

下町ホスト#43
天気予報は思い切り外れ、とんでもない快晴でパラパラ男のイベント扱いではない生誕祭の日を迎えた。
「シュンくん、あの人呼んでくださいよ」
携帯電話を開くとパラパラ男から一言だけメールが入っていて、うん、と一言だけ返信をした。
眼鏡ギャルは、あいつうぜーから行くかわかんないと何かを頬張りながらソファにデロンと寝転んでいる。
一通り頬張っていたものが、無くなったのか、急にはっきりとした口調に切り替わる。
「で?誰くんの?」
「んー、あの人かな?」
「へー」
そう言って、小さな錠剤を飲み込んで、今度はベッドへ向かい、すぐさまイビキをかいた。
私がゆっくりと支度を終えた頃に、眼鏡ギャルはベットから起き上がり、何処かへゆく準備を始める。
「なんであのスーツ着ないの?」
「いや、主役あいつじゃん」
「知らねーよ 正式なイベントじゃねーじゃん」
「わかったよ」
私はこっそり買った細身の黒スーツを脱いで、先日、新宿で買った光沢のある派手なスーツに着直した。
「いーじゃんいーじゃん」
眼鏡ギャルのテンションが一時的に上がる。
「ありがと、いってくるわ」
「うー」
姿はみえないが、化粧台の方から、適当な返事が聞こえた。
まだ恐ろしく慣れない光沢スーツを身に纏い、いつもよりちょっと下を向いて、電車を乗り継ぎ、あの町へゆく。
店の扉を開けると、パラパラ男がテンション高く出迎えた。
「さすがっすね、そのスーツ。それでこそ相棒っす」
「いや、なんかごめん」
「いーんすよ、盛り上げて下さい。よろしくお願いします。」
そういって深々とパラパラ男は私に頭を下げた。
胸の奥底が少し熱くなり、照れ隠しに、わかりやすく煙草に火をつけた。
「ところであの人に営業してくれました?」
「あ、まだだわ」
「なにしてんすか?早くして下さいよ」
「うん、ごめん」
ここ最近、チャリンとベルを鳴らす君は忙しいらしく、呼び出しの回数も減っていた。
思い切って電話をかけるが一向に出る気配はなく、一度、電話を切って、仕切り直す。
メールで今日の状況を長々と打っていると、君から電話がきた。
「ごめんごめん、夕飯作ってて、どうした?」
「忙しい時間にごめんね。今日、ギャル男の誕生日イベントなのよ。正式ではないんだけど、、」
「それで?」
「すこーしだけ来てもらえないかな?」
「うーん、、売掛でもいい?」
「売掛?」
「うん、今日現金あんまりなくて。それでも良かったらいいよ。」
「もちろんだよ。ありがとう。」
売掛という言葉が、ツンと心臓を突いたが、特に気にしないようにして、来店してくれることを店長とパラパラ男に告げた。
『秋刀魚』
絶対に明日の記憶のない人と口角上げて潰す風船
辛辣な君の噂を聞くたびに尖り始める僕の肉片
残尿のような涙をこぼしつつ英断のふりして腰を振る
綿飴を噛み切るように君はただ知らない人の名前を呼んだ
あんたらが勝手に置いた水槽で秋刀魚がさっき死んだらしいよ

歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。
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