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しばけるもんならしばきたい

2026.01.16 公開 ポスト

上京後、最速ホームシックに陥った芸人の東京奮闘記盛山晋太郎(芸人)

人気お笑い芸人の見取り図・盛山晋太郎さんが初めてのエッセイ『しばけるもんならしばきたい』を刊行! 2020年から約5年間つづったエッセイでは、日々テレビで活躍する盛山さんが、どんなことを考え、どんな風に過ごしているのか、その一端を覗き見られる一冊になっています。また、書籍化に当たり、2025年の盛山さんが当時の自分を振り返って書いた「いまがき」も収録。さらにさらに、約8割のエッセイには、盛山さんによる挿絵もついています。

そんなエッセイ集から、試し読みをお届け。いまや、YouTubeの企画で上京したての芸人を集めて座談会を開くほど、東京にも慣れた盛山さん。そんな盛山さんが、上京したての頃に綴った一篇です。

*   *   *

東京

(小説幻冬2022年6月号掲載)

(イラスト/盛山晋太郎)

大東京に住みはじめて2ヶ月が経った。相方は岡山出身で地元を離れ大阪に移り、そして東京に。故郷を出ることに関しては2回目だから慣れたもんだ。

僕はというと、地元を離れるというのが36年生きてきて初めての経験。今はまだ寝てるときですら「俺は仕事をするためにここにいるんだ」という出稼ぎ感覚が取れずに床についている。家にいても、家でゆっくりしてるぞーという気がひとつもしない。

関西出身の先輩にそれを伝えると、ほとんどの人が「そんなんすぐ慣れるで」と言ってくれる。お一人だけ30年近く東京で活動されてる大先輩が「俺もや。何十年もその感覚や」と仰ってたのが気になったけど。

まさか自分が東京に住むなんて数年前までは想像もつかなかった。いや、この世界に入ったときには漠然と「いつかは東京で」という思いがあったが、いざ本当に上京となると戸惑いの方が勝っている。

東京の家に住み始めた初日の夜に、僕は大阪に想いを馳せていた。おじさん史上最速のホームシックだ。

 

東京の現場では当たり前だが、「環七のラーメン屋で~」「赤羽のスナックじゃねぇか」など、東京の地名が飛び交ってトークが行われている。

何も知らない僕はその場に合わせて雰囲気で笑っている。大阪の番組やライブにたまに東京の芸人さんが来たときは、これを味わってたのかと回顧する。

タクシーに乗り「初台の出口で降りてそのまま新宿方面でいいですか?」と言われても、何も知らない僕は「はい」と答える。品川から新宿にタクシーで行くとして、仮に「埼玉から山梨に行ってそのまま新宿向かいますね」と言われても、僕は「はい」と答えるだろう。頼む。もう聞かないでくれ。

テレビ局に行くと楽屋にたくさんお弁当がある。しかも全てうまそうだ。聞くと、マネージャーやスタイリストさんの分も用意して下さってるらしい。東京はなんて太っ腹なんだ。大阪では、聞いたことないメーカーのウーロン茶が2本だけだったり、ADさんが握ってきたおにぎりだけというときもあったので、ケータリングの豊富さに驚いた。

ホテル暮らしをしてた頃は、弁当を2個とか持って帰って食べてたので、おかげですっかり太ってしまった。先輩方に聞くと、「局の弁当がうまくて食べてしまうから太る」は東京のテレビ1年目あるあるらしい。

先日、国民的スターが品川を歩いていた。一応名前を伏せておきますが、日本人の認知度はほぼ100%であろうスーパースターだ。どこからどう見てもその方なので、僕は立ち止まって「すげぇ普通に歩いてはる」と見入ってしまっていた。しかし道ゆく東京の人達は一瞥もくれずに歩いていた。さすが芸能人に慣れてるのか興味がないのか、スターなんかに目もくれてなかった。

全員がロボットにすら見えた。これが大阪だったら「ウォーキング・デッド」のように群がってるのに。大阪だったらスターの隣の僕だって、おっさんに「もうちょっと漫才のテンポ落とした方がええで! 一回試してみ」とダメ出しされるのに。東京の人はみんな自分の人生を全力で生きている。他人なんかどうでもいい。

 

ふと気づいた。東京は外車がとても多く走っている。絶対に多い。どこかデータを出してくれ。これは間違っていないはず。やっぱり金持ちの方が多いんやな。ランチとかも平気で千円以上とってくるし。家賃なんてとんでもない。

よく東京の人から「大阪って家賃安いんだよね? いいよなー」と言われることがあるが、大阪が安いのではなく絶対に東京が高いのだ。僕が大阪で住んでた部屋の家賃は13.5万円だったが、東京だったら13.5万円ではおそらくドアノブぐらいしか借りれない。今はもう住まいを見つけたが、家探しをしてるときは常に絶望だった。金を稼げないなら東京には住むなと告げられてる気がした。負けるかいな。俺は絶対に東京にしがみつく。

 

ちなみに今は、東京駅から乗った新幹線の中。横の席が完全に元総理だ。びっくりした。東京って横に元総理が乗ってくるんや。あと生の某元総理はE. T. ぐらいしわくちゃでした。

東京にしがみつくと言っておきながら、僕は大阪にも家を借りた。だって週1、2は大阪にいるから。なんなら半分以上いるときもあるから。つまり恋しがってるというか、執着している。大阪が嫌がるほどに。これからも大阪をストーキングしながら東京で天下を目指したい。

 

上京。しばけるもんならしばきたい。

2025年盛山のいまがき

このときよりも東京はさらに外国人だらけ。家賃もさらに高騰中。住めば住むほど思う。東京に住んでる人ってどうやってやりくりしてるの。

関連書籍

盛山晋太郎『しばけるもんならしばきたい』

見取り図・盛山晋太郎さんの初エッセイです。反町隆史に憧れ、モテたいと嘆き、M-1優勝を夢見て、タクシーの運転手と口喧嘩……。コンプレックスまみれ、でも誰よりもかっこつけな男・盛山晋太郎が、上京前夜から現在に至るまでの約5年間、休むことなく綴り続けた魂のエッセイ50篇を収録。彼の底の底までほじくり出した記録です。 【盛山晋太郎さんコメント】 人知れず幻冬舎さんで執筆させて頂いていた「エッセイ」がとうとう書籍化となります!約5年も連載させてもらっていたのに、未だに「エッセイ」とは何か分かっておりません。是非、盛山の「エッセイ」をお読みください。

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しばけるもんならしばきたい

見取り図・盛山晋太郎さんのエッセイ『しばけるもんならしばきたい』の試し読みをお届けします。

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盛山晋太郎 芸人

1986年1月9日生まれ、大阪府出身。2007年にNSC大阪校29期の同期だったリリーと「見取り図」を結成。2018年、MBS『オールザッツ漫才』優勝。同年から3年連続でM-1グランプリ決勝進出。2024年、KTV『第59回上方漫才大賞』奨励賞受賞。現在は冠番組の『見取り図の間取り図ミステリー』(読売テレビ)や『見取り図じゃん』(テレビ朝日)を始め、『ラヴィット!』(TBS・水曜レギュラー)、『1泊家族』(テレビ朝日)など多数の番組に出演中。

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