無重力の宇宙で、ラーメンは食べられるのか。お風呂やトイレはどうするのか。狭い空間で、どうやって心と人間関係を保つのか――。夢とロマンに満ちた宇宙での暮らしには、地上とはまったく異なる現実があります。
そんな〝宇宙生活のリアル〟を教えてくれるのが、3度の宇宙飛行を経験し、ギネス記録も持つ宇宙飛行士・野口聡一さんの著書『宇宙でラーメンは食べられるか 宇宙暮らしのロマンと現実』です。宇宙で実際に暮らしてみて初めてわかる驚きや工夫、そして人間らしい悩みや楽しみについて、本書から一部をご紹介します。
* * *
宇宙食はレパートリーが豊富!
旅の楽しみの一つは食事です。旅行前にガイドブックやインターネットで情報を集め、何を食べようか、どの店にしようかと入念な計画を立てるという人もいるのではないでしょうか。
あいにく宇宙には飲食店はなく、いまのところ宇宙での食事といえば「宇宙食」です。
宇宙食は、ISSなどの無重力環境で安全かつ快適に食べられて、宇宙飛行士がミッションをこなすのに必要十分な栄養をとれるよう設計された食事です。

「宇宙食=おいしくなさそう」というイメージがあるかもしれませんが、近年の宇宙食の進化には目を見張るものがあります。
1960年代初頭の宇宙食は、固形食やチューブ入りの離乳食のようなものがメインで、お世辞にもおいしいとはいえなかったようです。けれど、「宇宙でもおいしいものを食べたい」という宇宙飛行士の悲願と、「栄養バランスおよびメンタルヘルスを維持するためには食事も重要だ」という認識を追い風に、味の向上が図られレパートリーも増えていきました。宇宙食の現在のレパートリーはなんと300種類! とても充実しているのです。
宇宙食はどう作られ、どう届くのか
宇宙食は、加水食品、温度安定化食品、自然形態食品・半乾燥食品、生鮮食品、放射線照射食品の5タイプに分けられます。
加水食品は水やお湯を加えて食べるタイプです。ごはん類や麵類などのフリーズドライ製法でつくられた食品や、飲料などがあります。

温度安定化食品は、レトルト食品や缶詰のこと。開封してそのまま食べるか、フードウォーマーで温めて食べます。フードウォーマーは電波を発しない調理設備です。
自然形態食品・半乾燥食品は、そのまま食べられるタイプ。お菓子類やのり、ドライフルーツ、ビーフジャーキーなどがあります。
ISSにおける生鮮食品は、1~3か月に1回のペースで、補給船によってISSに届けられる食品を指します。りんごやオレンジなどの果物、レタス、きゅうりなどの生野菜、チーズなどが含まれます。賞味期限が短いため、到着後すぐに中身をチェックし、優先的に食べていきます。
放射線照射食品は、放射線によって殺菌した食品です。病原菌がほぼいない状態になるため、食中毒のリスクが極めて少なく、長期保存にも適しています。ビーフステーキや照り焼きチキン、魚料理などがあります。
このほか、マヨネーズ、しょうゆ、塩、こしょう、ケチャップなどの調味料もあります。
宇宙でもここまで食べられる ある日のISSの献立
私がはじめてISSに滞在したときの、ある日の献立を紹介してみましょう。
◯朝食
・乾燥洋なし
・お吸いもの
・ブランチェックス(シリアル)
・ホワイトチョコがけ苺(フリーズドライ)
・オレンジマンゴードリンク
・ココア
◯昼食
・ビーフストロガノフ&パスタ
・ラーメン
・シーフードチャウダー
・アーモンド
・レモンティー
◯夕食
・照り焼きチキン
・カレー
・白飯
・トルティーヤ
・タピオカプリン
・パイナップルドリンク
・抹茶(砂糖入り)
どうでしょうか? 地上での食事にひけをとらない、もしくは地上よりも充実したメニューになっているのではないでしょうか。ISSに長期滞在しても食事に飽きる心配はほとんどないといえるでしょう。
ただ、食事のたびに300種類から自由に選べるわけではないので、その点には注意が必要です。
ISS用の宇宙食は、肉・魚類、野菜・スープ類、ドリンク類、フルーツ・ナッツ類、デザート・スナック類などの種類ごとに、16日間単位でパッケージ化されています。パッケージごとに内容は微妙に異なり、たとえば、Aというパッケージにはビーフストロガノフ&パスタが入っているけれど、Bというパッケージには入っておらず、代わりに照り焼きチキンが入っているという具合になっています。宇宙で栄養が偏らないように、と工夫されているわけです。
よって、一つのパッケージを開封したら宇宙飛行士はそれぞれ好きな食品を選んで食べ、完食したら次のパッケージを開ける。これが原則ですが、実際には、二つ~三つのパッケージを一気に開けていました(栄養士さん、ごめんなさい)。
「あのメニュー、誰が食べた?」宇宙で起きる小さな緊張
学校の給食にも人気のメニューとそうでないメニューがあったように、宇宙食にも人気があるメニューとそうでないメニューがあります。給食との違いは、宇宙食の人気メニューが人数分はないということ。一人の宇宙飛行士が人気メニューばかりを選んで食べていたら、当然、ほかの人は人気メニューを食べられません。
「今日は大好きなビーフストロガノフ&パスタを食べようと思ったのに、ノグチが食べやがった……!」なんて事態も起こりうるわけです。

クルーはみな大人ですから、表立ってケンカをしたりはしません。それでも、イライラ、ピリピリとした空気は察せられます。宇宙であっても食べものの恨みはこわいのです。
また、ISSには十分な宇宙食がストックされていますが、それでも数に限りがあります。なんらかのトラブルが起きて滞在が長引いたり、補給船がこられなくなったりしたら、ストックが尽きてしまうかもしれません。そのためISSでは、在庫をつねに意識しながら食事をしています。よって、食べたいだけ食べる行為も恨みを買うので要注意。
宇宙では、空気が悪くなったり、ケンカをしたりしても、別室に引きこもる、家出をするなんてことはできません。狭い空間で一緒に快適に過ごすためにも、みなさんも宇宙に行ったときには、食べものの恨みを買わないようお気をつけください。
宇宙でラーメンは食べられるか

汁が多い食べもの、熱いものはご法度の無重力環境でラーメンが食べたい! ――野望をかなえるために多くのお金と時間をかけて開発した「宇宙食ラーメン」のお味は? すべてのものが浮いてしまう空間でのお風呂やトイレは? 電話ボックス大の個室での快適な過ごし方とは? 閉ざされた空間で、メンタルを保ち、人間関係を円滑にする秘訣とは? ギネス公認世界記録を持つ唯一の日本人宇宙飛行士が語る、実際に住んでみた宇宙暮らしの体当たりレポート。











