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棺桶まで歩こう

2026.01.03 公開 ポスト

"生き方"は"死に方"に直結する 2000人を看取った医師が見た、後悔しない人生萬田緑平(在宅緩和ケア医)

不健康寿命が延び、ムダな延命治療によってつらく苦しい最期を迎えることへの恐怖が広がる今、「長生きしたくない」と口にする人が増えています。先行き不透明な超高齢化社会において、大きな支えとなるのが、元外科医で2000人以上を看取ってきた緩和ケア医・萬田緑平先生の最新刊『棺桶まで歩こう』です。

家で、自分らしく最期を迎えるために、何を選び、何を手放すべきか。本書から、一部をご紹介します。

*   *   *

「80歳の壁」を超えるなんて恐ろしい

僕にとって80歳まで生きることは、今一番のリスクです。70歳で死んでもいい、60歳でもやむなしです。80歳まで生きるほうがよほど怖いのです。

医者が言うことではないと思うのでしょう、こう話すとよく「えっ、なぜ?」と訊かれます。

なぜか。答えるとすれば、僕は知っているからです。長生きした結果、どういう人生があるかということを──。

たくさんの高齢者を見てきて、今の自分の記憶力などを考えると、80歳くらいになったらかなりまずい状態だろうとわかるのです。だから、80歳まで生きるわけにはいかないなと思う。

健康診断ももちろん、人間ドックなどは受けません。病気にかかっていても別にいいし、気がついた時には「もうダメ」だと言われてもかまわない。

健康によいことを一所懸命して、長生きしたいなんて、僕にとってはとんでもなく恐ろしいことです。

たとえ生きていたとしても、認知症になったら自分のやりたいこともできない。身体も動かない。

「80歳超えて元気な人もいっぱいいますよ」と言う人は多いです。もちろんそういう方もいますが、少数派です。多くの「元気じゃない」高齢者は施設か病院にいるから目に入らないだけ。一度みなさん、施設にいる高齢者を見てみればいいと思います。

最初は家族が訪ねて来るけれど、週1回が一週おきくらい、だんだん月に1回になり、そのうちたいてい来なくなる。でもその頃にはもう本人は、家族の顔もわからなくなっているわけです。一日中ぼーっとしているだけで、はたして幸せでしょうか。

みなさん、街やテレビなどで元気な高齢者だけを見て「長生きしたい」と思い、健康、長生き、健康、長生きの大合唱です。雑誌やテレビも、「身体にいいこと」の特集ばかり。

けれど、長生きする日数の長さではなく、いつ死んでも悔いがない生き方ができているかこそ、肝心なのではないかと思います。

成功者、金持ちほど寂しく死ぬ?

仕事柄、たくさんの看取りをしてきました。最終的に確信したことは、「生き方は死に方に出る」ということです。

企業の経営者であったり、社会的に成功した人というのは、どうしても「俺のやり方が正しい」という自信がある。だから「おまえ、こうしろ」と、簡単に言ってしまいがちです。部下、後輩に対してもそうですし、家族に対してもそうなる。「こうしろ、ああしろ、違うだろう」と言われ続けてうれしい人間なんていませんから。結局みんなに嫌われるわけです。

仕事をしているうちはまだいいけれど、仕事を引退したら、もうみんな離れていくのは当然です。

奥さんの買い物などについて行けば、「そうじゃない、こうしろ」とまたなる。子どはもちろん、命令ばかりする父親と一緒にいたいわけがありません。

友だちをつくろうとしても、「俺は会社の社長だった」という話しかせず、上から目線だから、誰からも好かれるわけがない。利害関係があったから従っていただけなのに。

孤独な独裁者です。そういう人に限って、たいていお金でなんとかしようとします。すると認知症になったり、死にそうだというとき、お金でつながっている家族しか来ません。

そして、面倒をみたほうが遺産が多くなると考えるから、子ども同士が争うことになります。実際に聞いたこんな話がありました。

長女が父親を施設に入れようとする。なぜかと言えば、次女が父親の面倒をみると、次女に遺産が多く渡ってしまうからだというのです。つまり施設に入ってくれれば姉妹平等だというわけで、あまりの理由に愕然がくぜんとしました。

もちろんすべてではありませんが、成功した人、裕福な人ほど寂しい亡くなり方をすることが多い気がします。

傍目はためにはどんなに寂しい亡くなり方でも、本人が「俺は成功したんだ、社長だ、お金もある、偉いんだ」と言いながら死んでいく人もいます。「俺は満足だ」と思い込んで死ぬのですから、それはそれでいいのでしょうが。

女性で、こうした「成功者タイプ」だと、子どもが大人になっても何かと命令し、孫の育て方にまで口を出すというパターンがあります。子どもにとっては「いいかげん、もう関わらないで」と言いたくなる。高齢になって、子どもから絶縁された母親もたくさん見てきました。

家族への「ありがとう」が終末期の逆転ホームラン

逆にとても大事にされ、「このおばあちゃん、どうしてこんなに人気があるのかなぁ」と思う方が時々います。こういうおばあちゃんを見ていると、「いいんだよ、いいんだよ。それで間違ってないよ」と絶対に怒らない。「今のあなたでいいんだよ」と言ってくれる、自分を認めてくれるおばあちゃん。孫にもひ孫にも、もちろん子どもにもめちゃめちゃ愛されますよね。

応援して、ほめてあげて、認めてあげられる人。こういう人は人気があるし、もちろんお金を持っているかどうかなんて関係なく人が集まってきます。

逆に社会的地位のある人に多いのは、「なんで俺の言う通りにしない」と子ども、孫にまで言うので、お金がなくなったら誰も寄ってきません。

人は一人ひとり違います。違う人間なのだから違うに決まっているのです。部下と上司はもちろん、親子、兄弟姉妹だって近いけれど全員違う。家族なのに「違う、違う」とケンカしたり、すったもんだ離婚したりしている。違う人なんだから違うに決まっています。

エラい人ほどそれを忘れて、「自分と同じ考えじゃないとダメ」になってしまっている。そしてひとりぼっちになって死んでいくのです。

「生き方」が死ぬときに出てくる。「生き方」が「死に方」だと言えるでしょう。

死んでいくというとき、家族にも誰にも相手にしてもらえない人もいれば、「がんばれ、がんばれ」と言われる人もいます。あまり「がんばれ」と言われすぎてつらい人もいますが……。

僕のところにやってくる人は、「もう治療したくない」「退院して家に帰りたい」という希望を家族が受け入れてくれた人たちです。家族が、「いいよ、萬田先生に手伝ってもらって退院しよう」と言って認めてくれたのです。人を認める生き方をしてきた人は、自分も認めてもらえる。つまり、いい生き方をした人だけが僕のところに来ると信じています。だから、僕がアドバイスするだけでなんとかなる。ちゃんと死ねます。

ちゃんと生きてきた人が、ちゃんと最後まで生きられる。ちゃんと生きていない人が、いきなり最後だけよくしよう、なんて無理があります。大逆転なんてあり得ない。

ただ、もし大逆転の可能性があるとすれば、家族に「ありがとう」と言ってみること。第一章で紹介した50歳男性の家族のように、ひょっとして家族との関係性が変わるかもしれません。

僕は、たくさんのすばらしい生き方を目撃してきました。いい生き方をした人たちは、みんないい死に方ができます。

いい生き方とは、人生の長さではありません。

人が死んでいくとき、自分の人生を家族や友人、誰かと一緒に振り返れば、みんな「いい人生だった」と言います。50歳でも、10歳でも、言います。

両親が「パパとママの子に生まれてきてくれてありがとうね」っていっぱい伝えていれば、4歳の子どもでも言います。「僕はパパとママの子どもに生まれてきてよかった」と。

*   *   *

最期まで自分らしく生きたい方、また“親のこれから”を考えたい方は、幻冬舎新書『棺桶まで歩こう』をお読みください。

関連書籍

萬田緑平『棺桶まで歩こう』

歩けるうちは、人は死なない 長生きしたくないという高齢者が増えている。 不健康寿命が延び、ムダな延命治療によるつらく苦しい最期は恐ろしいと感じるからだ。 著者は2000人以上を看取った元外科医の緩和ケア医。 「歩けるうちは死にません」「抗がん剤をやめた方が長く生きる」「病院で体力の限界まで生かされるから苦しい」「認知症は長生きしたい人にとって勝ち組の証」「ひとり暮らしは、むしろ楽に死ねる」など「延命より満足を、治療より尊厳を」という選択を提唱。 医療との向き合い方を変えることで、家で人生を終えるという幸せが味わえるようになる! 2000人の幸せな最期を支えた「在宅」緩和ケア医が提言 病院に頼りすぎない“生ききる力”とは?

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棺桶まで歩こう

体力も気力も衰えを感じる高齢期。「長生きしたくない」と口にする人が増えています。
不健康寿命が延び、ムダな延命治療によって、つらく苦しい最期を迎えることへの恐怖が広がっているからです。そんな“老いの不安”に真正面から応えるのが、元外科医で2000人以上を看取ってきた緩和ケア医・萬田緑平先生の最新刊『棺桶まで歩こう』です。

家で、自分らしく最期を迎えるために――いま何を選び、何を手放すべきか。
本書から、一部をご紹介します。

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萬田緑平 在宅緩和ケア医

「緩和ケア 萬田診療所」院長。1964年生まれ。
群馬大学医学部卒業後、群馬大学医学部附属病院第一外科に勤務。手術、抗がん剤治療、胃ろう造設などを行う中で、医療のあり方に疑問を持つ。2008年から9年にわたり緩和ケア診療所に勤務し、在宅緩和ケア医として2000人以上の看取りに関わる。現在は、自ら開設した「緩和ケア 萬田診療所」の院長を務めながら、「最期まで目一杯生きる」と題した講演活動を日本全国で年間50回以上行っている。
著書に『穏やかな死に医療はいらない』(河出書房新社)、『家で死のう! 緩和ケア医による「死に方」の教科書』(三五館シンシャ)などがある。

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