
一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選んでレビュー。さらに“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作るコーナー。
今月のオススメはこちらです!
また、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長が新刊の中からセレクトする、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」もあわせてお楽しみください!
【元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリスト
アルパカ内田さんが今、売りたい本】
第48回 宮田珠己『そして少女は加速する』

痛恨のバトンミスによりインターハイ出場を逃していた。
傷の癒えぬまま新メンバーで再始動するが、
チームメイトの家庭問題、恋愛問題、怪我、
他校ライバル選手への嫉妬、正規メンバー枠の争奪戦など、
次々に障壁が。コンマ1秒が勝敗を分かつ、
儚いその一瞬のために、少女たちは青春を賭ける!
みなさん、こんにちは。少女に賞状をあげたいアルパカ内田です。
突き抜ける青空がよく似合うこの一冊は、清々しい風を全身に感じさせてくれる。先の見えないこの世には、本書のようなあたりに広がる霧を吹き飛ばすエンターテインメント作品が必要だ。心の底から「こういう物語を読みたかったんだ!」と叫んでしまった。
『そして少女は加速する』は、高校女子陸上部の4継(4×100mリレー)競技の選手たちの物語だ。青春とは決して綺麗ごとばかりではない。栄光と挫折、歓喜と苦悩。光と影の明滅が残酷なまでに胸を締めつける。激しいメンバー争い、プレッシャーにストレス、学業との両立、ままならない恋模様……少女たちを待ち受ける闘いの日々。
たった一回のバトンミスが人生を変えることもある。レースのスタート前にも、フィールドの外にも壮絶な人間ドラマがあるのだ。
レースシーンの臨場感は半端ない。バトンリレーに手に汗を握り、興奮も最高潮。競技場の歓声や選手たちの息づかい、胸の鼓動が響いたあとに、映像が一瞬スローモーションに見え、無音になった感覚がした。文字通り、少女たちと一緒に加速している自分がいたのだ。小説世界への圧倒的な没入感。まさに至福の読書体験を味わえた。たった一本のバトンに託された想い。それは先輩と後輩、ライバルや仲間たちによって受け継がれ、数多の夢と人生を凝縮している。そしてゴールの先にあった息を呑む絶景に身震いがした。ほとばしる汗とあふれ出す涙が丸ごと伝わる、青春小説の新たなスタンダード誕生である。

アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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