清水ミチコさんの「朝日新聞」連載エッセイ「まぁいいさ」(金曜日夕刊・月1回)をまとめた文庫本『時をかける情緒 まぁいいさ』が発売になりました。平成から令和へ、自由自在にかけめぐる清水さんの情緒の味わいを、少しだけお裾分けします。

愛の特殊能力
遅ればせながら観た「情熱大陸」でのペット探偵・藤原博史さんが圧巻でした。よく録画した、と自分を褒めてあげたい。観ているうち、まさに手に汗を握っていました。
迷子になったペットを探すというペット探偵のプロ、という方なのですが、彼のその手腕には、年間200件以上の依頼が殺到するそうです。実は私も猫を飼っていますが、ずっと昔、ひょっとした一瞬のスキに、玄関のドアから逃げ出してしまった時がありました。名前を呼びながらそこら中を探しても、まったく見当たらず、皆目見当がつきません。おそらくあちらも一目散に走ったものの、外に出たことに興奮し、警戒してそう。
さらに情けないことに、飼い主の自分がしっかりしなければ! というこの非常事態に、ショックで力が抜け、なんと歩くのもおぼつかなくなるものだ、とは初めて知った次第です。あの日、私は一気に老けたと感じました。そのせいなのです(何が)。
その時のおろおろするばかりだった自分の姿を思い出すと、余計にこの番組はヒトゴトとは思えなくなるのでした。藤原さんの探し方は、ポスティングや周辺の方への聞き込みなど、地道な作業も多いのですが、なんといってもすごいのは、完全に猫の気持ちで、猫の目線になり、猫の姿勢を取って経路をさぐり、調べていくというところ。まるでモノマネの本質を見た思い。表現するより前に、心底なりたいと思う「欲」があるかどうかが一番のカナメです。普通の常識人であれば、持つ必要もないため、その欲がありません。藤原さんは、飼い主目線ではなく、猫になりきらなければ、今ごろ自分(猫)はどこにいたいか→このあたり→ここだ、と、足跡のヒントが見えてこないと悟られたのでしょう。
愛による特殊能力。
しかもです。やっと(いた!)と、発見した時も、すぐに駆け寄ったりはしません。
現場は驚くほど静寂。愛とは忍耐、とばかりに静かにじっと見つめる、藤原さんの背中が忘れられません。
また、心が折れてた飼い主の方の気持ちを察し、「これからは気をつけて」という注意などもなさいません。もっと早く知ってたら私は老けてなかったのに! とわけのわからない感想とともに涙があふれました。
時をかける情緒 まぁいいさ

カンジ悪さが褒められた「ドクターX」出演、黒柳徹子さんにおフルの洋服をプレゼント、詐欺かと疑った伊丹十三賞受賞の電話、武道館ライブで達成感が得られない謎、卒業証書チラ見せ伊藤市長からの学び、60代で初婚の親友の結婚式、人生の残り時間を計算して思うこと……。平成から令和へ、自由自在に軽やかにかけめぐる情緒の味わい。











