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夫婦はなぜ壊れるのか

2025.12.07 公開 ポスト

夫がマッチングアプリにハマってしまった理由は「誰かと話したかったから」山脇由貴子(カウンセラー)

夫婦カウンセリングを訪れるカップルが急増しています。コロナ禍のステイホームやリモートワークの普及により、パートナーへの不満から目を逸らしにくくなってきたことも要因のひとつだと『夫婦はなぜ壊れるのか』の著者は言います。病気の妻にから揚げが食べたいと言ってしまう夫から、実家に尽くし過ぎる妻まで。夫も妻も、なぜみすみす関係を悪化させるような言動をとってしまうのか。その背景を本書から抜粋して紹介していきます。別居や離婚を考えながらも揺れている方はもちろん、家庭内が以前に比べてギスギスしていると悩んでいる方まで、関係改善のヒントが得られる1冊です。前編はこちらです。

(本文中の事例はすべて仮名であり、事実を元にしたフィクションです)

*   *   *

「誰かと話したい」という欲求

コロナ禍のテレワークや子どもの休校で、夫婦仲が悪くなったという相談は1回目の緊急事態宣言後、急激に増えました。1日中一緒にいる事によって、今まで見えなかった所や気にしなくてよかったことが見えるようになった事、子どもの休校で家事育児負担が倍増した事などが原因というケースが多かったですが、夫が「誰とも話せない」「外出できない」事にストレスを感じているというケースも多かったです。それまでは気軽に飲みに行ったり出来ていたのが、ちょっとした外出すら妻への説明が必要になり、出かけにくい。

また、勇一さんの生い立ちの聞き取りでは、両親は共働きでかなり忙しく、一人っ子だった彼は、家で一人で過ごすことが多かったそうです。

「寂しかったですか?」

私が尋ねると勇一さんは答えました。

「中学生くらいになると好き勝手出来るからいい、と思うようになりましたが、小さい頃は寂しかったですね。親と過ごした思い出ってほとんどなくて。特に私は母が大好きだったんですけど、甘える事が出来なかったな。家にいる時も母はいつも疲れていて、甘えようとしたら振り払われる事もあって。母と話した記憶はほとんどないんです」

心理テスト結果からも母親に対する強い愛情欲求が認められました。そして現在は、妻に対して「愛して欲しい」「優しくして欲しい」という気持ちが強まっている事も。

「コロナ前は本当に何の不満もなかったんです。妻とおしゃべり出来る時間が本当に楽しくて」

妻とのおしゃべりが楽しいという夫は多くはありません。それだけ、勇一さんが子どもの頃に抱えた孤独感、愛情欲求は強く、それを美由紀さんに満たしてもらっていたのでしょう。それならば、この夫婦はちゃんと関係を改善出来るはずです。

美由紀さんにも、生い立ちの聞き取りと心理テストの前に夫婦関係について聞いてみました。

「夫婦関係にコロナは影響したと思いますか?」

美由紀さんは頷いた後、

「そう思います。以前みたいに夫と出かけられなくなってしまったし、家族でも出かけられなくなって、それは家族全員にとってのストレスでした。それにコロナ禍で休校なのに長男の受験があり、勉強させるのに必死で。夫と過ごす時間が余計に減っていたと思います」

と言いました。美由紀さんも影響は感じていたのです。

美由紀さんの方は両親、妹の4人家族。両親の夫婦仲も良く、美由紀さんと妹が中学生くらいの頃から、両親が2人で出かける姿を見るのは自然な事だったそうです。旅行だけでなく、週末にピクニックへ行くなど、家族での楽しい思い出はたくさんあると言います。

「母は学校や友だちの話をよく聞いてくれました。だから私も自然に子どもたちの話を聞いていますし、長男も含めて皆よく話してくれます。週末も家族で出かける事が多いです。さすがに高校生になってから息子は行かない事も増えましたが、中学までは家族全員でよく出かけてました。夫婦仲だけじゃなくて、『お宅は本当に家族の仲がいいね』って周りからも言われます」

心理テスト結果からも心理的に健康で、家族への愛情は非常に強く、ただ、夫に対しては、今は不信と不安を抱いている傾向が認められました。

「以前のように信頼していいのか、確かめたかった」

夫婦同席のカウンセリングでは、勇一さんのテスト結果、そしてコロナ禍での心理状態を美由紀さんに説明しました。美由紀さんは、「ああ」とため息のように言ってから、

「やっぱり、そうだったんですね」

と言いました。

「私も、寂しいんじゃないかな、と余裕のある時は思ってました。それまでは、夫婦でたくさん話をしていましたから。夫は私の話も楽しそうに聞いてくれましたし。あの頃は本当に余裕がなくて。休校ってこんなに大変なんだ、って学校のありがたみが分かりました」

そう言った後、

「夫は私とおしゃべりがしたかったんですね」

その通りです、と私は言い、

「逆に、それまで美由紀さんの愛情に満たされていたという事です。子ども時代の寂しさを埋められるほどに」

と伝えました。そして、

「メールのやり取りは本当にゲーム感覚で、だからこそ、別人になれる感じもあったんだと思います。だから美由紀さんの知らない面も出てしまったのだと。浮気は勇一さんの言葉通り、実際はしていないと思います」

私がそう言うと美由紀さんも頷いて、

「私もそう思っていました」

と言いました。

「夫は完全テレワークでしたから、ずっと家にいましたし。出かけたかどうかは子どもに聞けば分かります。今までたくさん会話をして来たので、夫が嘘をついていれば、私は分かると思います。ただ、本当に前のように信じて大丈夫なのか、それを確かめたかったんです」

日常の会話が多いと、相手への理解も深まります。それが互いの信頼につながるという事です。

「息子の受験も終わったので、また2人で出かけたいと思っていました。それを切り出す前に、ここできちんと確認しておきたかったのもあって。だから、これからは前のように出かけますし、話もたくさんします」

美由紀さんはそう言い、勇一さんも何度も頷きました。

関連書籍

山脇由貴子『夫婦はなぜ壊れるのか カウンセリングの現場で見た、絶望と変化』

病気の妻にから揚げが食べたいと言う夫。なんでも嘘をつく夫。 家事をやらない妻。実家に尽くし過ぎる妻。 夫も妻も、なぜ、みすみす関係を悪化させるような言動をとってしまうのか。 実はそこには夫婦それぞれが育ってきた家庭環境が影響している。 関心を示されなかった、監視が厳しかった、自分だけ愛されなかった……幼少期の満たされなさを、今のパートナーで補おうとするのだ。 こうした背景を理解し合い、歩み寄ろうと思えれば、夫婦は再スタートできる。 長年多くの夫婦に寄り添ってきたカウンセラーによる救済の書。

水谷さるころ/山脇由貴子『子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!』

コロナ禍の密室育児で、家庭内で不機嫌&子どもにキレちゃう夫が爆誕! カウンセリングに行き、夫が本当に変わっていくまでを描いたコミックエッセイ。 ・夫はなぜ自分の気持ちを言葉にできないの? ・息子、わざとお父さんを怒らせる ・夫婦でカウンセリングを受けてみた ・夫がキレなくなってる!? ・男性が自分の傷つきを認めるということ ・カウンセリングから1年経って

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夫婦はなぜ壊れるのか

夫への 妻への不平・不満は実はやり直しの鍵!長年多くの夫婦に寄り添ってきたカウンセラーによる救済の書。

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山脇由貴子 カウンセラー

1969年、東京都生まれ。横浜市立大学心理学専攻。大学卒業後、東京都に心理職として入都。都内の児童相談所に心理の専門家として19年間勤務。現在は家族問題カウンセラーとして活動。著書に『教室の悪魔 見えない「いじめ」を解決するために』『告発 児童相談所が子供を殺す』『夫のLINEはなぜ不愉快なのか』などがある。

 

 

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