一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選んでレビュー。さらに“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作るコーナー。
今月のオススメはこちらです!
また、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長が新刊の中からセレクトする、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」もあわせてお楽しみください!
【元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリスト
アルパカ内田さんが今、売りたい本】
第49回 今野敏『白露 警視庁強行犯係・樋口顕』
第一発見者は、そこで働く外国籍の男性。
警視庁捜査一課の樋口班が捜査を進めるなか、
SNSでは彼の実名が書き込まれ、
外国人であることを理由に犯人ではないかと疑う声が
上がる。投稿者の特定を急ぐ樋口。
だが、それを嘲笑うかのごとく、発見者の顔写真と
現住所が晒されてしまい、さらには逮捕や
強制送還を望む意見まで出てくる……。

皆さん、こんにちは。刑事よりケージが苦手なアルパカ内田です。
これぞ王道のエンターテインメント。さすが警察ものの第一人者・今野敏の実力をまざまざと見せつけられる一冊だ。「警視庁強行犯係・樋口顕」シリーズの最新作であるが、シリーズ未読でも十分に楽しめる。
まずは現代日本が抱える社会問題に果敢に挑んでいる点に注目だ。工事現場で起きた殺人事件。並々ならぬ刑事たちの執念。しかし懸命な捜査の行方を阻むのは、外国人労働者問題に炎上を狙うSNSの悪意だった。無自覚の差別意識は誰にでもあり、世界を瞬時につなぐSNSは両刃の剣でもある。これは少子化や移民、貧困問題も絡んだ時代を映す鏡なのである。
現場の肉声が伝わるような圧巻のリアリティに驚かされ、読みどころが実に豊富である。共通の敵である犯人を追いつめる警察署内での仲間たちとの一体感。時代遅れの働き方と言われようとも、それぞれの個性を活かした素晴らしいチームプレイにグイグイと引き寄せられる。
そして忘れてならないのは、過酷な仕事を陰で支えている家族の存在だろう。さまざまな角度から人間・樋口顕の素顔が浮き彫りにされる。寄る年波に身近な関係性も変化していく。飾らない人間臭さがたまらない。こうした身体感覚、血の通った絆の描写は決してAIには真似ができないだろう。
生きづらさは増し続け、日常の闇は深まっている。それでも我々はこの場所で暮らしていかねばならない。希望が伝わる今野作品を読むと、明日へと踏み出すパワーが生まれる。まさに生きる糧なのだ。

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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