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彼方からの手紙

2025.11.28 公開 ポスト

清水スコープと嘘清水ミチコ/光浦靖子

弔辞って縁起の悪いことしないでくださいよ。でも、いけない、罰当たりだ、と思いながら、弔辞を読んでる自分を想像してしまうのは、少しわかります。私だったら……いい思い出をあえて平坦な簡単で短い日本語でそっけなくした方が、より参列者が……いかん!

 

清水さんは公私共に多くの人から好かれています。それは多くの人からの共感、言いたかった感情を言葉にしてくれたスッキリ感、などなどあると思うんです。仕事の面ではね。でも、私生活の面と言いますか、私に関してと言いますか、正直ズレています。

私は私の大事にしている花瓶をそっけなくホイと、いとも簡単に手放してはいません。「清水さんにはお世話になってるし、、、お世話になってるから、、、お世話になってるでしょうが!! のべ500人が「カナダに遊びに行きたい」と言いながら、本当にカナダに遊びに来てくれたのは清水さんだけだよ。アナタならできるから。手放せるから。できる! できる! できる! できる!」こうやって、花瓶を手放したのです。そして、無造作に新聞紙に包んだのではありません。カナダからの道中、トランク一つ一つを赤子のように扱ってくれる世界一丁寧な日本の航空会社とはいえ、割れてしまったら元も子もない、と、自分なりに丈夫く包んだつもりでした。

いやいや「わかったよ。返すよ」とは言わないでください。私も清水さんのお手紙を読むまですっかり忘れていたものですから。

私が言いたいのはですね、清水さんは物事を良いように解釈する方だな、と。私への考察は間違っていましたが、清水さん解釈の私は、実際の私より良い人になっていました。だからかぁ。と思ったのでした。

清水さんはこんな私をいつも褒めてくれます。びっくりするような角度からちょいちょい。清水さんが嘘をつく人でないと知っています。おべっかを使う人でもありません。だから「え? 自分でも気づかなかった。私ってそんなに素敵な人だったんだ」と思って気持ちよくなるのです。そこも清水さんが人から好かれる理由の一つではないのか、と発見したのです。

いやいや、「だったら接し方変えるよ」とは言わないでください。このままでいてください。清水スコープは素晴らしいです。ポジティブな面しか見ない、なんならポジティブな面を捏造している。万人がこれを持てたら、世の中は楽しくなるのでは、と思ったのです。

私の姪っ子が小学生だった頃、姪っ子から注意された事があります。「靖子の正直なところはいいと思う。でも、ちょっとだけ正直すぎるというか・・・もう少し抑えたら、靖子がもっと良くなると私は思ったりして……」と、小学生が言葉を選びながら。私は清水さんをディスる気は全くないとわかってもらえてますか?

 

さて、そんなことより、すっかり寒くなりましたね。現在、私は日本に帰国中です。「何食べたい? 何が食べたかった?」この質問をよくされます。私に聞いてはいますが、答えは決まっています。和食です。お寿司とか、おそばとか、肉じゃがとか、きんぴらとか、そう言うとみんな喜びます。私はカナダでは自炊をしており、いつも和食です。日本食材屋もあるので、そこで買いだめして、ちびちび使い、本当にいつも和食です。パンは月に2、3度食べるくらいです。今は収入に見合った、お金を節約した生活をしているので、どこかに出かけるときはおにぎりを持ってゆきます。カフェでサンドイッチなど頼むと高いです。美味しいチキンサラダサンドは1400円くらいしました。ハレの日にしか食えねぇよ、と思いました。日本にいた頃よりパン食が減っています。私が帰国寸前、日本人の友人が手巻き寿司パーティーを開いてくれました。もちろん、刺身を売ってる店は少なく、そりゃ日本に比べたら質も劣りますが、その差はそれほど大きくありません。スーパーで売ってる美味しい刺身レベルは十分にあります。

カナダで毎日和食を食べていて、帰国し、正直、パンが、洋食が食べたいと思いました。でもそう答えるとがっかりした顔をされるので、「何食べたい?」と聞かれたら「和食に決まってらい! 馬鹿野郎。こちとら日本人だぞ。ケツの穴から手突っ込んで奥歯ガタガタ言わすぞ」と答えるようにしています。私も正直を減らし、嘘をつく、ということを学んでいるのです。

靖子の近況

いつものメンバーで清水さんにゴチになりました。

関連書籍

清水ミチコ『カニカマ人生論』

すぐに「気負け」して泣いてしまう少女の頃の笑えて切ない思い出。永六輔さん、タモリさんはじめたくさんの大切な人たちとの巡り逢い。自分の弱さやセコさにぶち当たりながらも、日常の些細な面白みを慈しみつつ、「若い頃よりクヨクヨしなくなった」と思えるようになるまでの様々な出来事。武道館を沸かせる国民の叔母(自称)の、自伝エッセイ。

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彼方からの手紙

清水ミチコさんと光浦靖子さんが月1回手紙を送りあうリレーエッセイ

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

光浦靖子

1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。テレビやラジオで活躍する一方、手芸作家、文筆家としても活動。著書に『『50歳になりまして』『お前より私のほうが繊細だぞ!』『傷なめクラブ』など多数。2021年8月よりカナダに留学。現在は、就労ビザを取得し、カナダで生活を続けている。(写真:山崎智世)

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