本日11月19日、Z李さんの新作『君が面会に来たあとで』が発売されました。
実はZ李さんは、星新一さんの大ファン。
子どもの頃に初めて星新一作品を読んだときの衝撃を胸に、アンダーグラウンドな世界を、恋愛・ミステリー・SFなど多彩な角度から描きました。
90万人を超えるフォロワーを持つZ李さん。Xでも度々話題となるワードセンスと観察眼が存分に発揮された珠玉のショートショート集です。

【収録内容】
◎歌舞伎町・半地下の裏カジノは、要人たちも通い詰める“闇の社交場”(『東九歌舞伎町タワーアンダーグラウンド』)
◎恐怖の“勘繰り”地獄。覚醒剤中毒者の頭の中(『日曜日ダルク十六時』)
◎年間2000件の捜索願。歌舞伎町を取り巻く闇の正体とは(『チャイエスの客が消えた』)
◎新宿の路地裏のペットショップ。裏口では“人間”を売っている?(『ペットショップの裏口』)
◎闇金で借りた金を“競馬”で返済しようとしたら……(『ゼウスサンダーが駆けた日』)
◎大麻リキッドを売りまくって、人生終わるかと思った(『手押し魔人BOO』)
発売を記念して、収録作品を特別に公開いたします!
* * *
立ちんぼの落とし物
「ハイジア」で梅毒の無料検査を受けてきた。なんの自覚症状もなかったけど、周りでそういう話を聞くことがあまりにも増えてきたから。あとは、鼻が腐って取れてしまった人の写真をGoogleで見たから。
今と昔で違うんだろうけど。さすがに、鼻取れたらいやだなあと思って、検査に行ってきた。
結果は陰性。生だけはやらないようにしてたし、0.01ミリだとしても、ゴムってやっぱすごいんだなって思った。
いつものガードレールに腰をかける。
まだ夕方、空は明るい。
この時間から客待ちしている子は、いつもだいたい同じで、服装も同じ。みんなみんな、自分のことにお金を使えない。私はここで友達を作りたくないし、話したことはないから詳しくは分からないけど、たぶんみんな“ホスト”。
でも、この子たちと私でははっきり違うところがある。
それは絆。
私の担当は「もしも危ないことがあったら、すぐに助けにいくね」と心配してくれて、お守りを渡してくれてる。それが、このAirTagなの。
彼のアイフォンから、いつでも私の居場所が分かる。前にあそこのレンタルルームで女の子が変態に連れ去られたことがあって、その日に買ってくれたの。
私が大久保公園の周辺に着くと、すぐにLINEもくれる。「今日も頑張ってるね。無理しないでね」って。今日はまだこないけど、寝てるのかな。
5本取れた日は、だいたい5万くらい稼げる。50万円貯まるごとに、彼に会える。
もっと自分に自信をもってほしいのに、いつも、「俺なんて、どうせ」。そんなネガティブなことばかり言う彼だから、私がナンバーに入れ続けてあげないと、彼のメンタルは持たないんだ。
それに、バンドをやっていた時に、ドラムの人に騙されて結構大きめの借金も背負ってしまったから。
「いつか一緒に住みたいね。お金使わせてばかりでごめんね」
会うたびに彼はそう言う。
「俺から離れないでね。いなくならないでね。AirTagを持たせているのは、心配だからもあるけど、いつでも繋がっていたいからだよ。こんなこと、お前にしかできないよ」
尊い。頑張れる。
ホントの意味で、彼には私しかいないし、私にも彼しかいないから。だから頑張れる。
……ウザ。割引交渉客だ。5千円で本番ってバカかよ。うちがポチャだからってなめてんの? 公園分かってないヤツがおおすぎ。
でも私はレンタルルームへと歩いた。なぜなら、まだ外は明るいから。そんなに人がいないから。
「洗ったら、無臭になる仮性包茎と、洗っても臭いままの仮性包茎があるのは、なあぜなあぜ?」
今日は臭いほう。サイアク。
でも私はそれをほおばった。頑張って舐めた。回転、回転。だって、5千円なら早く終わらせないといけないから。だから、臭いけど舐めた。大きくしたら、ゴムをはめて、自分から入れた。
大きい声を出した。そっちのほうが悦ぶのを知っているから。すぐだった。
もうちょっとちょうだいよ、と言ったけど5千円以上はくれなかった。
ガードレールに戻る。
暇つぶしにニュースサイトを見る。
彼がいた。
『売掛金回収のため、女性客をGPSアプリやAirTagで監視し、大久保公園で立ちんぼをさせ、売春を強要したとして、新宿区歌舞伎町のホストクラブの従業員男性『如月永遠丸』こと高田一平容疑者(27)を新宿署は逮捕した。』
そう書かれていた。
「ウチだけじゃないんだ。みんなのこと見てたんだ」
彼が捕まったことより、そっちのほうが悲しかった。
絆なんてなかった。誰にでもやってた。
いろんな感情が私の中に渦巻いて、AirTagを投げた。地面に落ちたそれは、「なか卯」のほうに転がっていった。
もう終わり。サイアクだ。裏切られた。
それなのに私が次のおじさんとレンタルルームへと歩いているのは、なあぜなあぜ?
君が面会に来たあとで

Z李、初のショートショート連載。立ちんぼから裏スロ店員、ホームレスにキャバ嬢ホスト、公務員からヤクザ、客引きのナイジェリア人からゴミ置き場から飛び出したネズミまで……。繁華街で蠢く人々の日常を多彩なタッチで描く、東京拘置所差し入れ本ランキング上位確定の暇つぶし短編集、高設定イベント開催中。











