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無縁仏でいい、という選択

2026.01.20 公開 ポスト

一人で死ぬ可能性は誰にでもある――突然死と孤独死のリアルなプロセス島田裕巳(作家、宗教学者)

昨今、家族葬が増え、孤独死・無縁死、無縁墓の増加や墓じまいの高額な離断料が問題になり、人々は葬式と墓と遺骨を持て余していることを明らかにする、宗教学者・島田裕巳氏による『無縁仏でいい、という選択 も、墓じまいも、遺骨も要らない』が話題です。長寿が変えた日本人の死生観――その最前線とは? 「第3章 無縁仏にまっしぐら」より一部を抜粋してお届けします。

人間は映画やドラマのように死なない

東京都の保健医療局のサイトを見てみたら、虚血性心疾患で瞬間死するときの状況が説明されていた。ここでは参考のため、それを引用してみたい。瞬間死がどういった状況でも起こり得ることがわかるからだ。

仕事中、歩行中、乗車中、テレビを観ているときなどの安静時、用便中あるいはその直後、就寝中(まれに性行為中)に突然倒れて意識消失(失神)し、反応が無い状態となります。時として甲高い鼾や悲鳴のようなうめきを2、3回発したり、口から白色、時にはピンク調の泡を出すこともあります。

甲高い鼾については、「心停止による脳虚血により舌がのどに落ち込むため、終末呼吸が鼾のように聞こえるのです」と説明されている。

では、こうした突然死ではない場合にはどうやって人は亡くなるのだろうか。

一般的には、まず食事の量が減り、尿の回数や量が減っていく。手足が冷たくなり、色も変わったりする。そして、最後に、呼吸が変化する。呼吸が不規則になり、顎だけでしゃくりあげるような「下顎呼吸」に変わるのだ。それが、死が近づいている徴候になる。

私は、両親を看取った経験がある。したがって、人が、今述べたような過程を経て亡くなっていくことを身をもって体験している。

しかし、誰もがそれを体験できるわけではない。映画やテレビドラマであれば、こうした段階を経ずに、いきなり亡くなるように描かれたりもする。

だが、そんなことはありえない。少なくとも、周囲の人間に最期のことばを残し、そのまま亡くなってしまったりはしないのだ。映画やテレビで本当の死に方が描かれないため、それを知らない人も多くなっている。同居する家族の数が減ったことも、死を看取る体験ができない人間を増やしている。

こうした多くの人たちが経験する死に方と比較したとき、突然死はそうした過程が一気に起こるものと見ることができる。

突然死が起こる確率は死亡者全体の1割程度と言われる。1割から2割とかなり幅があるという指摘もある。2割なら、5人に1人が突然死することになり、相当な数である。突然死は決して珍しいことではない。私たちは、いつ死ぬかまったくわからないのだ。

どのような状況で突然死するかで、その後のことが変わってくる。

特に大きいのは、突然死する人間の周囲に他の人間がいるかどうかである。

家族と同居しているならば、突然死を遂げても、すぐに亡くなっていることが発見されるはずだ。その人間の様子がおかしくなれば、家族は救急車を呼ぶ。それによって助かる場合だってある。他の家族が全員旅行にでも出かけていれば、すぐには発見されないかもしれないが、そうしたケースは多くないだろう。

問題は家族と同居していないときである。

孤独死して腐敗が進んでも死んだ本人にはわからない

突然死の先には、死後幾日も発見されない孤独死が待ち受けている。そこには、近年、単身世帯が増加していることが関係している。突然死が孤独死に結びつく確率が高まっているのである。

私たちは、孤独死ということを聞いて、自分がそうなったときのことを想像してしまう。特に、単身世帯で生活しているような人なら、それは切実な問題として迫ってくるかもしれない。

突然死を遂げたのに、誰もそれを発見してくれない。自身は遺体になって、部屋の中に横たわっている。高齢者であれば、介護の人間が定期的に訪れることがあるかもしれないが、介護の対象になっていない、もう少し若い世代なら、誰も定期的に訪れる人がいないので、発見は遅れる。

高齢者でないなら、郵便受けに郵便物や新聞がたまっていても、旅行や出張でいないのだろうと、周囲の人は気にも留めない。かくして、発見まで数日かかることがある。

孤独死が発見されるまでの日数については、一般社団法人日本少額短期保険協会の「孤独死現状レポート」に掲載されている。

2015年4月から2024年3月までのデータをもとにした第9回のレポートでは、平均日数は全体で18日で、男性は18日、女性は17日という結果が出ている。第6回レポートでは平均17日、第7回レポートでは平均18日だったから、年を追うごとにわずかながら日数が延びていることになる。

ただ、約4割は3日以内に発見されている。特に女性の場合は早期発見の割合が高く、第9回レポートでは、女性の43・5パーセントが3日以内に発見されたとなっている。男性は36・6パーセントである。女性の方が周囲との付き合いをまめにこなしているということだろう。

逆に、発見まで15日以上経過している場合も3割程度存在する。中には1カ月以上、あるいは90日以上経過して発見される事例も報告されている。

なお、孤独死をしたときの平均年齢は、男性で63・0歳、女性で61・8歳だから、それは決して高齢者だけに起きるものではないことがわかる。

発見までの日数がかかれば、遺体の腐敗は進んでいく。死後数時間から1日で死後硬直などが起こり、2日から3日で腐敗臭もするようになる。それが、発見のきっかけになったりもするのだが、1週間もすれば、腐敗は全身に及ぶ。

『古事記』には、日本の国を造った伊邪那美命(いざなみのみこと)が、火の神を産んだため、体を焼かれて亡くなり、黄泉の国へ行ってしまう話が出てくる。夫の伊邪那岐命(いざなぎのみこと)は妻が恋しいと、黄泉の国まで行くのだが、妻はすでに黄泉の国の食べ物を食べてしまったため、蛆が湧く体になっていた。そうしたことが、孤独死した遺体に起こるのだ。

そんな目にはあいたくない。そう思う人もいるかもしれないが、当人は死んでいるわけで、自分がどういう状態になっているか、それを知ることもない。

*   *   *

続きは、『無縁仏でいい、という選択 墓も、墓じまいも、遺骨も要らない』をご覧ください。

関連書籍

島田裕巳『無縁仏でいい、という選択 墓も、墓じまいも、遺骨も要らない』

バチは誰にも当たらない。我々はもう気づいている ――子供や孫が、自分や先祖を供養する必要などない、と。 平均寿命が延伸し、多くの日本人が天寿を全うする。 ゆえに死は必ずしも惜しむべきものではなくなる。人生の時間は圧倒的に増え、生き方も変わり、死に方、死後の扱われ方も大きく変化した。 そして、そもそも現在の葬式や墓の在り方はそれほど長い伝統を持たない。 昨今、家族葬が増え、孤独死・無縁死、無縁墓の増加や墓じまいの高額な離断料が問題になり、人々は葬式と墓と遺骨を持て余している。これまでのような供養を必要としていないのだ。 これは無責任ではなく自然の道理だ。長寿が変えた日本人の死生観――その最前線を考察する。

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無縁仏でいい、という選択

長寿が変えた日本人の死生観――その最前線の考察。

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島田裕巳 作家、宗教学者

1953年東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を歴任。主な著作に『日本の10大新宗教』『平成宗教20年史』『葬式は、要らない』『戒名は、自分で決める』『浄土真宗はなぜ日本でいちばん多いのか』『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』『靖国神社』『八紘一宇』『もう親を捨てるしかない』『葬式格差』『二十二社』(すべて幻冬舎新書)、『世界はこのままイスラーム化するのか』(中田考氏との共著、幻冬舎新書)等がある。

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