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書くこと読むこと

2026.03.28 公開 ポスト

平石さなぎさん 『ギアをあげて、風を鳴らして』:ラストシーンは 最初から 頭にあって、 絶対書きたかった。瀧井朝世

「書くこと読むこと」は、ライターの瀧井朝世さんが、今注目の作家さんに、「書くこと=新刊について」と「読むこと=好きな本の印象的なフレーズについて」の二つをおうかがいする連載です。

今回は、デビュー作『ギアをあげて、風を鳴らして』を刊行された、平石さなぎさんにお話をおうかがいしました。

小説幻冬2026年4月号より転載)

*   *   *

平石さなぎ:​​​1997年京都府生まれ。大阪府在住。本作で第38回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
 

「二十歳くらいから小説をよく読むようになって。『柔らかな頬』や『玉蘭』など、桐野夏生さんの作品の心理描写を読み、感情を言葉で表してもらうのってこんなに気持ちいいことなのかと気が付きました。それで、自分でもやってみたいかもと思いました」

と、平石さなぎさん。作品を読めば、この創作のきっかけの話が腑に落ちる。第三十八回小説すばる新人賞を受賞したデビュー作『ギアをあげて、風を鳴らして』は、登場人物たちの繊細な感情の動きが、丁寧に描かれている。

主人公は、小学四年生の少女二人。癒知は宗教団体で創父の生まれ変わりである“降り子”として信徒から崇拝され、学校では異端視されている。転校生のクミは、そんな癒知に屈託なく接していく。

小説を書き始めた頃は、男性主人公が多かったという。

「自分と同性で同年代の主人公は、近すぎるので避けていた気がします。ただ、子供の視点で大人を書いてみたくて、それなら女の子にしようと思っていました。中学生だともう半分くらいは大人の考えが分かる年齢なので、小学生がいいなと考えていました」

もうひとつ、書いてみたいと思っていたモチーフがあった。

「以前、中村文則さんの『教団X』を読んで衝撃を受けたんです。信じる力には怖いところもあるんだなと、いろいろ考えるきっかけになった一冊で、自分もいつか宗教団体を書いてみようと思っていました。それで、女の子の話を書くとなった時、宗教団体をかけ合わせられるんじゃないかな、って。どこか特定の宗教団体を彷彿させたくなかったので、教典などは自分で考えたものを書きました」

降り子として崇められるが故一人ぽっちの癒知と、転校を繰り返し、人当たりのよさは身につけたが心の内は孤独なクミ。二人は少しずつ打ち解けていく。

「たしか、最初は癒知だけで書こうとしたんです。でも癒知を知るためには、もう一人、全然違うタイプの女の子が必要ではないかと考えた気がします。そういう二人が仲良くなって、他の人とは共有できないものを共有していく話にしようと思いました」

物語の原形を書いたのはずいぶん前になるという。かなりの長編になったため枚数上限のないメフィスト賞に応募したが入選せず、その後、原形がないほど書き直したものが、今回の受賞作だ。

少女たちの友情だけでなく、母娘関係も本作の重要なモチーフ。教団幹部として娘と距離を置く癒知の母親と、夫の転勤続きで心に不調をきたしたクミの母親。この二人もまた、親しくなっていく。

「書き進めるまでは私も“母娘”がここまで大きな軸になるとは思っていませんでした。でも女の子二人に何か共通点がないと、お互い見せたくない部分を見せられない気がして。それで自然と、お母さんとの関係にたどり着きました。ただ、どちらの母親も、分かりやすい毒親や、完全な悪者にはしたくなかったですね。そうせざるを得なかった事情みたいなものが、全員に必要なんじゃないかと思いました」

そういう思いがあるからこそ、登場人物一人一人がしっかりと肉付けされているのだろう。また、印象に残る言葉も多い。たとえば、“永遠の顔をした短い季節”。これは、教団の教典上で「幸せ」を意味する表現だ。

「私自身の経験で、幸せってこんな感じだったなと思って書いた表現でした。ここまでしっかりとキーワードとしてお話に絡んでくるとは思っていませんでした」

物語の終盤、読者はきっと、その短い季節を味わうことになる。

「ラストシーンは最初から頭にあって、絶対書きたかったんです。そこに向かっていったから、大きな脱線なく書けたと思います」

好きな本の印象的なフレーズに選んでくれたのは、村田沙耶香さんの『生命式』から。

「正常は発狂の一種でしょう? この世で唯一の、許される発狂を正常と呼ぶんだって、僕は思います」

『生命式』村田沙耶香著(河出文庫)より

以前、アルバイト先で休憩中に読み、精神的にラクになった記憶があるフレーズだという。

「自分は単純作業の仕事もうまくできなくて、どうしたら平均レベルで仕事をこなせるだろうと悩んでいた時期でした。普通とか正常とかをこういうふうに考えることもできるんだ、と思いました」

読書で好きなフレーズに出合うと、その箇所に直接ペンでしるしをつけておくタイプ。今回のフレーズも、自分の本棚の本をめくって選んだそうだ。

「『生命式』もそうですが、かゆいところに手が届くような描写が本当にたまらなくて(笑)。自分も、誰かに刺さるような文章が書けたらいいなと思っています」

平石さなぎ『ギアをあげて、風を鳴らして』集英社/1870円(税込)

宗教団体「荻堂創流会」で、創父の生まれ変わりとして崇められている吉沢癒知。親の都合で何度も転校を繰り返してきた渡来クミ。まったく性格の異なる10歳の二人だが、共鳴しあい、友情を育んでいくが─。第38回小説すばる新人賞受賞作。

 取材・文/瀧井朝世、撮影/〈人物〉神ノ川智早、〈静物〉米玉利朋子(G.P.FLAG) 

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書くこと読むこと

ライターの瀧井朝世さんが、今注目の作家さんに、「書くこと=新刊について」と「読むこと=好きな本の印象的なフレーズについて」の二つをおうかがいする連載です。小説幻冬での人気連載が、幻冬舎plusにも登場です。

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瀧井朝世

フリーライター。多くの雑誌などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009~13年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。現在は同コーナーのブレーンを務める。著書に『偏愛読書トライアングル』(新潮社)、『あの人とあの本の話』(小学館)、『ほんのよもやま話 作家対談集』(文藝春秋)など。

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