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真説 豊臣兄弟とその一族

2025.11.27 公開 ポスト

【来年の大河ドラマで大注目の“あの一族”に迫る】秀吉神話を疑え! その知られざる実像とは呉座勇一(国際日本文化研究センター准教授)

なぜ豊臣秀吉は、百姓から天下人へと上り詰めることができたのか? その栄光の裏で、豊臣一族はどのような謎と葛藤を抱えていたのか? 
歴史学者・呉座勇一さんが、最新研究や史料をもとに、秀吉や弟・秀長、正室ねねをはじめとする豊臣一族の実像と神話の裏側を鋭く読み解いた、『真説 豊臣兄弟とその一族』。本書より、一部を抜粋してお届けします。初回は、書籍の「はじめに」を全文公開! 

*   *   *

「秀吉神話」の先へ

日本の歴史教育を受けた者で、豊臣秀吉の名を知らない者はいないだろう。かつて秀吉は、日本史上の偉人の中で最も人気がある人物であった。現在では織田信長の方が人気であるため、秀吉は「革命児」信長の事業と政策を引き継いだだけという印象が強いかもしれない。

だが、たとえば信長の看板政策である「楽市楽座」(新規参入を拒む座という同業者組合=カルテルを解体し、誰でも自由に商売することを認める規制緩和策)にしても信長段階では不徹底であり、秀吉によって全面的に展開された。近年の歴史学界では、信長はまだ古い時代を引きずった存在であり、秀吉から新時代が始まるという理解が有力である。

ともあれ、今でも秀吉の知名度は抜群であろう。だが意外にも、秀吉の実像は明らかになっていない。

一般に秀吉は、貧しい百姓の出身であるとされるが、学界では異論もある。秀吉の出自に関する信頼できる史料は乏しく、秀吉がどのような身分階層に生まれたのか、確定できないのだ。史料が乏しいのは、秀吉の身分が低いことの反映とも考えられるが、豊臣家が二代で滅んだために史料が残らなかったとも解される。

秀吉の実像を描き出す上で障害となるのは、史料の少なさだけではない。厳しい身分制度に縛られた江戸時代の民衆は、百姓から天下人に上り詰めた秀吉を英雄視し、秀吉を主人公とした様々な逸話、物語を創作した。

私たちが秀吉に抱く、「明るく陽気で人懐っこく、人の心をつかむのが巧み」というイメージは、基本的に江戸時代の「秀吉伝説」「秀吉神話」に依拠しており、秀吉の実像とはかけ離れている。右のような美化された秀吉像と距離をとり、秀吉の真の姿を考察する必要がある。

秀吉本人のみならず、秀吉の一族に関しても謎が多い。秀吉の弟で、その右腕として活躍した秀長ですら、秀吉と父親が同じかどうかについて議論が行われている。秀吉の正室である「ねね」(高台院)の出自についても、不明な点が少なくない。「豊臣」という一族は有名である割に、分からないことだらけなのである。

けれども最近、限られた史料を駆使して、秀吉やその一族の出自を絞り込み、また江戸時代の脚色を排して秀吉の実像に迫る研究が増えてきた。

本書では、それらの最新の研究成果を紹介しつつ、「知られざる一族」である豊臣家について可能な限り詳しく解明したい。この作業は秀吉をはじめとする豊臣一族に対する幻想を打ち崩し、彼らの「裏の顔」を暴くことになるかもしれない。戦国ファンの中には、夢を壊されたと怒る人もいるだろう。

だが虚像を打破して初めて、天下を取った豊臣家がなぜあっけなく滅びてしまったかという問いに答えることができるのだ。豊臣家の成功と没落からは、組織が長きにわたり繁栄するにはどうしたら良いかという、現代にも通じる教訓を得られる。真に歴史を学び直したいと考えているならば、秀吉の達成と限界を追体験する旅に、ぜひお付き合いいただきたい。

関連書籍

呉座勇一『真説 豊臣兄弟とその一族』

農民から大出世を遂げた天下人として知られる豊臣秀吉。 しかし、彼とその一族の実像は、驚くほど謎に満ちている。 本書は、貧しい百姓出身説の真偽、人たらし神話が生まれた本当の理由、右腕として活躍した秀長の裏の顔、ねねと淀殿の不仲説、秀次事件に隠された真実など、豊臣家にまつわる定説を、最新研究をもとに徹底検証。 さらには、朝鮮出兵の誤算、大坂の陣の舞台裏などの歴史的事件の真相にも迫る。 豊臣家の知られざる姿を暴きつつ、「なぜ天下を極めた一族が、たった二代で滅んだのか?」という問いに答える1冊。

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真説 豊臣兄弟とその一族

通説を打破!
たった二代で滅びた栄華と衰退の真相

農民から大出世を遂げた天下人として知られる豊臣秀吉。しかし、彼とその一族の実像は、驚くほど謎に満ちている。

本書は、貧しい百姓出身説の真偽、人たらし神話が生まれた本当の理由、右腕として活躍した秀長の裏の顔、ねねと淀殿の不仲説、秀次事件に隠された真実など、豊臣家にまつわる定説を、最新研究をもとに徹底検証。さらには、朝鮮出兵の誤算、大坂の陣の舞台裏などの歴史的事件の真相にも迫る。

豊臣家の知られざる姿を暴きつつ、「なぜ天下を極めた一族が、たった二代で滅んだのか?」という問いに答える1冊。

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呉座勇一 国際日本文化研究センター准教授

一九八〇年、東京都生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。東京大学大学院人文社会系研究科研究員、東京大学大学院総合文化研究科学術研究員などを経て現職。日本中世史専攻。『日本中世の領主一揆』(思文閣出版)、『一揆の原理』(ちくま学芸文庫)、『応仁の乱』(中公新書)、『頼朝と義時』(講談社現代新書)、『戦国武将、虚像と実像』(角川新書)、『動乱の日本戦国史』(朝日新書)など著書多数。

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