
私たちの身近にはたくさんの神様がいますが「湯気」も神様だったようです!
神職さんが教えてくれる『神様と暮らす12カ月 運のいい人が四季折々にやっていること』より、貴重なお話。
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茶の湯を通して気づいた、神様の存在
私が湯気を尊ぶようになったきっかけに「茶の湯」があります。
おつとめしている神社の秋祭りでは、「祭り釜(がま)」と言って、氏子(うじこ)さんに抹茶と生菓子をふるまうお茶席を設けているのですが、そこでお茶を点ててくださっている裏千家の先生に、数年前から茶道の稽古を受けています。
茶の湯の場合、お湯の入った釜のふたを、閉めているときも、すこしだけ開けています。これを茶道では「釜のふたを切る」と言うのですが、そうすることによって、釜からはいつも、すっとした湯気が、清らかに立ち上っています。

まず、茶碗を客人の前で清めるさいに、柄杓(ひしゃく)でお湯を茶碗にそそぐ。このときも、釜のふたを開けて湯気がふぁー。お湯をすくった柄杓からも湯気がふぁー。お湯がそそがれたお茶碗からもかすかな湯気がふぁー。柄杓を蓋置においても、柄杓からはまだ湯気がふぁー。また釜のふたを切っておくと、そこから細い湯気がふぁー。
抹茶を入れ、湯を入れて練る時にも、客人が茶を飲み、返ってきた茶碗を清めるときにも。何回湯気が、ふぁー、となることか。でもその湯気が、なんともいえず、心をやすらかにし、癒し、お菓子や抹茶の味同様に、滋味があるのです。
茶室という、ほぼ何もない空間に立ち上る湯気。
「火」のように現れては消え、つかむことのできない姿をした「湯気」。
これこそ神様ではないのか。私は湯気に神様を感じて、たいへん興奮しました。千利休に弟子入りした名だたる武士たちも、明日をも知れぬ命で一杯の茶をいただく時、ほほをあたたかくしめらせる湯気に、神様を感じたに違いない、と思いました。
お抹茶は、「お茶碗をまわしてから飲む」というイメージがありますよね。実際、裏千家では時計回りに2回、すこしまわしてから飲みます。
どうしてかご存じでしょうか?

茶碗には「正面」があり、正面から見る景色がよいので、亭主は客人にその「正面」を向けて出します。でも、客人は茶碗の正面に口をつけることを控えて、すこし横にずれたところに口をつけるために、まわすのです。これは「正面」をさけることによって、謙遜をあらわしていると言われますが、私は「神様に正面をゆずっている」と解釈しています。
神社の参道も、真ん中は神様の通り道なので、参拝者は真ん中を避けて歩きます。
拝殿でも、神様の真正面のラインは「正中」(せいちゅう)と呼ばれ、そこを横断するときには身を低くします。
神聖な空間では、正面はいつだって「神様専用」なのです。
お茶室に入った客人は、ただじっとお抹茶を待っているあいだに、「今この瞬間に自分をとりまくすべてのもの」に敏感になります。八百万の神々の存在を身近に感じる。そこへ湯気がふわーっと立ち上るのですから、もう「湯気が神」で、茶室は名も知れぬ神々のおわす神聖な空間になります。だから茶碗の正面を神様にゆずるために、ごく自然に、茶碗をまわすという所作が生まれたのではないかと思うのです。
点心のお店からはみ出している湯気。蒸籠(せいろ)を開けたとき、歓声とともにひろがる湯気。お母さんが作ってくれたラーメンから出る湯気。雨に濡れて帰り、お風呂につかった時の湯気。たくさんお酒を飲んだ翌朝に食べる、お味噌汁から立ち上る湯気……。
だれかと湯気を共にする。
だれかと湯気を祝言(ことほ)ぐ。
だれかに湯気をもてなす。
だれかを湯気でねぎらう。
ふだんの暮らしの中で、すぐできることですが、じつは私たち、湯気という神様と遊んでいるのだな、と意識してみましょう。
身近な神様に気づくことで、きっと運が動き出しますよ。
(つづく)
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