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しばけるもんならしばきたい

2026.01.09 公開 ポスト

その後、遅刻が98%減したほどの遅刻での大失敗盛山晋太郎(芸人)

人気お笑い芸人の見取り図・盛山晋太郎さんが初めてのエッセイ『しばけるもんならしばきたい』を刊行! 2020年から約5年間つづったエッセイでは、日々テレビで活躍する盛山さんが、どんなことを考え、どんな風に過ごしているのか、その一端を覗き見られる一冊になっています。また、書籍化に当たり、2025年の盛山さんが当時の自分を振り返って書いた「いまがき」も収録。さらにさらに、約8割のエッセイには、盛山さんによる挿絵もついています。

そんなエッセイ集から、試し読みをお届け。遅刻って、どんなに気を付けてもしてしまいますよね。芸人さんならではの遅刻エピソードをお書きいただきました。

*   *   *

遅刻

(小説幻冬2021年2月号掲載)

 

20代のときは遅刻癖がひどかった。小さい遅刻は数えられないほど。大きい遅刻は月に2、3回。遅刻という罪に大小をつけている時点で、根っからの遅刻魔でカス野郎だと自分でも思う。遅刻したくてする奴はいない。本当に事故的に起きてしまう。

遅れて現場に着くときはもちろん心の底から反省をするし、反省してます感を出す。僕は強こわ面もてでふてぶてしい奴だとよく勘違いされるので、より「反省してる感」を出すようにしていた。それがまた相手からしたらあざとく映っていたのかもしれないが、反省してないよりはマシだと思ってそうしていた。

そして遅刻した日は決まって、一日中落ち込んで、何をしても身が入らなかった。せめて遅刻をとり返すかのように、いつもの倍は仕事に精を出せばいいのに、ただどんよりしてるだけ。気持ちの悪い生き物だ。

 

ある日、後輩が劇場公演に遅刻をしてきた。僕は遅刻する側の人間だから、他人の遅刻には寛容だ。なんとも思わない。なんなら人の遅刻でも気持ちが分かりすぎてちょっと心が痛くなる。

その後輩は謝りながら急いで走ってきたのに、いきなりピタッと足を止めた。「どうした? はよ行かんと!」と声をかけると「うわぁ……最悪です……力み過ぎてたった今うんこを漏らしてしまいました……しかも……まだ出てる最中です……」。

悲惨を通り越して、その場にいた人達から爆笑が起きた。馬糞を鼻に直で塗られたかのような臭いが辺りに充満する。「くっさ!」と更に一同爆笑。だから僕は芸人が大好きだ。芸人はどんなに辛いことがあっても笑いにしてくれるし、笑ってくれる。裏で散々笑われてた後輩は、数分後に舞台で人を笑かしていた。

こんなことが会社や学校であってはたまったもんじゃない。僕ならその足で他都道府県へと飛んでそこの土地でひっそりと永住をする。二度と地元や職場に戻らない。

 

かくいう僕も遅刻での失敗はたくさんある。

5年ほど前にショッピングモールでの営業があった。そういった類いのお仕事は大体僕ら若手芸人2、3組で行かせてもらうことが多いのだが、そのときはポスターに書かれた「△△に見取り図がやってくる!」という謳い文句の通り、見取り図のみのステージだった。とても攻めたショッピングモールさんだ。

11:00に漫才スタート、そして11:15から11:30まではトークコーナーという30分で構成されたイベント。そんなスケジュールなのに、僕が家で起床したのは11:00だった。本来なら漫才が始まる時間。パッと見るとスマホの電源は切れたまま。充電するのを忘れて寝落ちしてしまったという、よくある遅刻の理由第3位(盛山調べ)のケースだった。すぐさま携帯の電源を入れてマネージャーに電話をすると、「なんでもええからとにかく急いで行け」と言われた。衣装とカバンを持ち、慌ててタクシーをつかまえて現場へと向かった。

運転手さんに急いでいる旨を伝えてパッとルームミラーに映る自分を見ると、とんでもなく寝起き顔で無精ヒゲが生えている状態だった。こんな姿で人前に立ってはいけないと、カバンからT字カミソリを取り出し、ルームミラーを利用してシェービングクリームも何もない素の状態でザクザク剃っていった。運転手さんが頭のおかしい奴を乗せてしまったという表情でチラチラ見ていたのを覚えている。そして裸のカミソリで剃るなんてめちゃくちゃ痛いだろうに、不思議と痛みはなかった。焦りはそんなことを無効化するぐらいの効果があると知った。

11:30頃にショッピングモールに着き、開始時間を遅らせてもらったイベント会場に行くと、すぐさまスタッフさんに「このままステージへ!」と言われ、そのまま流れるように舞台に立った。そしてイベントが大幅に遅れたことをまず謝罪しようとマイクに近づいたときに、客席から悲鳴があがった。

一瞬、ジャスティン・ビーバーが「見取り図オモロイ」って呟いてくれたっけ? と思ったがそんな訳もなく。相方の方を見ると、悲鳴こそはあげてないがお客さんと同じでギョッとした顔をしていた。やたらと首部分を見ていたので触ってみたらすごい量の血がベットリと手についた。誰よりも自分が一番悲鳴をあげていた。どこかで辻斬りにでもあったんかと。どうやら行きのタクシー内での裸ヒゲ剃りにより、肌を切り散らかしてたみたいだ。

そのままハケて応急処置をし、漫才とトークを続けるがウケるわけもなく、30分間スベり続けることになった。そりゃそうだ。イベントが遅れたうえに、出てきた芸人が血だらけだったら笑えるわけがない。うんこと血ではこんなにも笑いに差があるのかと勉強になった日だ。

 

お客様、関係者各位、相方には本当に迷惑をかけてしまい、今でも反省しています。申し訳ありません。この事件を境に、僕は遅刻の98%減に成功している。100%ではないところがカスらしさ。ちなみにその日以来、某ショッピングモールさん系列の営業は、一切なくなりました。遅刻は信頼も仕事も失います。あと、血液も。

 

遅刻。しばけるもんならしばきたい。

2025年盛山のいまがき

遅刻癖なぁ。ほんまに少しマシになったくらいで、今もなおちょいちょいしてるで。そういや「ラヴィット!」の生放送1分前に到着することもあるよ。顔パンパンにして。

関連書籍

盛山晋太郎『しばけるもんならしばきたい』

見取り図・盛山晋太郎さんの初エッセイです。反町隆史に憧れ、モテたいと嘆き、M-1優勝を夢見て、タクシーの運転手と口喧嘩……。コンプレックスまみれ、でも誰よりもかっこつけな男・盛山晋太郎が、上京前夜から現在に至るまでの約5年間、休むことなく綴り続けた魂のエッセイ50篇を収録。彼の底の底までほじくり出した記録です。 【盛山晋太郎さんコメント】 人知れず幻冬舎さんで執筆させて頂いていた「エッセイ」がとうとう書籍化となります!約5年も連載させてもらっていたのに、未だに「エッセイ」とは何か分かっておりません。是非、盛山の「エッセイ」をお読みください。

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しばけるもんならしばきたい

見取り図・盛山晋太郎さんのエッセイ『しばけるもんならしばきたい』の試し読みをお届けします。

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盛山晋太郎 芸人

1986年1月9日生まれ、大阪府出身。2007年にNSC大阪校29期の同期だったリリーと「見取り図」を結成。2018年、MBS『オールザッツ漫才』優勝。同年から3年連続でM-1グランプリ決勝進出。2024年、KTV『第59回上方漫才大賞』奨励賞受賞。現在は冠番組の『見取り図の間取り図ミステリー』(読売テレビ)や『見取り図じゃん』(テレビ朝日)を始め、『ラヴィット!』(TBS・水曜レギュラー)、『1泊家族』(テレビ朝日)など多数の番組に出演中。

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