ラッパー・GASHIMAさんによる人気連載『先生、俺またバグってます。』。
今回は、夏に訪れた“軽躁状態”から、秋冬の“落ち込み”へと向かう心と身体のリアルを語って綴っていただきました。
季節のように揺れ動く心の波を、GASHIMAさんはどう受け止め、どう向き合っているのか――。ぜひご一読ください。
* * *
このコラムが始まった頃から読んでくれている人は
少し察しがついていたかも知れないが、
今年の夏はなかなかの軽躁状態だった。
「俺、コラムやりたい!!」とか急に言い出したのも
躁状態から来る衝動だったと思う。
結果、こうしてコラムを連載しているわけだから、
あと先考えずに幻冬舎さんに猛烈アタックをした
軽躁状態の自分に感謝したい。
そして、軽躁丸出しのギラギラの目で
「俺、週一の連載でも行けるっす!!!」
などと、ほざく俺に対して
「いや……
まずは月一からで様子を見ましょう……」
と冷静にストップをかけてくれた
担当者さんには感謝しかない。
躁状態が終わった今の俺には
週一の連載など到底無理だ。
躁状態とうつ状態のサイクルは人によって違うが、
大体、俺の場合は夏に軽躁状態を迎えて、
秋ごろにそのエネルギーを使い果たす。
そして、冬にはうつ状態に突っ込んでしまう。
この波が大きい年もあれば、
「もしかして、これ治るんじゃね?」
と思えるほどに
小さい波しか感じずに済む年もある。
今年はまぁまぁ波が大きい年だ。
夏の間の睡眠時間は毎日、4時間ぐらいだった。
夜明け前には目が覚めて、二度寝を試みる。
しばらく目を瞑ってみるけど、
ポンポンと湧き出す思考が止まらなくなり
「うぉぉぉ! アイデアが降りてくる!!!!
今すぐに曲作りてぇ!!!!!!」
という狂気じみた衝動に駆られる。
その結果、朝の5時にはパソコンに向かって
音楽を作り始める毎日が始まった。
それならまだしも、8月頃には
4時前に起きてしまうようになった。
さすがにそんな時間から
音を出すのはマズイと思い、
明け方の近所を徘徊し始めた。
その結果、散歩中に知り合ったお婆ちゃん、
「佐藤さん」と一緒に地域猫に餌をあげるという
謎の朝ルーティンが構築されていったのだ。
目の下にクマを作りながらも、
明け方から妙にハイテンションな男。
一歩、間違えたらヤク中だと思われても
おかしくない俺に優しく接してくれた佐藤さん。
ホンマにありがとう。
そもそも俺はショートスリーパーでもなく、
毎日3, 4時間睡眠で生活して
平気なわけがない。
躁状態は元気の前借りなのだ。
今はバッチリそのツケが回ってきて、
毎日10~14時間、
寝てしまう日々が続いている。
今年の夏は「今の自分は軽躁状態」
という自覚があったので、
なるべくブレーキは踏むようにした。
朝の異様な創作意欲のまま、
夜中まで突っ走れそうな日も
夕方には作業を切り上げていたのだ。
その甲斐あってか、今のところは
うつ状態というほどの症状は出ていない。
それでも、この「過眠」というのは
なかなかメンタルをエグって来る。
夜の22時に寝ても
昼前まで起きられない。
そして、寝すぎた分、
身体も重たいし、
頭もボーッとする。
自分がダメ人間になった気がして
自己嫌悪にも陥るし、
起きている時間も少ないから、
1日にこなせるタスクの少なさに凹む。
更にそこに過食も加わる。
セロトニン不足を補おうとするのか、
甘いものを食べずにはいられなくなるのだ。
睡眠時間も爆伸びして、活動量も減る。
その癖に甘いものを食べるから体重は増える。
何もできないポンコツ具合に加えて、
ビジュアルまで崩れていくわけだから、
自己肯定感は下がる一方だ。
「それは身体の防衛本能ですから、
寝れる時は寝ればいいし、
食べたいものを食べてください。」
ハッキリ精神科の先生がそう言ってくれて
少しだけ救われた自分がいた。
なので、自戒の意味も含めて、
今、うつ状態や下降気味な
躁うつ仲間たちに俺は伝えたい。
今はもう諦めて、ダメ人間になろう。
変に焦って頑張ると
余計に調子が戻るのも
遅れるらしい。
1年中、咲いている花なんてないんだから
自然界ではむしろ俺らの方が普通。
冬眠せずに畑を荒らしている
熊に比べたら、まだ俺たちの方が迷惑ではない。
そして、佐藤さん。
毎朝、猫にチュールをあげていた男は
今もちゃんと生きています。
また躁状態が戻って来た時には
一緒に餌をあげたいので、
佐藤さんも長生きしてください。
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先生、俺またバグってます。

3人組シンガーソングライター・グループ WHITE JAMのラッパーとして活躍するGASHIMA。
そんな彼はある日、「双極性障害」であると診断される。
思い返してみれば、昔から自分はちょっとバグってた。
日本とアメリカで経験した過去、生い立ちと音楽、メンタルヘルスの狭間で感じた「生きづらさ」をパーソナルかつリアルに綴るセルフドキュメンタリー連載。
目まぐるしく変わる環境に対するやり場のない怒り。
振り返ってみれば「若気の至り」だと思っていた破壊的衝動。
あれも、これも、もしかしたら躁状態だったのかも?
“ただの勢い”の裏にはちゃんと病理があった。
そう思えると、あの時の俺も少しだけ愛せるようになった。










