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彼方からの手紙

2025.09.28 公開 ポスト

父母とプレゼント清水ミチコ/光浦靖子

「国宝」の噂、カナダにも届いてますよ。今度映画祭?がバンクーバーであるんですね。なんか各国のいろんな映画が上映されるみたいです。で日本人の友達に聞かれました。「光浦さん、国宝見に行きます? 評判いいですよ」と。みんななんでも知ってます。

 

違法なのか合法なのかわかりませんが、なんか日本のテレビがリアルタイムで見られるチャンネルがあるんですって。で、こちらに住む結構な数の日本人がそれを見ています。私よりずっとずっと詳しいです。こないだは令和ロマンがもう一度M-1に挑戦することの利点を語られました。私はすでに昔の人間で、令和ロマンも正直、カナダに来てから知りまして、もちろん一緒に仕事をしたことはありませんで、「どう思いますか?」と聞かれても「うーん…」しか返せませんでした。
 

先日、両親がカナダに遊びに来ました。もうこれが最後の遠出になるだろう、と言って…いや、わかりません。15年くらい前、「私らが元気なうちに家族で旅行がしたい。冥土の土産に」と言われ、光浦家御一行の奄美大島旅行をセッティングしました。そりゃ幹事は大変でした。でもその旅行が冥土の土産になることはなく、そこから何度か旅行に行っています。両親は旅行をねだるときに「冥土の土産」という言葉を使うようになりました。憎まれっ子世に憚る、と言いますか、あそこが痛い、ここが痛いといつも言ってる人は逆に長生きすると言いますか、死ぬ死ぬ言ってる人は死なないと言いますか、うちはまだまだ長生きしそうです。

父親は元々のド近眼に加え、老眼、白内障、緑内障、眼瞼下垂、目の調子がなかなか良くなく、本人曰く「視野が狭い」そうです。危ないので杖をつきなさい、と言っているのですが「内田裕也じゃないんだから。似合わないから嫌だ」と言います。おい、内田さんのは特別だから。おしゃれな細工が施された、武器にもなる、ロッケンロールなやつだから。私らが勧めてるのは、ただ歩きやすくするやつだから。

バンクーバーは本当に健康志向な街で、北米では珍しく肥満率が非常に低いんですって。そう言われりゃ確かに。みんなよく走り、よく歩きます。ここでの娯楽ぶっちぎりのナンバーワンはハイキングです。年の半分が雨になるという気候のせいもありますが、夏場、晴れのシーズンは朝から晩まで本当にみんな外に出て歩きます。お年を召した方はハイキングスティックを使っています。先の尖ってないスキーのストックのようなもんです。私も山登りの時一度使ってみたのですが、すんげぇ楽です。人間が二足歩行になる前の長い歴史がDNAに記録されているのか、「これ、これ、これだよ」てな感想を持ちます。で、父親と、最近膝の悪い母親に「バンクーバーではハイキングスティックつくのが当たり前だから」と誇張しながら、無理くりハイキングスティックをプレゼントしました。

「なんて楽なんだ! ありがとう!!」こういう答えが返ってくるもんだとばかり思っていたのですが、リアクションは地味なものでした。「ありがとね…うん…ま、ある方がいいかもね…うん…ちょっと長いかなぁ…いや…うん…ちょうどいい…ね…ありがとうね」。「ありがとね」と「ありがとね」の行間よ。いつもと違う他人行儀な遠回しな表現。完全拒否じゃねーか、そう思いました。
 

清水さんはプレゼント、選ぶの好きですか? 嫌いですか? 私は人によりけりです。私はマネージャー仲本へのプレゼントを選ぶのは好きです。なぜなら、喜ぶツボがわかりやすいからです。彼女は「店で最後まで売れ残ってしまいそうな、可愛いというジャンルにありながら可愛くないことが可愛いモノ」が好きです。わかります? リアルのダサいやつはダメなんですよ。ちゃんとオシャレだし、可愛いはずなのに、なんかダメなやつ、もうちょっと頑張れよ、なやつが好きなんですよ。だから人力舎に就職したんだと思います。人力舎の若手が好きなんですよ。面白いっちゃあ面白いけど、テレビ向きでないというか、キャッチーなところがなくて、性格はいいんだけど、うーん売れないなぁ、てな若手が好きなんですよ。つーか、売ってやれよ。仕事だろ。

仲本には去年、アルパカのぬいぐるみをプレゼンとしました。本物のアルパカの毛を使ったふわふわの、でも不細工な、妙に悲しい顔をした、哀愁を帯びたアルパカのぬいぐるみです。仲本ももう40代です。40代の女性にぬいぐるみ、これ自体がもうなんというか、実用性に欠けてますでしょう? プレゼントに必要な、普段できないちょっとした贅沢、でもないでしょう? なんでこれ? そこがもう彼女のツボなんですね。普段から声の小さい仲本が「ゎー」と、囁くように仲本なりの歓声をあげていました。満足、満足。

プレゼント選びで一番難しい人間が森三中の黒沢です。御存知の通り、彼女には彼女の細かいこだわりがあって、我々凡人には理解できません。黒沢はよく私にお土産をくれるので、しかも「靖子さん、これ好きでしょう?」と私のことを考えて買ってくれるので、もらって嬉しいものばかりなので、私も一回はそれに応えたい。でも、一度も応えられていない。

ある年の誕生日に黒沢の好きな、黒沢と一緒に行ったことのある原宿の店でバッグを買いプレゼントしましたが、どうやら好みでなかったようです。「好みでない」なんて、そんなこと彼女は言いませんが、目の奥の光を見ればわかります。ある年は、黒沢の好きな、黒沢と一緒に行ったことのあるスニーカー屋でスニーカーを買いプレゼントしましたが、これもどうやら好みでなかったようです。気を使って喜んでくれているようでした。すげぇ早口で、独演会のようなボリュームで話し始めましたから。これだけ付き合いがあるのに、彼女の好みがわかりません。もう、実用的なものにしようと、ある年は、巻き爪の黒沢に、職人が作った巻き爪用の爪切りをプレゼントしたことがあります。それも不発だったようです。何をあげれば彼女は喜ぶのでしょうか。わかりません。私が知ってる確実に彼女が好きなものは「黒豚」です。黒豚のお肉は何キロくらいがお誕生日プレゼントにふさわしいのでしょうか?


話は旅行に戻りますが、今回、両親と妹、姪っ子の4人でバンクーバーに来たんですね。で、彼らはノースバンクーバーのエアビーに滞在しました。だから市内に出るのに、毎回シーバス(船)に乗るんです。15分そこらの移動で、快適で、乗り場にはトイレもあって(バンクーバーは駅にトイレはありません)、海の向こうに見えるダウンタウンのビル群が太陽の光に反射してキラキラしてて、私はとても好きなんですね。

待合室の扉が開いたら乗客が一斉に船に乗り込みます。席が全部埋まるということはありませんが、5人が横一列に座ろうとモタモタしてると、間にスッと誰かに座られたりもします。ある日の帰り、いつものように光浦家がモタモタしておりましたら、母だけが少し離れたところに座ることになりました。でももう、シーバスに乗るのも5、6回目で新鮮味も薄れ、みんな歩き疲れてちょっと眠りたく、別にどこに座ってもいいじゃん、な感じだったのに、父親が「お母さんが一人だと可哀想だから」と、立ち上がり、わざわざ母親の横の席まで移動したのでした。え? 私が18歳まで一緒に住んでいた頃は厳しく、とにかく怒っていたイメージしかなかったのに。こんな一面が?

遠くから観察しました。二人でなんか楽しそうに喋っていました。四六時中一緒にいるのにね。二人がとても可愛く見えました。なんかきゅんというか、ほろっときました。

【靖子の近況】

家族で行ったペルシャ料理のレストラン。

 

関連書籍

清水ミチコ『カニカマ人生論』

すぐに「気負け」して泣いてしまう少女の頃の笑えて切ない思い出。永六輔さん、タモリさんはじめたくさんの大切な人たちとの巡り逢い。自分の弱さやセコさにぶち当たりながらも、日常の些細な面白みを慈しみつつ、「若い頃よりクヨクヨしなくなった」と思えるようになるまでの様々な出来事。武道館を沸かせる国民の叔母(自称)の、自伝エッセイ。

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彼方からの手紙

清水ミチコさんと光浦靖子さんが月1回手紙を送りあうリレーエッセイ

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

光浦靖子

1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。テレビやラジオで活躍する一方、手芸作家、文筆家としても活動。著書に『『50歳になりまして』『お前より私のほうが繊細だぞ!』『傷なめクラブ』など多数。2021年8月よりカナダに留学。現在は、就労ビザを取得し、カナダで生活を続けている。(写真:山崎智世)

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