
誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに、そんな「待つ時間」をテーマにして選曲&言葉を綴っていただきます。
スクランブルの光とノイズを抜けて、変わらずそこに佇むハチ公の像
君は待ち合わせの目印であり、観光客のセルフィーの背景なのに、物語としてこの街の誰よりも深いリズムを刻んでいて
すべてが速度を求めるこの場所で、ひとり「待つ」ことを選んだ存在がいる事実は、密かに前提的で象徴的
効率や合理性を優先する雑踏にあって、その姿はノイズキャンセルのように純粋な信念を響かせて
真夜中のフロアで酔いの気に包まれながら、君はふとハチ公を思い出しているはず
時代を超えて、ただひとりを待ち続けている想いは、流行を追いかけ消費だけがある渦の中で、逆説的に眩しい
スクランブル交差点は出会いと別れが瞬時に交錯する舞台装置だとして、数秒の視線の交差は次の瞬間には記憶のノイズに消える
君は時間を積み重ね、街の記憶そのものになった
待つことを選んだその姿は、ジョン・ケージの境地にすら近いと誰かが呟いていた
僕はまた誰かを待ち、誰かに待たれながら日々を過ごしてゆく
交差点の人波も新しい音楽も、すべては次の出会いのイントロのだとして、君が示すのは、孤独のアイコンではなく、希望のフィードバック
待つことの意味を忘れたがるこの街で、君は静かに問いかける
「立ち止まる勇気は、まだある?」
藤井風『Hachikō』(2025年、HEHN RECORDS)
渋谷で君を待つ間に

誰かを待つ時間、あなたはどんな風に過ごすでしょうか。
その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
この連載では、そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽を、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに毎回紹介していただきます。
- バックナンバー
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- すべてが速度を求めるこの場所で - 藤井...
- タバコも酒も賭け事も友情も此処に置いて ...
- 君の指先が偶然に触れたとき - 原田知世...
- 始まる音の旅が、あの頃に恋し焦がれた夢を...
- 同じ音楽なのに、違う物語を語り始めて -...
- 騒音の中に差し込む一瞬の静けさのように ...
- 心の奥で鳴り響く拍手がある限り - 中谷...
- 取り返せない今を生きているのだから - ...
- 派手な帽子は苦手なのに - Yellow...
- 西と東からの風が混じるこの場所で - 加...
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- 確固たる想いだけが行方知れずに - 高橋...
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- 甘く優しい気配が君と僕を取り囲んで - ...
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- ゆっくりと二人の境目が薄らいで - 坂本...
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