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なぜ人は穴があると覗いてしまうのか

2025.10.13 公開 ポスト

「偶然をチャンスに変える人」がやっている "仕掛学"的・発想の磨き方松村真宏(大阪大学大学院経済学研究科教授)

「仕掛け」とは、人の行動を促したり、行動を変化させたりするために考案されたしくみのこと。こうしたしくみを体系的に捉え、学問として発展させたものが「仕掛学」です。

「仕掛学」という世界初の学問分野を築き上げた著者が、街中で見つけた「これぞ」という仕掛け47種を楽しく解説した新書『なぜ人は穴があると覗いてしまうのか 人を“その気”にさせる仕掛学入門』より、一部を再編集してご紹介します。

*   *   *

仕掛のタネの分類と評価基準

今から紹介するのは、私が街で見つけた仕掛けのタネの一部です。

仕掛けサークルに照らし合わせながら見てみましょう。仕掛けの要件を満たし、ほぼ仕掛けとして成立しているものもあれば、もうひと息で仕掛けになりそうなものもあります。仕掛けのタネをたくさん集めておくことで仕掛けのセンスを養い、新しいアイデアに応用することができます。

ここでは、仕掛けのタネを仕掛けスコアの計算法を用いて評価しています。

まず、仕掛けを評価するためにFAD要件[公平性(F)、誘引性(A)、目的の二重性(D)]にユーモア(H)を加えた4つのポイントでスコアリングを行います。

・公平性(F):倫理的に問題がなければ1点、問題がある場合は0点(必要条件)

・誘引性(A):どれだけ人の注意や興味をひくか(0~3点)

・目的の二重性(D):表と裏の目的がどれだけ巧みに両立しているか(0~3点)

・ユーモア(H):思わず反応してしまうような面白さや意外性があるか(0~3点)

最終的なスコアは次の式で計算します。

仕掛けスコア=F×(A+D+H)

公平性(F)は必要条件です。公平性が欠けている場合、どれほど魅力的で面白い仕掛けであってもスコアは0点となります。

仕掛けスコアが7点以上であれば、仕掛けの要素がバランスよくそろった優れた仕掛けとみなされ、合格ラインとなります。

5~6点は何らかの要素が弱いため改善の余地がありますが、仕掛けのタネとしての可能性はじゅうぶんにあります。

1~4点は要素の欠落が目立ち、抜本的な再設計が求められる状態です。

0は公平性が欠如しており、そもそも仕掛けとして成立していないことを意味します。

立ち位置を変えると見える別世界

大阪の中津駅のプラットホームです。日頃から狭い空間だなと思っていました。

ある日、普段立つ場所とは少しだけ違う場所に立ってみたのです。すると普段は見えなかった消失点が現れました。

自分が現代アートのなかに入り込んでしまったかのような不思議な感覚でした。わざわざ消失点を探そうとしたわけではなく、わずか数十センチ左右に動いただけなのに、これほど印象が変わるとは驚きでした。

立つ位置を少し変えると、日常的な場所が別世界へと変容します。プラットホーム自体が巨大な仕掛けになっています。

偶然の奇跡を逃さない

ニューヨークで自由の女神の像を見上げたら、ちょうど太陽が真上にのぼっていたのです。掲げたトーチの先に太陽を重ね合わせられたら面白いなと思い、ちょうど重なるポイントを探して撮影しました。

観光客は大勢いたのですが、私以外にこの位置で撮影している人はいませんでした。実にもったいない!

街に出て仕掛けを探して歩いていると、こうした偶然の奇跡のような光景を見逃さない習慣が身につきます。自然と体が反応するようになるのです。

写真を撮るときは、角度や位置を少しだけ意識してください。

歩いているときも「あれっ?」と違和感を覚えたら立ち止まり、即座にカメラを構える。フランスの細菌学者ルイ・パスツールの言葉に「幸運は用意された心のみに宿る」というものがあります。感じた瞬間を逃さないようにアンテナを張っていると、いい仕掛けに出会えます。

フレームが新たな意味を生む

東海道新幹線に乗っていると、静岡あたりでつい富士山を探してしまいます。一枚目は駅の窓越しに見える富士山、もう一枚は工場の煙突と一緒に写した富士山です。

単体で富士山を撮るより、窓のような「フレーム」や巨大な人工物を入れたアングルで撮ると、そこにプラスアルファの意味が生まれます。窓枠の富士山は銭湯の壁画のように見えますし、工場と富士山は報道写真のように見えてきませんか?

映像作家やカメラマン、画家などは、作品を作るときに指で四角いフレームを作り、風景を切り取って見ることがあります。

私も研究室に額縁のフレームを置いています。ときどきそれを室内を部分的に切り取るように飾っています。見慣れた研究室でも、何を「フレーム内」に入れるかで物語や意味が生まれ、新たな視点が得られることもあります。

 

*   *   *

人を動かす万能な方法である、「仕掛け」のアイデアを見つけるコツを知りたい方は、幻冬舎新書『なぜ人は穴があると覗いてしまうのか 人を“その気”にさせる仕掛学入門』をお読みください。

関連書籍

松村真宏『なぜ人は穴があると覗いてしまうのか 人を“その気”にさせる仕掛学入門』

「ゴミはゴミ箱に!」の貼り紙より、バスケットゴール付きゴミ箱を置くほうが、街の美化には効果的。 「見えないからこそ、穴の中を覗きたい」という好奇心に働きかけて、覗き穴を使った仕掛けを作ると、自然と人は集まってくる。 ユーモアがあって、つい“その気”になってしまう仕掛けは、人を動かす万能な方法。 「仕掛学」という世界初の学問分野を築き上げた著者が、街中で見つけた「これぞ」という仕掛け47種を楽しく解説。 誰でも仕掛けのアイデアが見つかる6つのコツを伝授する。

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なぜ人は穴があると覗いてしまうのか

「ゴミはゴミ箱に!」の貼り紙より、バスケットゴール付きゴミ箱を置くほうが、街の美化には効果的。「見えないからこそ、穴の中を覗きたい」という好奇心に働きかけて、覗き穴を使った仕掛けを作ると、自然と人は集まってくる。ユーモアがあって、つい“その気”になってしまう仕掛けは、人を動かす万能な方法。「仕掛学」という世界初の学問分野を築き上げた著者が、街中で見つけた「これぞ」という仕掛け47種を楽しく解説。誰でも仕掛けのアイデアが見つかる6つのコツを伝授する。

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松村真宏 大阪大学大学院経済学研究科教授

大阪大学大学院経済学研究科教授。1975年、大阪府生まれ。大阪大学基礎工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。2004年より大阪大学大学院経済学研究科講師、2007年より同准教授、2017年より現職。2004年イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校客員研究員、2012年~2013年スタンフォード大学客員研究員。人を動かす「仕掛け」の研究に取り組む。仕掛けにより、世の中のさまざまな問題を人々が自ら進んで解決するようになる社会の実現を目指している。

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