人気お笑い芸人の見取り図・盛山晋太郎さんが初めてのエッセイ『しばけるもんならしばきたい』を刊行! 2020年から約5年間つづったエッセイでは、日々テレビで活躍する盛山さんが、どんなことを考え、どんな風に過ごしているのか、その一端を覗き見られる一冊になっています。また、書籍化に当たり、2025年の盛山さんが当時の自分を振り返って書いた「いまがき」も収録。さらにさらに、約8割のエッセイには、盛山さんによる挿絵もついています。
そんなエッセイ集から、試し読みをお届け。今回は、愛してやまないタバコについて書かれたエッセイです。盛山さんのちょっと煙たいタバコ愛をお楽しみください。
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タバコ
(小説幻冬2020年9月号掲載)
僕はとにかくタバコを吸う。どうしてもタバコだけはやめられない。
「あなたの主食は何ですか?」と聞かれたら「タバコ」と答えてもいいぐらい吸っている。人間の呼吸に必要なのはもちろん酸素だが、思い返せば酸素よりニコチンで呼吸をした日もあったと思う。「無人島に3つだけ何かを持っていけるなら何を持っていく?」というよくある質問には、食い気味で「3カートン!」と答える。火は自力でなんとかする。
タバコを吸うとき、僕は年甲斐もなく、調子に乗った高校生ぐらい輪っかを作る。イルカよりもでんじろう先生よりも、綺麗な輪っかを作る。完全な癖だ。輪っかを作って、やっと吸った気になる。
たくさん量を吸うヘビースモーカーでもあり、立て続けに吸うチェーンスモーカーでもあるが、僕は更にひとつ上の「ラストスモーカー」だ。「ラストスモーカー」とは、禁煙運動が激化している中、地球上最後の喫煙者になるまで吸う人のことだ。もちろん、僕が勝手にそう名乗っている。
タバコが煙たがられているというのは十分承知の上で、タバコについて今回は書かせてもらう。時代の流れにベタ踏みで大逆走している愛煙家の戯ざれ言ごとだと思ってお読みいただきたい。
自分の喫煙生活を振り返ってみた。どの場面で集中的に吸ってしまうのか。
まず朝。僕は起きると冷蔵庫にストックしてある缶コーヒーを取ってトイレに入り、象かと勘違いされる量の大便をしながら、缶を片手にタバコを吸う。
コーヒーとタバコのセットは口臭がウンコと同じと言われるが、僕の場合は上からと下からで挟み込むようにウンコを出すのがモーニングルーティーン。YouTube にアップしようもんなら、チャンネルを光の速さでBANされる汚いルーティーンだ。
しかもトイレ内でタバコは5本吸う。朝イチはどうしても吸い溜めをしたくなる。せまい個室で5本も立て続けに吸うもんだから、ドアを開けたらすごい量の煙がトイレから放出される。煙に巻かれて個室から出てくる僕は、まるで完成したばかりのクローン人間のようだ。
そこから10分以内で出勤の準備をして(短っ! 僕の朝の支度の85%はウンコで占められている)、その間にタバコをまた5本ほど吸って家を出る。
朝だけで10本。ヘビースモーカーの人は多分驚かない本数だ。
僕の喫煙生活の中で一番集中的に吸ったのは、間違いなく2018年M-1グランプリ決勝の日。
朝から吐きたくなるほどの緊張を感じていた。緊張というものは無意識にタバコを口に咥くわえさせるもの。とにかく吸いに吸った。行きの新幹線、新大阪から東京まで約2時間半のうち、2時間は喫煙ルームにいた。同じ車両の喫煙ルームにずっといると不審がられると思って、吸っては次の車両へ移動する……を繰り返し、ワゴン販売の女性よりも新幹線内を行き来したと思う。どこかに爆弾を仕掛けている犯人だと勘違いされてもおかしくない行動だ。
結果、18時半頃にM-1決勝の生放送がスタートしたときには合計4箱半も吸っていた。多分、漫才中の僕はターミネーターのように体から煙が出ていたと思う。それが観覧のお客様や審査員の皆さんの気を逸らせてしまい、9位というなんともいえない結果になったはずだ。そう信じたい。

タバコはご存じの通りデメリットだらけ。健康面、金銭面、対人関係、周りの方のストレス、臭い、その他諸々。
社会での喫煙者皆殺し運動(喫煙者目線なのでご了承ください)がエスカレートしているこのご時世、タバコを吸うってだけで軽い犯罪者みたいな目で見られることもしばしば。困ったもんだ。
4月からは、ほとんどの飲食店で喫煙が不可になった。喫煙者には酒飲みも多い。デニムとコンバースぐらい相性の良い、酒とタバコのセットが無くなるとは。パチンコ店も全面禁煙になった。20代の頃、スロットで7を揃えたときにする一服はなんとも至福の時間だった。路上喫煙はもちろんダメ。かといって自宅も賃貸だと壁が汚れてしまうから吸いづらい。マンションだとベランダで吸って近隣トラブルになったという話もよく聞く。どれもこれも、受動喫煙のことを考えると仕方がない。
しかも、これでも日本は先進国の中ではタバコに関する規制が緩い方だという。
そう。タバコ終焉の足音が聞こえてきた気がする。メリーさんのようにひたひたと着実に近づいてきている。
それでも僕はラストスモーカー。地球上最後のひとりになるまでタバコを吸い続ける。
よく「1箱1万円になっても吸うの?」と意地悪なことを聞かれるが、そんなのは愚問も愚問。値段で吸うか吸わないかを決めるのなら、とっくにもう止めている。毎度、鬼の首をとったように聞いてくる人がいるが、こちとら誇りとプライドを持って、自負心と自尊心を育みながら喫煙してるんだ。困らせたいのか揚げ足をとりたいのか知らないけれど、もうそんなことは聞かないでほしい。その質問に対する返事は決まっている。
「吸うわけないやろ!! 1万あったらめちゃくちゃええ昼飯食いにいくわ! それかコストコで大きいプルコギ買うわ! それか馬単1点勝負するわ! それか自宅用のウォーターサーバー契約するわ!」
ただ、8千円になるまでは吸ってやろうと思っている。モラルとマナーを守ってこれからも愛煙していきたい。愛煙家たちが集まる喫煙所での所謂「タバコミュニケーション」も本当に大事だ。普段話せない人とも話せるし。
世界の偉い人たち。地球人全員を禁煙させたいのなら、エベレストの山頂にだけ喫煙所を作ってくれ。
これは割と本気のお願いなんですが、いつか自分が死んだときは棺桶の僕の周りにユリや菊の花ではなく、是非とも大量のタバコの葉を敷き詰めてください。鼻には綿玉ではなく、フィルターを詰めてください。棺桶自体を、大きい1本のタバコにして、火葬場の炉に入れてくれると幸いです。愛煙家としてこんな嬉しい旅立ちはないです。
そのときは、斎場の煙突からすごく綺麗な輪っかを出しますので。
美味しいタバコ。しばけるもんならしばきたい。
2025年盛山のいまがき
自分でもビックリしてる。絶対禁煙しないと言ってたのに、俺は今1%だけ「禁煙」「脱タバコ」が頭をよぎっているし、電子タバコも2つ持ち歩いている。時代には逆らえない。
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