誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに、そんな「待つ時間」をテーマにして選曲&言葉を綴っていただきます。
君は常に誰かの「エピローグ」を纏っていた
午後二時を回った槍ヶ崎の交差点、静謐な冷気が立ち込めて、街路樹の葉脈までもが、スポットライトを浴びたオブジェのように硬質に煌めく
僕は今宵の喧騒を背後に、無彩色のフィルムを巻き戻すように、一台のタクシーに身を沈める
本当の行き先は此処じゃないどこかへと
行きずりの誰かにふと告げたアフォリズムこそ、街の本質を穿っていた
野暮な存在こそが自己を洗練された記号として陳列するが、完璧なフレームワークのどこかに、真の居場所ではないという空虚を抱えていて
バックシートの微かな軋みと革の匂い、微細な塵の粒子が混ざり合って、浮遊空間は外界の虚飾から逃れた、現代の修道院のよう
行き先は夜の終焉であり、再生の予感に満ちた未知の座標
そして昼の光はすべてを暴き、すべてを俗にする
夜は欲望と諦念が、洗練という名のヴェールで覆い隠されて
散る星は一瞬の熱狂、潔い美学、後悔の余地はない
ドライバーの横顔は、夜の帳に溶け込んで、贅沢な沈黙を、儀式として堪能する
暗黙の了解は、徹底した現在への肯定
タクシーに乗っている君は、眩しい照明の下で、誰かの期待に応えようとしていた君
早く君自身にさよならを告げて、タクシーを降りたら新しい朝の光を待つ
それだけをイメージして、汚れた手と手を重ね合わせて……

MON7A『おやすみTaxi』(2025年、MON7A)
渋谷で君を待つ間に

誰かを待つ時間、あなたはどんな風に過ごすでしょうか。
その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
この連載では、そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽を、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに毎回紹介していただきます。
- バックナンバー
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- 本当の行き先は此処じゃないどこかへと -...
- きっと君の胸の奥にはまだ、少しだけ熱が残...
- すべてが速度を求めるこの場所で - 藤井...
- タバコも酒も賭け事も友情も此処に置いて ...
- 君の指先が偶然に触れたとき - 原田知世...
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