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文豪未満

2026.01.10 公開 ポスト

あなたの書店で1万円使わせてください ~佐賀之書店~岩井圭也(作家)

2025年10月上旬。「日本ドラフト文学賞」のドラフト会議に出席するため、私は佐賀県にいた。

日本ドラフト文学賞とは、一般社団法人ホンミライと佐賀新聞社が主催・運営する新しい文学賞である。総合プロデューサーは、ホンミライの代表理事である今村翔吾。実は私も理事を務めており、佐賀で開催されるドラフト会議に出席した。

この賞は委員による選考ではなく、出版社などのメディア関係者によるドラフト形式によって選考されるという一風変わった特徴がある。詳しくはこちらのウェブサイトを参照してほしい。

最終候補の皆さんはここでプレゼンや質疑応答に挑んだ。

佐賀市内に足を踏み入れるのは、私にとって人生初の経験だった。会社員時代に一度だけ鳥栖に来たことはあったが、その時も宿泊はせず、自由時間もなかった。文学賞へ出席することの緊張にプラスして、「実質初めての佐賀」という高揚感も加わり、前日はよくわからない精神状態であった。

佐賀に来るならば、ぜひ立ち寄っておきたい場所があった。佐賀駅にある「佐賀之書店」である。

今村さんは作家であると同時に、書店オーナーとしても知られる。経営しているのは、大阪のきのしたブックセンター、東京のほんまる神保町、そして佐賀之書店の3軒。佐賀之書店がオープンしたのは2023年12月のこと。佐賀駅構内に書店が復活したのは、約4年ぶりだったという。そして店長を務めるのは、業界屈指の有名書店員である本間悠さん

このように、佐賀之書店はいくつもの注目ポイントをそなえているのだ。本企画で訪問しないわけにはいかない。取材を打診すると、快くオーケーしていただいた。

というわけで、第25回となる今回は佐賀之書店でのお買い物をお届けする。

なおこの企画の過去回では、ほんまる神保町ときのしたブックセンターにも訪問しているため、今村翔吾が経営する書店はコンプリートしたことになる。3軒ともそれぞれカラーが違うので、読み比べていただくのも面白いかもしれない。(過去回は幻冬舎plusに会員登録(無料)すればすべて読めます

ほんまる神保町回はこちら

きのしたブックセンター回はこちら

*   *   *

10月上旬、飛行機で佐賀に降り立ち、バスで佐賀駅まで移動。佐賀之書店は、駅構内の商業施設「えきマチ1丁目佐賀」にある。バスセンターからは徒歩3分程度で、婦人服店さんの隣に店舗を構えている。

まずは本間さんたちスタッフの皆さんにご挨拶。対面するのは初めてなのだが、なんとなく初めて会った感じがしない。ちなみに撮影は、同席した今村さんの秘書の方に手伝っていただいた。ありがとうございます。

恒例の1万円ショット。

本企画のルールは「(できるだけ)1万円プラスマイナス千円の範囲内で購入する」という一点のみ。さっそく自腹(ここ重要)の1万円を準備して、買い物スタート。

最初に目についたのは、お店の一番手前に設置されているコーナー。直木賞候補作や人気シリーズの最新作など、話題作がずらりと並んでいる。

どれどれ。

ただし、話題作だけでないところはさすが佐賀之書店。個人的な推し作品と思しき本もセレクトされている。

なかでも気になったのは、渡辺優『女王様の電話番』(集英社)

昨夏まで『小説すばる』「風車と巨人」という長編を連載していたのだが、同時期に連載していたのがこの『女王様の電話番』である。そして著者の渡辺さんは、文学フリマ東京41で出店した仲間でもある。(この取材の翌月、木爾チレンさん、須藤古都離さんと4人で出店

そしてこの小説、1行目がすごい。

〈この世界はスーパーセックスワールドだ。〉

引きが強い。強すぎる。

いずれ買うつもりではあったが、ここで出会ったのも何かの縁。今日の1冊目はこちらに決定。(追記:渡辺さん直木賞候補おめでとうございます。

「王様のブランチ」でも特集された。

本を物色している途中、何度か本間さんが手を止めて話の相手をしてくれた。仕事のお邪魔してスミマセン。

気さくに応対してくれる本間さん。

この書店は、風吹ジュンと夏木マリのサイン色紙が飾られている、というかなり稀なお店でもある。

NHKドラマ『照子と瑠衣』がご縁となったらしい。

当然、オーナー(今村翔吾)の著作もあります

Netflix『イクサガミ』面白いです。

その隣にある棚が、この書店の目玉ともいえる「年間売上No.1ほんま大賞特設コーナー」である。店長の本間さんが、1年間に読んだ本の中から一番面白かった本を独自に選出するのが、「ほんま大賞」である。

過去の受賞作も。

第7回ほんま大賞の受賞作は、滝沢志郎『月花美人』(KADOKAWA)長谷川まりる『呼人は旅をする』(偕成社)の2冊。当該作品にはオリジナルの帯が巻かれ、棚には作者の他の作品も並べられている。

佐賀之書店に来た以上、この棚は無視できない。じっくり眺めているうち気になったのは、長谷川まりる『杉森くんを殺すには』(くもん出版)。受賞作ではないのだが、少し前に某社編集者からよい評判を聞いていた。

まず、児童書とは思えない物騒なタイトルが目を引く。「殺す」という言葉が使われている本はあまりないのではないか。ただし、表紙デザインはあくまでポップである。そして帯に燦然と輝く「野間児童文芸賞」。引っかかりポイントがいくつもある作品なのだ。

もちろん『呼人は旅をする』も気になるが、今回は出会い頭のインパクトを重視して『杉森くんを殺すには』を購入することに決めた。

お二人のサイン色紙も飾られている。

同じ並びには、「さが本恋書店フェア」の棚も。こちらは佐賀県が2025年からはじめた「さが本恋プロジェクト」が元になっている。同プロジェクトは、お気に入りの本を紹介し合う「ビブリオバトル」をきっかけに立ち上げられたという。

フェア棚では、本好きたちがすすめる「恋に落ちた1冊」が展開されていた。

佐賀県出身の作家などバラエティゆたかな人選。

レジカウンターの下にあったのは、大河ドラマや朝ドラに関連する本など。

『慟哭の海峡』はやなせたかしがフォーカスされる1冊。

バスセンターに近いことから、バスの待ち時間などに訪れる学生さんもいるそう。

児童書や学習参考書も。

コミックスも。

『ケントゥリア』気になってます。

実用書のコーナーには、「料理レシピ本大賞 in Japan」のコーナーが。恥ずかしながら今まで知らなかった賞だが、受賞作はレシピ本をほぼ買わない私でも聞いたことがあるものばかり。

『すべてを蒸したい』って強いタイトルですよね。

続いて文庫の棚へ。

面陳されていた、秋谷りんこ『ナースの卯月に視えるもの』シリーズが目に入る。著者のデビュー作シリーズだが、早くも10万部を突破。元看護師の著者ならではの作品である。

羨ましいスタートダッシュ。

同じ文庫棚で発見したのが、「佐賀県ゆかりの作家」コーナー笹沢左保、山本甲士、清水朔といった作家の本が並べられるなか、思わず手に取ったのが笹井宏之『えーえんとくちから』(ちくま文庫)

笹井宏之は、2009年に26歳で夭逝した歌人。名前は知っていたが、佐賀県出身ということは知らなかった。歌集『えーえんとくちから』のタイトルは、収録された作品が由来である。

〈えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい〉

詩集や歌集はたまに読むのだが、最近は新しい本を手に取っていなかった。ぜひ、わが家の棚に加えたい。

文庫の歌集というのは少し珍しいかも。

続いてビジネス書のコーナーへ足を運んでみる。

棚差しのプレートには佐賀之書店のロゴが入っている。

表紙の強烈さについ手が伸びたのは、安藤徳隆、竹居智久『日清食品をぶっつぶせ 自ら創造し、自ら破壊せよ』(日経BP)

中央で激しく動くカップヌードルと、コーポレートカラ―の赤を基調とした背景。奥付を見てみると、なんと装丁も日清食品のデザインルームが手がけていた。なんでもできるのか、日清食品。

完全にデザインにやられて、購入を決定。

実は購入後に最初に読みはじめた1冊。

エッセイなどの棚に移動。

ここでもインパクト抜群の、横長の本を発見。丸山薫『図書室のキハラさん』である。漫画誌『ハルタ』の「帯のウラ面」で連載されていたマンガで、その形状を活かして横長のデザインになっている。

面白い。

その近くにあった、ベンジャミン・ウォレス著/小林啓倫訳『サトシ・ナカモトはだれだ? 世界を変えたビットコイン発明者の正体に迫る』(河出書房新社)は、いかにも自分向きに思えた1冊。

ビットコインの発明者サトシ・ナカモトの身元が明らかになっていない、という話はもともと知っていた。本名も人種も、何もかも不明。そんなサトシ・ナカモトの正体に迫る本とあれば、読まないわけにはいかない。

今日購入する5冊目に決定。

帯には『今世紀最大の謎を暴け!』の惹句も。

なんとなく、あと1冊くらいはいけそうな感じがする。

しゃくれつつ購入予定の本をチェック。

佐賀之書店はあらゆるジャンルの本をバランスよく展開しているが、ここはやっぱり文芸書で締めたい。

店舗の面積に比べると、文芸のコーナーは明らかに大きい。品ぞろえにもこだわりを感じる。話題の新刊はもちろん、少し前に出た本もぬかりなくラインナップされている。

どうしようかな。

文芸書に関しては、序盤で見かけてからずっと気になっている本があった。出入口近くでも展開されていた、上村裕香『ほくほくおいも党』(小学館)である。著者の上村さんは佐賀市出身。やはり、佐賀県ゆかりの書き手なのだ。

あらすじはこうである。

〈高校三年生の千秋は、父と兄との三人暮らし。左翼政党員の父は、勝てない選挙に出続けて六年。兄は父の出馬をきっかけにいじめられ、引きこもりになった。母は同じころ家を出た。政治と政党に没頭し話の噛み合わない父だが、千秋は対話をしたいと願う。〉

『ほくほくおいも党』というユーモラスなタイトルからは、容易には想像できない物語である。そのギャップが刺さる。

というわけで、今日最後の1冊はこちらに決定。

「ほくほく」って擬音、イモ系以外で使わないよね。

今回選んだのは6冊。いざお会計へ。

対戦お願いします。

さあ、合計は?

10,472円。

我ながらすばらしい精度。

ドヤ。

文芸の本が多めではあったが、ビジネス書など他の分野もバランスよく購入できたと思う。個人的には大満足である。

今回買った6冊。

*   *   *

実際に買い物をして、佐賀之書店は「普段使いの本屋さん」と「こだわりのセレクトショップ」のハイブリッドだと実感した。

佐賀駅構内というアクセスのよさもあってか、近くに住んでいる常連さんや、学生らしき若い人、小さいお子さんを連れた女性など、さまざまな層のお客様が利用されている印象だった。佐賀と縁のある書き手を応援していることからも、「地域への溶け込み感」は強い。しかしそれだけでなく、「ほんま大賞」をはじめ、スタッフの方々の目利きによる独特のセレクトも楽しめる。

門戸は広く、誰にでも開かれている。それでいて、掘りがいもある。佐賀之書店はそんなお店なのだ。

佐賀へ行く機会がある方は、ぜひ足を運んでみていただきたい。

 

それでは、次回また!

今回買った本

  • 渡辺優『女王様の電話番』(集英社)
  • 長谷川まりる『杉森くんを殺すには』(くもん出版)
  • 笹井宏之『えーえんとくちから』(ちくま文庫)
  • 安藤徳隆、竹居智久『日清食品をぶっつぶせ 自ら創造し、自ら破壊せよ』(日経BP)
  • ベンジャミン・ウォレス著/小林啓倫訳『サトシ・ナカモトはだれだ? 世界を変えたビットコイン発明者の正体に迫る』(河出書房新社)
  • 上村裕香『ほくほくおいも党』(小学館)

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文豪未満

デビューしてから4年経った2022年夏。私は10年勤めた会社を辞めて専業作家になっ(てしまっ)た。妻も子どももいる。死に物狂いで書き続けるしかない。

そんな一作家が、七転八倒の日々の中で(願わくば)成長していくさまをお届けできればと思う。

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岩井圭也 作家

1987年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年「永遠についての証明」で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュ ー。著書に『夏の陰』( KADOKAWA)、『文身』(祥伝社)、『最後の鑑定人』(KADOKAWA)、『付き添う人』(ポプラ社)等がある。

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