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夫婦はなぜ壊れるのか

2025.12.13 公開 ポスト

体調の悪い妻に「から揚げが食べたい」と言ってしまう夫山脇由貴子(カウンセラー)

夫婦カウンセリングを訪れるカップルが急増しています。コロナ禍のステイホームやリモートワークの普及により、パートナーへの不満から目を逸らしにくくなってきたことも要因のひとつだと『夫婦はなぜ壊れるのか』の著者は言います。病気の妻にから揚げが食べたいと言ってしまう夫から、実家に尽くし過ぎる妻まで。夫も妻も、なぜみすみす関係を悪化させるような言動をとってしまうのか。その背景を本書から抜粋して紹介していきます。別居や離婚を考えながらも揺れている方はもちろん、家庭内が以前に比べてギスギスしていると悩んでいる方まで、関係改善のヒントが得られる1冊です。

(本文中の事例はすべて仮名であり、事実を元にしたフィクションです)

*   *   *

妻の体調に配慮出来ない夫 受け入れ過ぎた妻

妻である綾美さん(40歳)の悩みは、夫の隆之さん(35歳)があまりにも体調に配慮してくれない事。

「私の体調が悪い時に全く配慮してくれないんです。風邪をひいて、39度近い熱があって寝てるのに『から揚げ食べたい』『シチュー食べたい』って」
「そういう時、綾美さんはどうされるんですか?」

私がそう尋ねると、綾美さんは少し黙った後、

「作ってあげちゃいます」

と答えました。「そんなの放っておけばいいのに」と多くの人は思うでしょう。

「さすがに材料は買って来てくれるんですけど。買って来たものを『はい』って渡されると仕方なく……」

でも、隆之さんは料理が出来ない訳ではないそう。

「なぜ、自分で作らないんですか?」

私が隆之さんに尋ねると、

「それは……妻が作った方が美味しいし、妻の作ったものを食べたいんです。わりと元気そうにも見えたし」

隆之さんはくったくなく答えました。

普段は夫婦仲は良く、喧嘩もないそうです。

「一番ショックだったのは……私が子宮筋腫で手術して退院する日、夫は外出していて。私一人で帰って夫に『ものすごくだるい』ってメールしたんですけど、そうしたら『じゃあ、ご飯食べて帰る』って返事が来て。私の体調より自分の食事なのかってすごいショックで……」

「それは悲しいですね」

私が思わず言うと、綾美さんが頷きました。

「夫は普段は優しいですし、気遣いも出来る人なので、どうしてなんだろうって」

私が隆之さんにその時の気持ちを尋ねると、

「それは……具合が悪いのに料理させるのは悪いから、だったら食べて帰った方がいいかなと思って」

と答えました。どうやら、隆之さんには問題意識も罪悪感もないようです。私は隆之さんに、カウンセリングに来るのは嫌ではなかったのかを尋ねました。

「妻が一緒に来て欲しいと言うので。妻が望むなら、断る理由もないなと思って」

確かに、夫婦仲は悪くないようです。そして隆之さんは素直な方であるとも感じました。だとしたら、綾美さんの体調に配慮出来ないのはどうしてなのでしょう。

夕食作りも当たり前の中学時代

綾美さんは両親と姉の4人家族。両親は共働きで、母親はダブルワークをしており、かなり多忙だったとの事。なので、小学生の頃から家事を手伝うのは当たり前で、中学生からは夕食を作るのは綾美さんの仕事だったそうです。負担は大きかったと言います。

「習い事もたくさんやらされていましたし、成績にも厳しかったので、やる事がたくさんあって。でも家事をやらないとすごく怒られたので……」

母親には叱られる事が多く、叩かれた事も少なくないそうです。

「お母さんはお姉さんに対しては?」

私が尋ねると綾美さんは首を横に振りました。

「姉はすごく優秀だったんです。だからあまり手伝いもさせられていなかったし、習い事もほとんどしていませんでした。勉強さえしていればいい、というか。母は私が何も出来ないダメな子だから、自分が厳しくしなくてはいけない、と思っていて」

特に成績については常に姉と比較されて、怒られてばかりだったそうです。

「自分なりに頑張っても、姉には絶対にかなわないので」

綾美さんは少し悲しそうに笑いました。ずっと母親の事が怖かったし、母親は自分の事は嫌いなんだと思って育ったと言います。そして恐怖心は今でも残っている、と。

「母から連絡が来るだけで、何だろうって怖くなります。それに何か命令されたら絶対にやらなくちゃって思ってしまって……」

ただ、その恐怖心は隆之さんと結婚して少し和らいだ、と言います。

「母の事、ちゃんと話してあるので、連絡が来ると相談するんです。そうすると『俺が断るよ』って言ってくれたり」

夫が味方でいてくれる。それが救いになっていると言います。

心理テスト結果からは、幼少期の深刻な愛情欲求と心の傷、人から嫌われる不安が極端に強い事が認められました。ですので、自分を犠牲にして、尽くしてしまう傾向があります。隆之さんに対しては、愛情と信頼と依存が認められ、期待が大きい分、傷つけられた時のダメージも大きいと言えます。

心理テスト結果を綾美さんに伝えると、ため息をつきながら言いました。

「本当に。嫌われるのが怖くて、相手の言う事をなんでも聞いてしまって搾取されて終わった関係もあります。だから夫と結婚出来て、本当に安心出来たんです」

隆之さんを失いたくない思いは非常に強いようです。(続く)

関連書籍

山脇由貴子『夫婦はなぜ壊れるのか カウンセリングの現場で見た、絶望と変化』

病気の妻にから揚げが食べたいと言う夫。なんでも嘘をつく夫。 家事をやらない妻。実家に尽くし過ぎる妻。 夫も妻も、なぜ、みすみす関係を悪化させるような言動をとってしまうのか。 実はそこには夫婦それぞれが育ってきた家庭環境が影響している。 関心を示されなかった、監視が厳しかった、自分だけ愛されなかった……幼少期の満たされなさを、今のパートナーで補おうとするのだ。 こうした背景を理解し合い、歩み寄ろうと思えれば、夫婦は再スタートできる。 長年多くの夫婦に寄り添ってきたカウンセラーによる救済の書。

水谷さるころ/山脇由貴子『子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!』

コロナ禍の密室育児で、家庭内で不機嫌&子どもにキレちゃう夫が爆誕! カウンセリングに行き、夫が本当に変わっていくまでを描いたコミックエッセイ。 ・夫はなぜ自分の気持ちを言葉にできないの? ・息子、わざとお父さんを怒らせる ・夫婦でカウンセリングを受けてみた ・夫がキレなくなってる!? ・男性が自分の傷つきを認めるということ ・カウンセリングから1年経って

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夫婦はなぜ壊れるのか

夫への 妻への不平・不満は実はやり直しの鍵!長年多くの夫婦に寄り添ってきたカウンセラーによる救済の書。

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山脇由貴子 カウンセラー

1969年、東京都生まれ。横浜市立大学心理学専攻。大学卒業後、東京都に心理職として入都。都内の児童相談所に心理の専門家として19年間勤務。現在は家族問題カウンセラーとして活動。著書に『教室の悪魔 見えない「いじめ」を解決するために』『告発 児童相談所が子供を殺す』『夫のLINEはなぜ不愉快なのか』などがある。

 

 

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