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老後ひとり難民

2026.01.04 公開 ポスト

「死んだ後のことはどうでもいい」では済まされない 〈老後ひとり難民〉が直面する"お金と死後準備"の問題沢村香苗

おひとりさまブームで増え続ける独身人口。しかし“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多いそう。
さらに認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも……。

「おひとりさま高齢者」問題研究の第一人者、沢村香苗さんが上梓した幻冬舎新書『老後ひとり難民』より、一部を抜粋してお届けします。

*   *   *

「老後ひとり難民」は、自分のお金を誰に残せばいいのか

身寄りはなくともお金には困っていない「老後ひとり難民」の場合、自分が亡くなったあと、資産を誰にどのように残せばいいのかが悩みどころかもしれません。

高齢者向けに身元保証などのサービスを提供する事業者のなかには、利用者が亡くなったあと、「ぞう」を受ける契約を結ぶところもあります。遺贈とは、故人が残した遺言にしたがって、特定の誰かに財産をゆずることです。利用料だけでは事業が成り立たず、実質的に遺贈寄付で経営を継続している事業者もあるといわれています。

もちろん、自分を最後までお世話してくれた団体に感謝の気持ちを込め、遺産を寄付したいと考える高齢者もいるでしょう。

しかし一方で、遺贈にはさまざまな問題が潜んでいることにも目を向ける必要があります。

遺贈の問題の一つは、高齢者が本当に自分の意思で寄付を決めたのかどうかを確認することが難しいという点です。

たとえば、ある民間事業者が提供する「身元保証等高齢者サポート事業」が高齢者の面倒を見ており、その高齢者の死亡後、生前の契約に基づいて事業者に遺産が寄付されたとします。

このような場合、生前の契約が本当にその高齢者の自由意志によるものなのか、それとも事業者からの働きかけによるものなのかを判断するのは容易ではありません。

「認知症初期で後見人などがついていない高齢者が、言葉巧みに契約を結ばされているのではないか」

そんな可能性を疑い出せば、きりがないでしょう。

善意か搾取か――遺贈をめぐる危うい境界線

また、高齢者の面倒を見る人が遺贈を受ける場合、利益そうはんの問題が生じる可能性もあります。その人は、高齢者に多くの財産を残してもらったほうが得だと考え、生前のお金の使用を控えさせようとするかもしれません。すると、高齢者の生活の質が損なわれてしまうおそれがあります。

高齢者の面倒を見る人と、遺贈を受ける人が同じだと、必ずこの可能性が生じますが、事業者の場合は特に厳しい目で見られています。

実際、身元保証サービスを提供していたNPO法人が、利用者である高齢者と「亡くなったら不動産を除く全財産を贈与する」という「死因贈与契約」を結び、高齢者の死後に、その契約に基づいて信用金庫から預金を払い戻そうとして拒否され、裁判を起こしたというケースがあります。

このNPO法人は、ある養護老人ホームの入所者の半数以上と身元保証サービスの契約を結び、さらに数人とは死因贈与契約も結んでいました。

一方、厚生労働省は、高齢者施設への入所について、身元保証を条件にしないよう求める通達を出しています。

裁判では、このような実態を踏まえたうえで、死因贈与契約はこうじょりょうぞくに反しており、無効という判断がくだされました。

もちろん、この裁判の事例のみをもって、「身元保証等高齢者サポート事業者」が遺贈を受けることがすべてNGであるということにはなりません。

また、「この事業者に寄付したい」という高齢者の意思が本物であるならば、それが尊重されなくなってしまうのも問題でしょう。

しかし、このような事例があることを踏まえれば、高齢者の意思を尊重しつつ、不正を防ぐための仕組みの整備なども考える必要があると思います。

ちなみに、遺贈についてはさまざまなケースがあります。

ひとり暮らしで相続人がいない高齢者が亡くなった際、遺産の一部の寄付を受ける人や、特別縁故者として相続を申し出たりする人が出てくるケースがありますが、なかには「なぜか繰り返し、複数の高齢者から相続を受ける人」も存在するといいます。

これはおそらく、寂しく暮らしている高齢者と仲よくし、日々のお世話をしたりすることで遺産を相続するという〝手口〟なのでしょう。

「資産家でひとり暮らしの高齢者の家に、家族ではない若い人が出入りしてお世話をしている」といった話を聞くこともあります。

このようなケースをすべて「けしからん」といえるかどうかは、難しい問題です。

違法ではないというだけでなく、実際にその高齢者が満足したり感謝したりしているのであれば、外からとやかくいうべきではないかもしれないからです。

もちろん「とんでもないことだ」という人は多そうですが、高齢者当人からすれば「余計なお世話」かもしれません。

高齢化が急速に進むなか、遺贈は一つの大きなマーケットになりつつあり、遺贈先をコーディネートする高齢者へのサービスも生まれています。

いずれにしても、「老後ひとり難民」の増加が見込まれるなか、このテーマは避けて通れなくなっていくはずです。

友人やお世話になった人に財産を残したいときは?

財産を「身元保証等高齢者サポート事業」に寄付する以外にも、「自分の財産を友人やお世話になった人に残したい」「保護猫・保護犬のボランティア団体に寄付したい」「養護施設の子どもたちに残したい」「わずかとはいえ国に引き渡すことは避けたい」と思う方もいるでしょう。

財産を残して亡くなった人に配偶者や血族などの「法定相続人」がおらず、遺言書もないと、多くの場合、そのお金は国が引き取ることになります。

特定の人や団体に渡したい場合は、法的効力を持つ「遺言書」を作る必要があります。

遺言書には大きくいうと「ひつしょうしょ遺言」と「こうせいしょうしょ遺言」があります。自筆証書遺言は自分で手書きで作成しなくてはなりません。作った日付の記入や署名捺印をするなどのルールが守られていないと、無効になることもあるので気をつけてください。

自筆証書遺言は自宅に保管しておくこともできますが、「自筆証書遺言書保管制度」を利用して、法務局に預けておくことができます。自筆証書遺言書保管制度を利用すると、亡くなったときに、あらかじめ指定しておいた人(最大3名)に、遺言書が法務局に保管されていることが通知され、遺言書の紛失や発見されないという事態を防げます。

公正証書遺言は、公証役場で作成される遺言書です。作成には費用がかかりますが(財産の価額が100万円以下で5000円の手数料)、遺言書は公証役場に保管される点で安心といえます。

財産の額がそれなりに大きく、財産を確実に特定の人に残したい場合は、公正証書遺言のほうがいいかもしれません。

ただ公正証書遺言は、作成後に必ず「遺言執行者」を決めておく必要があります。遺言執行者は、遺言書に書かれている内容を実際に行う人のことです。公正証書遺言を作った人が亡くなった場合、凍結された銀行口座からお金を引き出し、遺言書に書かれている人に渡す役割を担います。

ただし、この役割は手続きなどが煩雑でもありますから、遺言執行者には弁護士などを指名するほうがいいでしょう。

「死んだあとのことは、どうでもいい」では済まされない

日本総研では、2020年に「中高年者の意思決定の準備状態に関する調査」を行いました。

この調査のなかで、死後対応について「意見A/死んだ後にできるだけ人に迷惑をかけないよう準備したい」「意見B/死んだ後のことはどうしようもない。誰かがどうにかしてくれる」という2つの意見を示し、どちらの考え方に近いかを尋ねています。

全体としては、「意見Aにまったく賛成だ」「どちらかというと意見Aに賛成だ」という人、つまり「遺族などの負担を軽減するために自分で準備をしておきたい人」が8割を超えました。

なかでも、配偶者と死別した人では、その意見が9割近くにのぼっています。

自分が配偶者の死後事務を経験してみて、「本人が準備していないと、残された人が大変だ」と感じたり、あるいは「準備をしてくれていたので助かった」ということを身をもって体験したことが、このような考え方に至っている背景にあるのかもしれません。

独居・同居の別で見ると、独居の人も同居の人も、遺族の負担を軽減するために自分で準備をしておきたい人が約8割であるという点は同じですが、独居の人のなかには「意見Bにまったく賛成だ」「どちらかというと意見Bに賛成だ」という、「死んだあとのことは誰かがどうにかしてくれる」派の人が8・8%おり、同居世帯の人よりもその割合が高くなっています。

ひとり暮らしの高齢者のなかには、「身寄りがない以上、死後のことは考えても仕方がない」と諦めている人もいるのかもしれません。

しかし、「自分が死んだあとのことはどうでもいい」というのは甘い考えともいえます。

「老後ひとり難民」で「あとのことはどうでもいい」と、何の対処もしていない人は、生前に周囲から「リスクがある人」と見なされてしまうことになるからです。

たとえば先に触れたように、「老後ひとり難民」の場合、入院する際に病院から敬遠されがちです。

もちろん、病院には「おうしょう義務」があり、診察治療の求めがあった場合に、正当な事由がなければ拒んではならないとされています。

しかし現場の人が「この人は緊急連絡先がわからないから、何かあったときに対応に困る」と考えれば、病床がひっぱくするなか、無理に受け入れようとはしないかもしれません。

一方、いざというときに「緊急連絡先になってくれる知人がいます」「身元保証サービスを契約しています」などといえる人であれば、「それならなんとか対応できるかもしれない」と判断されて受け入れてもらえる可能性が高まるでしょう。

では、「迷惑をかけないような準備」とは何でしょうか。

次章以降は、「身元保証等高齢者サポート事業者」の実態や国の動きなどを確認しながら、「老後ひとり難民」が安心して暮らしていくための方法を一緒に考えていきましょう。

*   *   *

「老後ひとり難民」に起こりがちなトラブルを回避する方法と、どうすれば安心して老後を送れるのかについて詳しく知りたい方は、幻冬舎新書『老後ひとり難民』をお読みください。

関連書籍

沢村香苗『老後ひとり難民』

世はおひとりさまブームで、独身人口は増え続けるばかり。だが、そのまま老後を迎えて本当に大丈夫だろうか? 配偶者や子どもなどの“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多い。高齢で体が不自由になるなか、認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも。本書ではこのような現実に直面し、かつ急増している高齢者を「老後ひとり難民」と呼び、起こりがちなトラブルを回避する方法と、どうすれば安心して老後を送れるのかについて解説。読むだけで老後の生き方・考え方が劇的に変わる一冊。

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老後ひとり難民

おひとりさまブームで増え続ける独身人口。しかし“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多いそう。さらに認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも……。「おひとりさま高齢者」問題研究の第一人者、沢村香苗さんが上梓した幻冬舎新書『老後ひとり難民』より、一部を抜粋してお届けします。

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沢村香苗

日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。精神保健福祉士、博士(保健学)。東京大学文学部行動文化学科心理学専攻卒業。東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。国立精神・神経センター武蔵病院リサーチレジデントや医療経済研究機構研究部研究員を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。2017年よりおひとりさまの高齢者や身元保証サービスについて調査を行っている。

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