話ではなくて、そこにたっぷり載っていたウニが、さっぱりしていてめちゃくちゃおいしかったのだ。

ウニはネットリした食材という印象だったが、安心安全を売りにした佐藤水産のウニは、うま味はたっぷりあるが無駄なネットリ感がない。しかも具材の三分の一と大量である。この記憶を掘り起こしてみれば、獲れたてでこそないが、天野アキが初めて食べたウニより量が多いことに気がついた……何の勝負なのだ。

その取材の後も、札幌に行く機会があれば帰りに新千歳空港内の佐藤水産の店に寄るようになったが、自腹となるとビン詰めの鮭ルイベしか買う勇気が出ない。ウニ入り丼などとんでもない。そしてこの記事が全国商工新聞に載った二〇二四年、丼の写真を借りようと編集部が同社に問い合わせたところ、この商品はすでになくなっていたことがわかった。つまり、私の財布事情とは関係なく、ウニがたっぷり載った三色丼を口にできたことは貴重な体験になったのである。

ウニがたっぷり載った丼の商品がなくなったのは、漁獲量が減少しているからかもしれない。毎日新聞二〇二五年一〇月二六日配信ウェブ記事によると、農林水産省の統計で、北海道のウニの漁獲量は一九六七(昭和四二)年以降ほぼ右肩下がりで、二〇二四年にはピーク時の三割まで落ち込んでしまっている。

それでも全国で獲れるウニの約六割は北海道産。「あまちゃん」の舞台となった岩手県は約二割で二位。生産量が減少した理由は、海水温の上昇、餌となる昆布の減少などとされている。ウニはますます、庶民にとって手が届きにくい食材になってしまったのだ。

空弁は幕の内弁当のような定番ものがなく、地元の名物を打ち出す傾向が強いので、駅弁よりご当地色が濃く、よりお得な印象がある。しかし、飛行機の小さな折り畳み式座席テーブルに載るサイズに設定されているので小ぶり。まあまあ食べる私には量がもの足りなく、かといって二人前買うと割高で量的にももて余す、というわけで、ほとんど買わなくなってしまっている。

食事どきのフライトなら、飛行機に乗る前後どちらかで店に入って食べる。変な時間になる場合もあるが、温かい食事を落ち着いて食べられるので、私にとってはこのほうがベターだ。めったに買わない空弁を食べただけでも、あの取材は貴重。それに、飛行場に一日中滞在すること自体ほぼないので、その意味でも珍しい体験だった。

初出:全国商工新聞(全国商工団体連合会)2024年11月4日

関連書籍

阿古真理『47都道府県おいしいもの巡り』

人生最高のウニ・イクラ・蟹丼。ひっつみやすいとんなど、各地で愛される小麦粉だんごの謎。京都の和菓子店の底力。神戸でパン文化が花開いた理由。向田邦子が愛したつけ揚げの秘密――。関西で生まれ育ち、生活史研究家として日本全国の食に触れてきた著者が、思い出の味や、それぞれの食文化が育まれたルーツに迫る。蘊蓄的食エッセイ。

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47都道府県おいしいもの巡り

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阿古真理 作家/生活史研究家

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部総合文化学科(社会学)を卒業後、広告制作会社を経てフリーに。1999年より東京に拠点を移し、食や生活史、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『うちのご飯の60年 祖母・母・娘の食卓』『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』『「和食」って何?』『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』『料理は女の義務ですか』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか パンと日本人の150年』『パクチーとアジア飯』『母と娘はなぜ対立するのか 女性をとりまく家族と社会』『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』など。

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