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しばけるもんならしばきたい

2025.12.05 公開 ポスト

子供のときだけじゃない。かっこつけは大人になった今も盛山晋太郎(芸人)

人気お笑い芸人の見取り図・盛山晋太郎さんが初めてのエッセイ『しばけるもんならしばきたい』を刊行! 2020年から約5年間つづったエッセイでは、日々テレビで活躍する盛山さんが、どんなことを考え、どんな風に過ごしているのか、その一端を覗き見られる一冊になっています。また、書籍化に当たり、2025年の盛山さんが当時の自分を振り返って書いた「いまがき」も収録。さらにさらに、約8割のエッセイには、盛山さんによる挿絵もついています。

そんなエッセイ集から、試し読みをお届け。人間だれしもかっこつけるものではありますが。盛山さんのかっこつけはレベルが違いました!

*   *   *

かっこつけ

(小説幻冬2020年6月号掲載)

(イラスト/盛山晋太郎)

今日も夜は冷える。満月もどこか寒そうだ。帰宅してソファーに座り、ふと考えた。

 

我々男はやはり、“かっこいい”に憧れる生き物だと改めて思う。憧れるからこそ、何かと「かっこつけ」てしまう。しかし、かっこをつけるというのは、一歩間違えば“鬼ダサい”になるというのは皆さんもご存じだろう。

小学生の頃、運動会のメイン競技・クラス対抗リレーで裸足になって走っていた奴も、給食でたまにしか出されない大好物のプリンを「俺いらんわー」と言ってた奴も、もれなくかっこつけていたのだ。

かくいう僕も、周りの男子と同じく当たり前のように“かっこいい”を探求する子供だった。

 

当時、少年盛山には夢中になって観ていたドラマがあった。「ビーチボーイズ」だ。

ドラマといえばラブロマンスを描くのが当たり前だったあの頃、男の友情を描いたことで月9に一石を投じた作品。なんせ反町隆史さん演じる広海がかっこいい。かっこいい果汁100%の男。ルックスはもちろん、適当な性格ながら太い信念があり、仲間を想い、将来への葛藤や夢を抱きつつ成長していく姿もかっこいい。

とにかく男心をくすぐりまくる作品で、僕が反町隆史さんに憧れるキッカケになったドラマだ。

少年はとにかく憧れの人に近づきたい一心だった。雑誌に載っていた反町隆史さんの一番かっこいいページを切り抜いた。そして、いつも親に連れて行かれていたパンチパーマのおっさんとパンチパーマのおばはん夫婦が二人で営んでいる、いかにもな町の理容室に行った。もちろん反町さんのような、さらさらセンター分けになるためだ。

しかし、いきなりパンチパーマに(どちらかは覚えていない)、モミアゲにバリカンを入れられ、一瞬でテクノカットになった。仕上がりは完全におすぎさんだった。家に帰ってひたすらに泣きじゃくり、虹がかかってもおかしくない量の涙を流した。

かっこをつけにいったのが大失敗した典型的なパターン。まさに“鬼ダサい”になった。「さぁ今から憧れの反町隆史にしてもらおう!」と席について、初手がバリカンだったので、イメチェン失敗としては、世界最速だったと思う。

もしかしたら間違っておすぎさんの切り抜きを持っていってたのかもしれません。いやそんな奴おるか!

その日から、何年も通っていたパンチパーマ夫婦の理容室へは一切行かなくなった。少し前に実家に帰ったときにあの店の前を通り、ご主人がイスに座りながら変わらず仕事をしていたのを外から見かけて、何故だか嬉しくなったのはまた別の話。

 

中学、高校になると“かっこつけ”はより激化していく。いわゆる中二病。厨二病。どちらの表記が正しいかは知らない。

オリジナルのポエムを書き出す奴が出現する。休み時間に教室の隅で、イヤホンをしたまま机に突っ伏し、意味も分からない洋楽を聴きながら小刻みに揺れる奴も出てくる。終いには、使うことなど絶対にないメリケンサックを、常にポケットに入れている奴も生まれてしまう。

もちろん僕自身も存分に“中二”をした。ノートの名前の欄を無駄に英語表記にしたり、机にやったこともないスノボの雑誌をさりげなく置いたり、大好きなのにJ-POPを批判するようなことを言ったり。中二病ど真ん中を意気揚々と走っていた。

ある日、友達のNが一番乗りで童貞を捨てた。次の日Nは、僕を含む男8人ほどを集めて、Nを囲むように座らせた。そして、初体験のときの様子を僕らに語った。まるで戦地から帰ってきた語り部かのように。僕ら童貞達は興奮状態でその話を聞いていた。あのとき、オタフクみたいな顔のNがすごくかっこよく映り、『ドラゴンボール』の悟空よりもヒーローに見えた。

 

それとほぼ同時期に、菅野美穂さんがヌード写真集を発売する、という吉報が入った。僕ら男子グループは大騒ぎ。

「あの菅野美穂が写真集を出す! しかもフルヌード!」

瞬く間に男子の間でホットなトピックスとなった。

しかし当時、5千円近くもするヌード写真集はもちろん中学生に買えるわけがなかった。僕はこれをNの次にヒーローになれるチャンスだと考えた。

そして僕はヒーローになるために行動に出た。母親の財布からお金を盗み(後にバレて、おとんに猪木も引くレベルのビンタを3発喰らって、気を失う)、目撃されると恥ずかしいからベタに隣町の本屋まで写真集を買いに行き、その日の夜は部屋に籠ってひと通り楽しみ、次の日、リビングに置いてあったイトーヨーカドーの袋に包んで学校に持っていった。

そして休み時間に仲間達を集め、それをカバンからチラッと披露した。予想通りに全員歓喜。称賛の嵐。僕はグループの中で望み通りヒーローになれた。僕の勇敢な行動により、僕を中心に自然と輪ができたのだ! その中にはあのNもいる! 小さい輪だが、なぜかウェーブが起きていた記憶がある!

「一日貸してくれ!」

「俺も! 頼む!」

という全員からの懇願にも、

「おう。ええよええよ。一日経ったら次の奴に回せよ! 全員回ったら返してくれればええから!」

とすこぶるかっこつけていた。本当は手放したくないのに。

仲間達にひと通り回り、一週間ぐらいで手元に返ってきた写真集は、浜辺に打ち上げられてたんかと思うぐらいパリパリになっていた。あとなんか臭かった。思春期真っ只中の中学生男子達からしたら、そうせざるを得ないぐらいの品物だったのだ。

菅野美穂さん、ほんの少しだけでも僕をあのときヒーローにしてくれてありがとうございました。今でもイグアナを見たら貴あなた方を思い出します。

その後、仲間内の秘密だったはずなのに「盛山が菅野美穂のヌード写真集を買った」と女子にまで広まった。1ウィークヒーローになれたのは今でも誇りだが、卒業するまで女の子達から軽蔑されて過ごした。

子供のときのことばかり書いていたら、大人になった今は全然かっこつけてないみたいやんけと思われるかもしれないが、無論かっこつけまくっている。なんなら中二のときよりもかっこつけていると言ってもいい。

 

最近もかっこつけて大恥をかいたことがある。

今、僕はパーソナルジムに通っているのだが(もうかっこつけてるやん)、その日もいつもと変わらず用意されたメニューに精を出していた。トレーナーさんに横に付いてもらいながらバーベルを担ぎスクワットをしていると、隣に、僕と全く同じトレーニングを始めようとしている女性がきた。

向かいにある全面鏡を利用してチラッと見ると――そこには、ヘソ出しのスポーツウェアにピタピタのトレーニングタイツ、身長は170cm程でLUXのCMぐらい綺麗な黒髪ロングヘアー、そして顔はローラさんソックリという、いかにも意識が高い、いわゆる「めちゃくちゃええ女」が。

しかもその女性は慣れているのか、男の僕よりもバーベルの重りを一つ多くつけて、淡々とスクワットをこなしていたのだ!

彼女より重りが少ない僕は「これは恥ずかしい! 男が廃すたる!」と焦り、トレーナーさんに小声で「隣の方より重りを一つ多くしてください」とお願いをした。この時点ですごくダサい。だけど女性の前でこそかっこつけてなんぼだ。

ローラさん(似)は、トレーニングをいきなり中断し動き出した僕をチラチラと気にしているご様子。

そしてローラさん(似)よりもバーベルが重い状態にしてもらい、さぁ軽々とスクワットをしてやろう、隣の巨漢長髪漢はすごいんだぞ! と両膝を曲げたときにすぐに分かった。

「これ、絶対上がらんやつや……」

普段のトレーニングでは経験したことのない重さ。そもそも筋トレなんか人生でほぼしたことのない見掛け倒しのデブの僕。ちょっと痩せたいだけで入会したパーソナルジム3回目の男に、そのバーベルは上げられるワケがなかった。

僕はお尻を突き出した低い体勢のまま、どうしていいか分からずジッと耐えていた。トレーナーさんに視線をやると、僕がワザと自分に負荷をかけて追い込んでいると思っているのか、なぜかウンウンと頷いている。ローラさん(似)は、スクワットをしながら、「??」の表情。

「やばい、どないしよ」

ここから前代未聞の恥をかいた。

 

お尻を突き出している低い体勢が肛門を刺激したのか「バフゥ!!!!!」ととんでもない屁をこいてしまった。しかも年に2、3回くらいしか出ない爆音の屁。パワーボムを喰らったかのような破裂音。こんな『浦安鉄筋家族』みたいな結末があるだろうか。

そこから更に信じられないのが、恥ずかしさの余り早くその場から逃げ出したかった僕は、上がらなかったはずのバーベルをいとも簡単に持ち上げた。そして、何事もなかったかのようにロッカーに逃げたのだ。バーベルを上げられたのには多分、屁の勢いも手伝ったと思う。

火事場のクソ力のクソを、身をもって学んだ。

顔も見てないから分からないけど、ローラさん(似)はもしかしたら、すごく特殊なセクハラだと思ったかもしれない。

それから1ヶ月分のジムの予約をキャンセルした。あのローラさん似のお姉さんに会わないように。

 

これからも僕は「かっこつけ」を続けていく人生なんだと思う。

そしてこの記事で一番かっこつけてるのは、冒頭の「今日も夜は冷える。満月もどこか寒そうだ」という書き出し部分。それっぽいオシャレな入りにする、というかっこつけ方。そこでやめずにここまで読んでくださり、ありがとうございます。満月が寒そうに見えたことなど一度もない。

 

かっこつける自分。しばけるもんならしばきたい。

2025年盛山のいまがき

今も俺はかっこつけてるよ。ジム3つ入会してるしな。このときの俺が、数年後反町隆史さんとドラマで共演したって聞いたらビックリするやろな。生の反町さん、生町さんはとてもとてもナイスガイでした。

関連書籍

盛山晋太郎『しばけるもんならしばきたい』

見取り図・盛山晋太郎さんの初エッセイです。反町隆史に憧れ、モテたいと嘆き、M-1優勝を夢見て、タクシーの運転手と口喧嘩……。コンプレックスまみれ、でも誰よりもかっこつけな男・盛山晋太郎が、上京前夜から現在に至るまでの約5年間、休むことなく綴り続けた魂のエッセイ50篇を収録。彼の底の底までほじくり出した記録です。 【盛山晋太郎さんコメント】 人知れず幻冬舎さんで執筆させて頂いていた「エッセイ」がとうとう書籍化となります!約5年も連載させてもらっていたのに、未だに「エッセイ」とは何か分かっておりません。是非、盛山の「エッセイ」をお読みください。

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しばけるもんならしばきたい

見取り図・盛山晋太郎さんのエッセイ『しばけるもんならしばきたい』の試し読みをお届けします。

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盛山晋太郎 芸人

1986年1月9日生まれ、大阪府出身。2007年にNSC大阪校29期の同期だったリリーと「見取り図」を結成。2018年、MBS『オールザッツ漫才』優勝。同年から3年連続でM-1グランプリ決勝進出。2024年、KTV『第59回上方漫才大賞』奨励賞受賞。現在は冠番組の『見取り図の間取り図ミステリー』(読売テレビ)や『見取り図じゃん』(テレビ朝日)を始め、『ラヴィット!』(TBS・水曜レギュラー)、『1泊家族』(テレビ朝日)など多数の番組に出演中。

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